夢絶える者 4
何軒か06は宿を訪ねるが、天候が急に雨になったこともあり宿は全て満室だった。
「どうするかなぁ…。」
06は眉を顰め、頭をポリポリ掻く。その反動でミツルがずり落ちそうになったので、慌てて06はミツルを抱え直す。このままでは恐らく野宿になってしまう可能性もある。それを危惧した06はミツル用に毛布とタオルを買っておくことにした。
店に入ると、06の服の汚れを気にしているのか店員がちらちらと06を見ていた。06はその視線を物ともせず、ミツルを店の待合スペースに下ろし、手際よく毛布とタオルを買うと再びミツルをおんぶし、外に出た。
雨はなかなか止まない。06はそれにうんざりしながら、再び歩き始めた。
黒髪が濡れ、雫が頬を伝う。06にはその感触が鬱陶しくて仕方がなかった。そしてその感触を味わう時、06はいつも思う。ハカセはどうして髪を機体につけたのだろう、と。
06にとってハカセは変な人間だった。機体を人間の見た目に似せて作るわりに、いざ人間のような振舞をし始めたら途端に怯えるように自分から遠ざける。その象徴が機体03だ。
機体03は機体の中でも一番人間に近い存在だった。それ故にハカセは03を人間の養子にして自分から遠ざけた。人間という種の集団に突然放られた可哀想なヤツ。それが06の03に対する印象だった。
そんなことを思い出して、06は立ち止まって首を傾げる。
ハカセは人間だったが、06が唯一興味を持たない人間だった。だからこそ自分がハカセについて思い出すようなことは無いと思っていた。しかし、今06の脳に映し出されているのはハカセの姿である。
06は一度ハカセに聞いたことがある。どうして自分だけが人間に対して興味を持つのか、ということを。その時ハカセは「そう作ったから」とにこやかに答えた。そして06は立て続けに、人間であるハカセに興味を自分が持たないのは故障しているからなのか、とも聞いた。そしたらハカセは「06がボクの本質を見抜いているからだ」と返してきた。
その時の06はその言葉の意味が理解できてなかった。そして今もそれを理解できていない。しかし06はそれ以上、踏み込もうとは思わなかった。ハカセの本質なんて微塵も興味がなかったからだ。
06はなぜ今になってハカセのことを思い出したのかわからなかった。機体も人間も興味がないものを突然思い出したりすることはない。大抵、そのものやそれに関連するものに興味を持ち始めてようやくそのことを思い出すのだ。だからこそ06にはなおのこと理由がわからなかった。
ふと06の頬をミツルの横髪が掠る。
(…そういえば、よく見るとハカセとミツルって顔立ちが似てるな。)
だからかもしれない、と06は納得する。そうしてまた歩き出した。