03 ハヴアグッドイヴニング
「さて、今後についてだが。」
マコはニヤニヤ、ガットは憮然としていて、緊張感は皆無なのだが、何事も無かったかのようにネオが話し出した。
「まず、我輩は魔族の領土を探索しようと考えている。」
「あら、人間の領土では無いの?」
「ここ数日、ガットと共に、人間の領土と魔族の領土との境界線の辺りを巡回していた。マコを召喚した辺りもそうだ。だが、一向に魔族を見かけん。」
そうしているうちに勇者たちの待ち伏せを受けて危機に陥ったわけかー、とマコは理解したが、ネオが一応真面目な顔をしているので茶々は入れない。
ガットは雷魔法に撃ち落とされたことを思い出しているのか、緊張した面持ちになっている。
「先日の人間と魔族の戦いは、魔族側の完勝だ。魔族にとって、領土を奪還する絶好の機会のはず。我輩はその手助けをするつもりだった。しかし、魔族の部隊どころか、偵察すら見当たらん。魔族側がどういった状況か、確認する必要がある。」
「なるほど!そこで、魔王が降臨し魔族達を導く、と。ここから起死回生の快進撃が始まる訳ね!」
これがゲームならばストーリーの山場である。
それに立ち会えるのだと興奮気味のマコに、ネオはゆっくりと頷いた。
「魔族と話がついてから、人間の領土に攻め込むとしよう。人間を追い払うだけであれば我らでも可能だが、占領や復旧となると人手が足りん。魔族に任せるのだ。」
ネオはそう言ってから、服のポケットに手をいれて何かを取り出した。
「出発の前に、これを受け取ってほしい。」
キラキラとした楕円形のペンダントをマコは受け取った。首にかけるためのヒモもついている。
ゲームなら、こう言ったアクセサリーには防御力アップや状態異常を防ぐ効果があるものだ。
「どんな効果がついているの?」
「いや、特殊効果は無い。復活魔法を使うのには宝石を消費するだろう。いざという時に使ってくれ。」
「ああ、なるほどね。」
そういえば、マコは宝石など持っていない。
ペンダントをよく見ると、ダイアモンドのような宝石が散りばめられていた。
レベル上げをしていると腐るほど手に入るものだったため、ゲームでは手持ちの数など気にしていなかったが、現実ではそうはいかないだろう。
……ところで、なぜペンダントにしたのだろうか。
「せっかくなら、袋に大量に詰め込んでくれたら良いのに。」
「マコ様、それでは味気ないプレゼントになってしまいます。この形で渡すのが男心というものです。」
ガットに男心を諭されてしまった。ややこしくなるので、『私も男よ。』などとはツッコまない。
女性にペンダントをプレゼントする、と言えば何もおかしくは無いが、相手はマコである。
一般の女性であれば少なからず喜んだかもしれないが、元男性の身としては全くうれしくない。
もしや、ネオはマコのことを元々女性であると信じ込むことにしたのだろうか。
そういえば、男性であるという証拠などをネオに見せたことは無い。困ったことに、今となっては見せることもできない。
告白を断る方便として男性であると嘘をついたのだ、とでも思っているのだとしたら訂正せねばならない。
「分かってると思うけど、わたしはこういった形にされても全く嬉しくないわよ……あら。」
ペンダントを眺めるのをやめてネオの方を見ると、いつのまにか召喚用の魔法陣が現れていた。
すでに角の生えた馬の頭が魔法陣から現れている。
「マコよ。山を下ればすぐに小川があり、ふもとの森には食料になるものが豊富だ。」
「へー。」
これから遠出するのに、なぜ山のふもとの話をするのだろうかと、マコは不思議に思った。
「魔法も駆使すれば生活はたやすかろう。いまひと時は、この世界でスローライフを楽しむが良い。」
「……え?」
馬はスムーズに召喚された。マコが武器を召喚してもらったときよりも早い。
名前はわすれたが、ゲームではザコ敵として登場する2本の角を持つ黒い馬の魔獣だ。
「何日掛かるかは分からぬが、可能な限り早く戻る。では、帰りを待っていてくれ!」
「ええーっ!」
ネオが颯爽と飛び乗ると同時に、魔獣は走りだした。
石畳の山道を下って、あっという間に見えなくなってしまった。
あっけにとられているマコに、ガットが声を掛けてきた。
「あの、マコ様。川の場所も果樹林の場所も存じておりますので、食事にしませんか?」
「いやいやいやいや、わたし達は何故置いて行かれたの!?」
「え?普通のエルフは魔族の敵ですし、ドラゴンに至っては人間にとっても魔族にとっても脅威となる存在です。マコ様の身の安全もそうですが、魔族と交渉することを考慮しますと、ネオ様お一人の方が色々と捗るでしょう。」
たしかに、マコがついて行くと色々とややこしくなるであろうことは想像に難くない。
しかし、理解は出来ても、納得する気はない。
ネオが魔王として降臨するシーンを見られないのも納得はいかないが、マコにとっては、召喚された次の日に置いてきぼりにされることも気に入らない。
これでは回復アイテム代わりに召喚されたようなものである。
「酷いわ!夜中に呼び出しておいて、コトが済んだら置いていくなんて!」
とんでもなく人聞きが悪い。
無論、そう聞こえるようにマコが言葉を選んだ結果であるが、聞いているのはドラゴン一匹である。
「マコ様、そうおっしゃらずに。お留守番、お供いたします。」
安全第一がモットーのガットは留守番に大賛成なのだろうが、マコにとっては一大イベントに参加できないようなものだ。
しかし、もう遅い。
いくらレベルの高いマコでも、一度見失った馬を見つけて追いつく方法は思いつかない。森の中では、ガットが空から探しても見つけられないかも知れない。
ゲームなら遠くにいるフレンドにメッセージを送ることもできたが、今は不可能。
『テレポート』という便利な移動魔法はあるが、一度行った場所にしか行くことができない。
「あの、マコ様?」
マコの苛立ちを見て、ガットは不安そうに声を掛けてくる。
「一人だけ楽しそうなコトして!なんでそれの帰りを待たないといけないの!?」
「恋人が帰りを待っているからこそ一所懸命になれる。これも男心でございます。」
「恋人じゃないわよ!」
「おや、そうは見えませんでしたが。」
ガットの言葉は無視しつつ、マコはガットの背中に飛び乗った。
首を曲げてマコの様子を伺うガットに向かって、日が昇ってきた方向を指さしながら命令する。
「……あっちに行きましょう。」
「マコ様、川や果樹林は別の方向ですが……」
「分かっているわ。山を越えてずーっと先よ。」
「勇者が逃げた方角では無いですか!何をお考えで!?」
「遊びに行く!勇者が逃げた先には集落か町があるはずよ!戦争のけが人もいるだろうから、回復呪文を使いまくってチヤホヤしてもらうの!」
「裏切りですか!?嫌です!そんなのに手を貸して、ネオ様になんとご説明すればよいか!」
「わたしに脅迫されて仕方無く送り届けた、って言っていいわよ!」
「……わたくし、嘘が苦手でして。」
ガットは躊躇して、なかなか首を縦にふらない。
マコの今の身体能力なら山越えぐらいなんてことは無いかも知れないが、目的地の場所はわからないのだ。空から探すためにも、ガットの協力は必要不可欠である。
マコはガットの翼の付け根を撫でながら、説得を試みる。
「ドラゴンの翼って結構レアなアイテムなの……飛ばないなら、コレ、要らないわよね?」
「あ、嘘はつかずに済みそうです。」
翼を大げさに何度も羽ばたかせてから、ガットは潔く飛び立った。




