09 少女の訪問
魔力が込められた高級な装備を着こみ、フロリマールは相棒である魔術師フローレと共に冒険者ギルドのホールに到着した。
最近は閑散としていた冒険者ギルドのホールだったが、今日は少し賑わいがある。
従軍希望の冒険者の受付を行っているからだ。
しかも、今回は魔王討伐隊への参加を募集するものだった。
つまり、勇者ロラン一行と共に魔王に立ち向かう者を募っているのだ。
フロリマールはギルドの受付嬢に声をかけた。
「魔王討伐隊に加わりたいんだが、いいかな?」
「レベル10のお二人であれば大歓迎です!
では、面接がありますので、ホールで少々お待ちくださいね。」
「面接?審査があるのか?」
「ええ、お手を煩わせてしまい申し訳ありません。当然、ギルドはお二人の実力を重々存じ上げております。
ですが、今回は騎士団との連携になりますので……どうか、ご容赦ください。」
「いや問題は全く無いさ。
だが、面接ね。どんな奴が審査してくれるのやら。」
「フロリマール。わたし、面接なんて、苦手かも。」
フローレが不安そうに訴えた。
「まともな奴なら、俺たちの実力なんかすぐ見抜くだろうさ。」
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受付の脇で掲示板を眺めていると、聞き覚えのある少女の声と受付嬢の会話が聞こえてきた。
「忙しそうなところごめんねー。ギルドのツテか何かで、だれか王国の偉い人に会えないかしら?大事な話があるの。」
「ギルドではそういった仲介はしておりません、シスタージーさま。
と言いたいところですが……今日は奇遇ですね。
騎士団の方とお会いできるチャンスはあります。
ただ、条件がございまして……。」
振り向くと、窓口には教会の白いローブを来た、あのエルフが立っていた。
「あ、あの人。」
フローレも気付いたようだ。
「ああ、リナードを手伝っていたエルフだな。
国の偉い人と会いたい、か。やっぱり何か意図があってリナードに近づいたのかもな。」
「そうかなあ。」
耳をそばだてながら、じりじりと受付のほうへ近づいていこうとしたが、
「それでは、フロリマール様、フローレ様、シスタージー様。
奥の応接室へお越しください!」
エルフは二つ返事で魔王討伐隊への参加に応じたようだ。
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フローレが「どうもー」と会釈をすると、シスタージーも微笑んで会釈をしてくれた。人当たりは良さそうだ。一方的に遠目から見たことがあるだけなので、これまで面識はない。
「あたしはフローレです。こっちがフロリマール。いろんな経験を得るために二人で冒険者をやってます。シスタージー様は、神官様、ですね?」
フローレが挨拶をする。フロリマールも軽く頷いて会釈をすると、「シスタージーと呼ばれてるわ。よろしくね。」と返ってきた。
服装と名前で神官であることはすぐに分かった。
教会の白いローブを羽織っているし、シスターエーとかシスタービーとか言うのは教会勤めの神官が使う伝統的な偽名である。
大昔の聖人が提案したらしい。みな同じ格好の神官たちをとりあえず区別することができる。
「やっぱり、エルフの秘術とか使えるんですか?すごい魔法を!」
「え?さあ、どれが秘術なのか分からなくて……」
フローレは色々聞きたいようだが、それほどギルドの建物はそれほど広くもない。ほぼ何も話せないまま応接室の前に着いてしまった。
なんとなく三人の先頭に立つことになったフロリマールは、ささやかな緊張感を持ってドアを開ける。
「よう!久しぶりだな、フロリマール!」
「君も来てくれるか。心強いよ。」
予想外の人物に出迎えられたフロリマールはつい立ち止まった。フローレに追突された感触が背中にあったが、気にしてはいられない。
応接室には、実務的でやや古めかしい長方形のテーブルを挟んで、年季の入ったソファが向かい合うようにいつも置かれている。
そのソファの前に立っていたのは、輝かしい騎士団の鎧に身を包んだ二人だった。
「ロラン!アストル!久しぶりだな!」
勇者ロランと、騎士団随一の戦士アストルである。
冒険者ギルドに所属しているが、他国の王の血族でもあるフロリマーレは二人と面識がある。
「良いのか?フロリマール。修行中の身なのだろう。
魔王討伐に参加するなんて国が許してくれたのか?」
「許しを得るのにちょっと時間がかかったけれど、気にしなくていいさ。王の一族って言っても別に時期国王って訳でも無い。立場で言ったら、ロランだって似たようなもんだろ?」
気を使う勇者さまに対しフロリマールは軽く返した。
大勢いる兄弟・従兄弟に競い負けないよう力をつけるには、危険な目にも合わなければならない。とっくの昔に覚悟していることだ。
「たしかにそうだな、ハハ。
おっと、すまない。面接は三人ずつになっていたな。
後は、当然フローレさんと……シスタージー、さん。神官の方か。
冒険慣れしている神官の方は珍しいな。
どうぞ、中に入ってくれ。」
「面接ねえ。どうも、よろしくな。」
フロリマールが応接室の中へ歩を進めると、後ろからフローレが入ってくる。
顔見知りであるロランとアストルを確認したとか、ほっ、と息をつくのが聞こえた。
そして、その後ろからシスターが入ってくる。
フロリマールの目の前で、アストルの足元からミシリと床板のなる音が聞こえた。
フロリマールは持ち前の洞察力には自信があった。
アストルは今、わずかな動きで重心を下げ、戦闘の構えを取ったのだ。だが、ほぼ同時にロランの片手がアストルの肩を抑えた。それは、「動くな」という合図だ。
ふたりとも、目をかっぴらいてシスタージーの方を凝視している。
「あら、また会ったわね。勇者さまに、アサシンさん、でしたっけ。」
シスタージーは朗らかに、ロランと、おそらくアストルに声をかけた。
声をかけられた側は固まって返事もしない。
「なんだ、みなさん顔見知りなのですね。良かったです。」
剣呑な雰囲気の中で、呑気にフローレが喜んでいた。




