「さいしゅうかい」 軌跡を描くボールの恋ントス
とうとう最終回でし!
◆1
正直、自信などなかった。親に「大活躍で圧勝してきますか」なんて大それた事をほざいていた自分に腹が立つ。地面に靴の裏がへばり付いている様な感覚を覚える。足が蝋の様に溶けて行き、同様に溶けて行く地面と一体化していく様な気味悪い感覚だった。
石像の様に微塵も動いていないのに額から汗が滲む。右手を見ると、痙攣するかの様に震えていた。どうしたあたし、と自分の身体を動かそうと試みる。包む様に圧し掛かる重力の緊張は足を萎縮させた。
歯を食い縛り、動け動け、と念じる。肌の肌理から在り得ない位の汗が吹き出、愛の顔が浮んだ。隣であたしと同様、緊張に身を委ねている選手が小声で「が、頑張ろうね」とぎこちない強弱の声を掛けて来た。あたしも引き攣った笑みで「お、おう」と戦慄の声で返す。
今、愛はどんな思いであたしを見ているのだろう。不安と羞恥心だけが積もる。
◇2
「・・・全然駄目じゃん」思わず声が漏れてしまった。離れて隣で座っている男子も弱々しく「そうだね・・・」と呆れて苦笑していた。桃色と白色のジャージを着た審判の女子が前に立ち、再び甲高く笛を鳴らした。
カメラ越しに映される鴨は人形の様に固まっており、相手選手が鮮やかにパスを回す中で鴨は目ですら追いつけてなく、翻弄されるばかりだった。
「君は誰応援してんの?」隣にいた男子が私にそう訊ねて来、一瞬私は困惑する。異性と会話という経験が少ない私にとって致命傷だった。「あ、あ、その・・・カモデス」最後の方は片言になってしまった。
「鴨?」隣にいる男子は首を傾げ、すぐに「ア、ユウジンデス」と片言返事。会話に緊張し、手の平に変な汗が滲んで来た事に気付き、すぐに視線を戻した。恋愛漫画か、と脳内で叫ぶ。鴨の方へ視界を戻すと、「あ」
鴨がボールを掴んでゴールを睨んでいた。
◆3
あのボールには磁石の様な物が付着していて、相手選手の手の平にも強力な磁石が付いているとかじゃないだろうか、と割と本気で思い浮かんでしまう。あのボール自身相手のチームの一人なんじゃないだろうか、とあたしは若干諦めを覚えていた。
もうこれは相手が横転でもしない限り、あのボールを滞らせる事は出来ないだろう、と前から駆けて来る選手を眺める。けれど、何もしなかったら試合終了後に全員に何か言われると思い、身を構えた。
相手が駆使するボールだけに視線を送り、両手で追う。隣にいた味方選手も動きを見せ、相手選手の方へ突進する様に駆けて行った。あたしもすぐに後を追う。
相手選手がボールを鮮やかにあたしの後ろにいた相手選手に投げる。ボールが宙を浮き、奇麗に軌跡を描いて空間を舞う。そのボールを見つめていると、一つ疑問が浮んだ。
これ、キャッチ出来るんじゃないだろうか?、と曖昧に浮ぶ。足を地面から浮かせ両手を上へ伸ばした。
すると見事に手の平に凸凹のゴムの感触が感じ、奇麗にボールを奪う事が出来た。相手選手のミス。奇跡としか言いようの無い出来事に、思わず高揚した。「え?」
思わず声が漏れた。その瞬間、前にいた友人が「行け鴨っ!」と叫んで来、困惑の霧が晴れ覚醒する。パスが回らなかった相手選手は咄嗟にあたしのボールを奪おうと試みて来た。
そうだ、あたしに出来ない筈なんてない。あれだけ練習していたんだ。このチャンスを逃がしてどうする?自分に言い聞かし、先程の重みが嘘の様に吹き飛び軽い足を前に動かした。
ボールが自分を嘲笑う。その幻聴を武器に変えろ!ボールは地面を跳ね返り、あたしの手の平に吸い込まれて行く様に戻って来る。油断せず、調子に乗らず、ゴールだけを見つめる。あたしのチームの選手はみな「鴨がんばれえー!」と叫ぶ。今あたしがいる位置ならばパスを要さない、筈。このままゴールだけを捉える事にした。
「鴨おおおおぉぉ!があんばれええええええぇぇっ!!」
爪先から声を張り上げた様な、愛の声があたしの耳に響いた。恥ずかしい奴だな、思わず口元が緩み、足を宙へ浮かせる。宙を舞え。ボールがいう事を聞かないのであれば、あたしがいう事を聞けばいい。ゴールしか見つめていない。歯を食い縛り、力加減に注意しながら腕を前に突き出した。
◇4
気付けば、声を張り上げていた。シャッターを押す事も忘れており、ただ鴨を見つめていた。鴨が宙へ浮き、ボールを手から離す。ボールが回転しながら軌跡を描く。
私は叫んだ事で喉に詰まり、噎せた。咳を零しながら鴨を見つめる。鴨のボールがゴールへ吸い込まれて行く。行け、行け!と何度も脳裏で叫ぶ。そして、
「「あ、入った」」
隣で観覧していた男子も思わず声を漏らす。鴨の投げたボールは不恰好ながらもゴールのネット周りを回転しながら、入った。
◆
「あ、入った」
あたしの投げたボールがゴールへ入り、地に足が着く。漠然としたまま、愛の方へ目をやる。
◇
鴨が私の方へ顔を向けて来た。ほんの僅かの間があり、そして私はカメラを構える。
鴨は満面の笑みでピースサインを取った。
◆5
「いやー負けちゃったね」
「そうだね」
試合が終わり、あたしと愛は校門のいつもの階段で腰を下ろしていた。「でも、気分は最高」
「そうだね」愛がカメラのフォルダを微笑み、見つめながら返して来た。「あたし、かっこよかった?」ノリを求める様な口調で愛に訊ねると、「そうだね!」と嬉しそうに吐き、勢い良くあたしに抱き付いてきた。
「いやーん大胆な愛ー」「へへーいいだろー?」隣を通った相手選手があたし達を気味悪そうに見て来たが、あたしと愛は笑いながら抱き合っていた。
「愛、ありがとね」「鴨、がんばったね」ぎゅっと手を握り、微笑みあった。馬鹿らしいし、下らないけれど、楽しかった。
脳裏で叫ぶ。『大好き』、と。 END
いやー夏休み期間の青春淡く青い物語完結ですー。 最後まで見てくれた方はいるかどうか分かりませんが、ありがとうございました。
密かに新作考えているのでそちらも宜しければお願いします。




