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魔王幹部少女の好き勝手  作者: もじゃね
マコと王国
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05 伝説の勇者

「魔王は召喚されたデーモンだとして、あのエルフは何なんでしょう。エルフを呼ぶ召喚術ってのは聞いたことがありません。」


 片膝をついて王に頭を下げていたロランの横で、アストルが遠慮なく王に疑問を投げかけた。

 シャール王は、手元の報告書を眺めながら口を開く。


「不可能ではないのだろうが、も聞いたことは無い。瞳の色は緑だったそうだが、そんな種族のエルフとは会ったことは無いな。……ところで、お前たちは、『リザレクション』という魔法をどこで知ったか、覚えているか?」


「え?ええ、もちろん『勇者物語』ですよ。このおとぎ話を知らない男子はこの国には居ないでしょう。」


 そう返事をしながら、アストルはロランを見てニヤリと笑う。

 ロランは頷いて同意した。


 『勇者物語』というおとぎ話は、フランリング王国のみならず大陸中で良く知られている。

 神から遣わされた勇者が魔王を倒すまでの冒険を描いたものだ。

 作中では『ファイアーボール』や『レイズデッド』などの実在する魔法に混じって、酸と雷雨の嵐を呼び出す『ヴェンジャンスストーム』や遥か遠くの地へ一瞬で移動する『テレポート』と言った、とんでもない魔法がたびたび登場する。

 『リザレクション』も、そんな伝説の魔法のひとつであった。


 ちなみに、ロランが『勇者』と呼ばれているのは、この勇者が由来である。

 自らを『魔族を勝利に導く者』と呼んだネオに対して、『魔王』という呼び名がすぐに定着したのも『勇者物語』によるものだ。

 アストルがロランを見て笑ったのはそのあたりのことを踏まえてだろう。


 二人の反応を見たシャール王は、どこか気まずそうに白髭を撫でた。


「うむ、まあそうだろうな。では、物語の主人公である勇者のモデルとなった人物がいることは知っているか?」


「もちろんです。何百年も前に実在したと言われる『聖人エス』でしょう?相当な回復魔法の使い手で、旅をしながら多くの人々の命を救ったとか。」


「そのとおりだ。神の奇跡を行使したとされる者たちは『聖人』と呼ばれているが、その中でも、『聖人エス』は色々と変わった逸話が残されている。」


 王の言葉を聞いて、アストルとロランは顔を見合わせた。


 歴史上、様々な『聖人』の記録は残されているが、神の奇跡を起こしたとされるだけあって、どれも超常的で信じがたいものばかりである。

 いわば、どれも『変わった』ものであるため、変わった逸話と言われても思いつかない。


 その時、部屋の外から謁見を求める声があった。

 聞きなれた、オリビアの声である。



「オリビアについてだが、昨晩帰還してから、夜通しで教会の蔵書を読み漁っているようだと、司教のテュルパから連絡があったのだ。間違いなくコレのことであろうが、さて、どんなことを言い出すのか。――オリビア、許す!」


 報告書を軽く持ち上げて、王は少し不安そうな面持ちで謁見を許可した。

 オリビアに謁見を求められて、王がこのような素振りを見せるのは珍しいことだ。


 オリビアは人々から賢者と呼ばれている。

 始めは、若くして攻撃魔法と回復魔法の両道に通じていることから賢者と呼ばれていたが、パラディンの地位についてからは、その冷静で的確な判断力を讃えて呼ばれることが多くなった。

 オリビアの方から謁見を求めるのは、状況を打開する献策の場合が多いため、歓迎すべきところである。


 王はオリビアが何を言い出すか、予想がついているようである。

 先ほどの聖人エスの話と関係することだろうか。


 玉座の間の扉がゆっくりと動き、開ききる前に隙間からオリビアが入ってきた。少しせわしない。

 徹夜のためか、目つきが悪い。服装は戦闘用のローブのままで、小脇にいくつかの本を抱えている。

 オリビアはロランと目が合うと、軽く頷いた。


「陛下、本日は――。」

「いや、平時ではあるが挨拶は省いてよい。報告はロランとアストルから聞いている。本題に入ってくれ。」


 片膝をついて臣下の礼を取ろうとしたオリビアを遮って、王は先を促した。


「失礼いたします。魔王の部下を名乗ったエルフについて、お伝えしたい儀がございます。」


 ふとロランが横を見ると、アストルまで不安そうな顔をしている。


「はじめに、800年前に実在したとされる『聖人エス』の逸話についてお耳に入れたく。

 多くの聖人の記録の中でも、『聖人エス』については、多くの不可思議な逸話が残されております。まず、それを取りまとめて参りました。」


 抱えていた本の隙間から紙を取り出し、オリビアは読み上げ始める。


「一つ。当初、彼は誰も理解できない言語を話し、この世界の言語は自力で習得したそうです。

 二つ。彼の出自は全く不明。出身地を尋ねても、『メリカ』などと、誰も聞いたことの無い地名を返したとのことです。

 三つ。膨大な魔力と強靭な肉体を持っていたにもかかわらず、彼は殺生を好みませんでした。彼自身、人・魔族に関わらず、生物を虐殺して魔力を奪う様な事はしたことが無いと話したそうです。

 四つ。多くの回復魔法や支援魔法の他に、遺体の欠片からでも復活を成功させる『リザレクション』、自身より悪しき心を持つ者を打ち払う『スマイト・ヘレティック』や『ライタス・スマイト』を使用し、人々を魔族から救ったとあります。この四つ目の部分は聖人と呼ばれる所以であり、おとぎ話などにもなっております。」


 淡々と話すオリビアの言葉を聞きながら、ロランは冷や汗をにじませた。


 四つ目の伝説だけは誰もが知るところだが、一つ目から三つ目までは、はじめて聞いた記録である。


 魔王の城砦での、マコとの会話が思い出される。

 最初の言葉が全く聞き取れないものだったこと。

 聞いたことの無い地名らしき『オーサカ』という単語。

 アストルが復活しないと聞いた時の彼女の妙な焦りよう。

 そして、なにより、『リザレクション』。



 オリビアは、ロラン向かってもう一度頷くと、シャール王に自身の考えを端的に述べた。


「『聖人』としてお迎えすべきかと。」


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