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魔王幹部少女の好き勝手  作者: もじゃね
マコと王国
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07 ハヴアブレイク

 ガットの背に乗り飛び立ってから、おそらく1時間ほどが経った。


 城砦から見えていた険しい山々を、今まさに超えようとしているところである。


 かなりの高度を飛んでいるために気温は低いのだが、何の痛痒も感じない自身の体にマコは感心していた。


「こんなに寒いのに、痛みが全く無いのは不思議ね。」


「ご安心ください。マコ様が凍傷を受けるほどの高さまで昇ってしまいますと、私の体が持ちません。」


「ほー。……雷に弱くて冷気にも弱いって、ドラゴンとしていいの?」


「マコ様を基準にすると、大体の生物はか弱い部類になるかと。

 おや、平原が見えてきましたね。」


 マコたちの直下はまだ険しい山脈であったが、ガットの頭の向こう側を見れば、うっすらとした黄緑色が目に入ってきた。


「この山脈が領土のだいたいの境界になっているとネオ様より聞いております。

 あの平野からは人の領域であるはずですが……見張り台も何も見当たりませんね。」


 ガットの言葉を聞いてマコも地上を眺めてみたが、建物も何もない。

 魔族の領土側では高い山と山間の森によって厳しい自然を感じていたのだが、山を越えてみれば、見渡す限りの草とちらほらと生える背の低い木によってのどかさを感じる風景になっていた。


 その中に、キラキラと光を反射する一筋のラインをマコは見つけた。


「あら、あれは川よね。ちょっと降りて休憩しましょ。」


 ガットは「は。」と返事をして高度を下げ始めた。若干ため息が混じっていた気がする。


 マコは浮遊感を感じながら、緩やかに蛇行しつつ地平線まで続いている川を観察した。

 小川かと思っていたが、すこし近づいたところで、20メートルぐらいの幅の川であることが分かった。

 流れは穏やかで、川底の石ころが見えるほど水は澄んでいる。

 それほど深くも無さそうだ。


 ガットがふわりと着地して、重力が戻ってきた。


「じゃ、水浴びしてくるわ!」


「ごゆっくり。」


 マコが背中から降りると、ガットは背筋を伸ばしていぶかしそうにあたりを見渡しだした。

 駅で主人の帰りを待つ忠犬のような姿勢である。


「もっとドラゴンらしく堂々として居てもいいと思うわ。」


「卵のころから人間に育てられましたから、もう癖みたいなものです。」


「ふーん、そんなモノなのね。」


 マコは適当に納得して、20歩ほど離れてから手袋をはずした。




「さすがにお風呂は無理だけど、水浴びくらいはしないとね。」


 昨夜この世界に来てから、一度も体を洗っていない。

 別に汗をかく様なことは一切していないので汚れてはいないのだが、現代人として最低限の義務感がある。


 ぎこちない手つきで服を脱ぎ捨てて、川のほとりに近づいた。


 石や木の枝が足に刺さったら危ないと、無用な心配をしながらマコは川を覗き込む。

 すると、16、7歳ぐらいの裸の金髪少女と目が合った。

 足元の草葉より透き通った緑色の眼が、こちらを不思議そうに伺っている。


「うわっ!」


 マコは飛びのいた。


「どうされましたか!」


 ガットの警戒の声。

 それに対しマコは、


「私が!かわいい!」


 と、大声で答えた。





「マコ様、まずは深呼吸を。頭痛や吐き気はありませんか?」


「いや高山病じゃないわ。ごめん、何でもないの。ヘーキヘーキ。」


 手をひらひら振ってから、マコはゆっくりと川に入った。


 うつむけば、水面に無表情の美少女の顔が映る。


 ゲームの頃も可愛くはあったのだが、当然それはただのCGモデルであり、作りもののキャラだった。

 だが、いまは違う。

 マコはここに実在するリアルな美少女である。


 水面に映った美少女は、まつ毛の向きや整った歯並びを興味深く確認すると、編み込んでいた髪をほどいてニヤニヤと笑いだした。


 これまでどおり回復役としてプレイするのも良いが、麗しきエルフの剣士の冒険者というのもいいかもしれない。

 ゲームでは無理だったが、弱きを助け強きをくじく義賊にだって成れるかも知れない。


 自分の顔を見て、『マコ』という別の人間になってしまったという実感をようやく得た。

 それと同時に、これからは何にでもなれるという不思議な万能感をマコは持っていた。


「ネオに感謝だわ。」


 そうつぶやくと、川に潜って頭をワシャワシャと洗った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 マコが川から上がって服を着ても、ガットはまだ遠くを眺めていた。


「何かある?」


「いえ、何もございません。人の住処まではかなりの距離があるでしょうね。」


「わかるの?」


「このように豊富な水もある肥沃な大地であれば、農耕や遊牧ができます。にもかかわらず、開拓の準備がありません。近くに村や町は無いでしょう。」


「ほー。じゃあ、まだ人でも魔族の領地でも無い土地ってことか。」


「そうかも知れません。」


 マコは足元の石を拾うと、1文字1メートル程もある字を、川のほとりにガリガリと書いた。


「それは何でしょう?」


「『MAKO』のサイン。ここは私の領地よ!」


「……それだけで領地を主張するのは難しいかと。あと、読めません。」


「もー、遊びみたいなモノよ。さ、出発よ。」


 首の付け根にマコが飛び乗ったのを確認して、ガットは早速羽ばたきだす。

 マコの髪が風になびいたところで悲鳴が上がった。


「しまった。髪の編み方が分からないわ。」


「今までどうなさっていたんです?」


「いやー、他人に任せていた、感じ、かな?」


 ぼんやりとした返事で誤魔化しながら、腰ぐらいまである長い金髪を束ねて弄ぶマコに対して、ガットは「はあ」と返事をして飛び立った。


急な転勤があり、更新を怠っておりました。申し訳ございません。

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