02 グッドアフタヌーン
レースとリボンだらけのドレスを着ようとしたところで、マコは手を止めた。
「なにか忘れている気がする。」
ネオに何か言おうと思っていたはずなのだが。
「ああ、ネオとはタメ口で話そうと思っていたんだった。」
寝起きだったこともあって、ボンヤリしたまま会話をしてしまったのだが、
それでも、いつも通り『です・ます調』の少し丁寧な口調が残っていた。
フレンドかつ誘拐犯のネオ相手に敬語を使うのは馬鹿らしいと思っていたのだが、こうなると、今の話し方を無理に変えるほうが馬鹿らしいのかも知れない。
それに、あまり馴れ馴れしく話すと、ネオから『距離が縮まったね』などと、ウィンクしながら言われかねない。
「……いや、もっと別のことだった気がする。」
すっきりしないままだったが、マコはさっさとドレスを着ることにした。
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飾り気のない扉を開けて外に出ると、目の前の石畳の上で、黒い軍服を着たネオと、全身真っ黒のドラゴンであるガットが向き合っていた。
「わお、マコちゃん。可愛いよ。」
「ハイハイ。
自分の姿が見られるんなら、ゲームの頃みたく着せ替えて楽しめるんでしょうけどね。」
全くうれしくない誉め言葉を言ったあと、ネオは声の調子を少し低くして話し出す。
「朝、勇者と戦ったらしいね。」
「あ、はい。」
ああ、これだ。完全に忘れていた。
もしかして怒っているだろうか。
「大丈夫だった!?痛くなかった!?何かされなかった!?」
怒るどころか心配されていた。
マコはホッとしたものの、マナー違反の戦いを挑んだことを思い出して、少し気が滅入った。
「まあ、その、ほぼ無傷でした。」
「ああ、よかった!このドラゴンから話を聞いて、心配したよ。」
マコが少し目線を逸らすと、ネオは少し笑った。
「ははは、弱い奴と戦うのは避ける、とかは気にしなくていいと思うな。もうゲームじゃないんだから。」
レベルが低い相手と対人戦はしない、というゲームのマナーを気にしていることをすぐに気付いたのだろう。
「……フフ、ですよねー。」
ゲームじゃなければやっていいという訳では無い気がしたが、ネオの気楽さにつられて、マコの気も楽になる。
「でも、レア武器のデュランダルを持っていましたし、『勇者』のスキルを使ってきました。ネオさんだとまあまあダメージを受けるかも知れません。無事に帰したのは、良くないですよね。」
「いやあ、そんなことは無いよ。」
ネオは苦笑いしながら手をひらひらと振った。
「勇者が何人いるかも分からないんだ。ここで勇者一行を行方不明にしたところで、続々と別の勇者が来るだけさ。」
ネオはピンと人差し指を立てる。
「今回は、力の差を存分に見せつけたんだ。魔王の部下には傷一つ付けられないけど魔王にはダメージを与えられる、なんて普通は思わない。しばらくは慎重になって、勇者を差し向けなくなるだろうね。僕にとってはありがたいよ。」
今までは気づかなかったが、ネオは結構頭が良いのだろうか。もしかすると、マコに気を遣って前向きな解釈をしてくれたのかもしれないが、理にはかなっているように思える。
マコは素直に感心した。
「あ、日本語で話してると、ガットが話に入れないね。ゴホン。」
ネオは咳払いをすると、この世界の言葉で話し始めた。
「ンー、ンン。我輩の言葉が理解できるかな?マコよ。」
「え?」
あまりの雰囲気の変わりように驚いて、マコはネオをじっと見た。
ふざけている様子はない。
「ええ、わ、分かるわ。」
マコは戸惑いながらも、この世界の言葉で返事をした。
「ふむ、問題無いようだな。では、話を続けるとしよう。」
「え、ちょっと、本気なの?フフッ。」
突然、本当に魔王様になったかのような、威厳ある話し方に切り替わったネオ。
違和感が凄まじい。
「マコよ、どうした?」
「マコ様、いかがなさいました?何も可笑しなことは無いかと思いますが。」
ネオどころか、ガットにまで心配されてしまったが、マコは笑うのを止められない。
「オカシイでしょ。だって、フフッ、『我輩』って、『マコよ』って、ウフフ、本当に魔王さまになったみたいで、アハハハッ。」
ガットは顔をしかめて理解不能という表情をしたが、ネオは目を見開いた。
どうやら、ネオは何が可笑しいか理解したらしい。
「マ、マコよ。この言語で話そうとすると自然とこの口調になるのだ。致し方ない。」
「『致し方ない』って、つ、使ったことないわ、ウフフフフ。」
「マコこそ、典型的な女らしい口調になっているようだぞ。」
「ええ!?」
ネオの言葉に、今度はマコが目を見開いた。
「心外だわ!じゃあ、語尾に『だわ』とか『かしら』とか付けて話しているのかしら?」
「いかにも。フハハッ。」
自分の口調すら分かっていないマコの質問を聞いて、ネオまで笑い出した。
「こ、今度は『いかにも』って、普通使わないでしょっ、アハハハハッ。」
「慣れて貰わねば困るぞ。この口調、気に入っているのでな。フハハハハッ。」
ついには2人で笑い合いだした。
「あの、お二人とも、一体何が?」
ガットには訳が分からない。
ガットにとっては、ネオは最初から貫禄のある口調であったし、マコは女性的な言葉づかいだった。
「……お楽しそうで何よりです。」
話に入れないガットは、鼻でため息を吐いた。
深夜のテンションで書きました!




