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邪神さんと冒険者さん 60

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フィルがバックから取り出したのは紐で束ねられた数本の木の棒だった。

それぞれの棒は蝶番で互いに繋がっており、

そこに取り付けられたスライドピンで固定することで

展開して一本の長い棒に出来る造りになっている。

「フィルさん! これってもしかして10フィート棒ですか!?」

「ん? ああ、そうだよ。これに鏡をつけて部屋の隅を見ようと思ってね ……ってどうかしたのかい?」

サリアの問いかけに答えながら、何気なくそちらへ目を向けると

サリアが興味津々といった顔でフィルの持つ棒を見つめている。


「これがあの……。 ふふふふっ……なんだか冒険者っぽいですね!」

そんな事を言いながら嬉しそうな顔で棒を眺めるサリア。

「ああ、こういう時には便利だからね。でも、10フィート棒なんてそんな珍しい物じゃないよ?」

ただの棒だよ?と、不思議そうに尋ねるフィルに

分かっていませんねぇ!と、バードらしく大仰な身振りを交えて力説するサリア。

「もぅ! フィルさんはロマンが無いですね! 10フィート棒と言えば、ダンジョン探索に欠かせないアイテムですよ!? ダンジョン奥深くへ潜り、数々の罠を突破していく冒険者達! そしてその手には、この10フィート棒が握られているのです!」


確かに「10フィート棒」というのは

酒場などで語られる物語には馴染みのアイテムで

特に人気の高い、ダンジョンを舞台とした冒険譚には良く登場することもあって、

一般の人々にも広く世間に知られる「有名なアイテム」ではある。

実際、このアイテムが冒険で使われる機会は多く、

冒険者達が集まる酒場に行き、そこで何人かに酒を奢れば、

このアイテムが関わる武勇伝や失敗談や馬鹿話を、

それこそ幾らでも聞くことが出来るだろう。


そんな「10フィート棒」だが

実際のアイテムがどんな物かと言えば、

三メートルほどのただの木の棒であり、

酸や爆発の身代わりに使う、いわゆる消耗品である。

決して伝説に出てくるような強力な武具や、

アーティファクトといった類と同列になるような物では無い。

普通の物(というか、ただの棒)で銅貨五枚、

フィルが今手にしている少し高級な組み立て式でも銀貨二枚、

それこそ、そこらに生えてる木を適当に切って枝を落としただけでも十分なぐらいで

……正直、サリアが力説するほど特別なアイテムには到底思えない。


「あはは、確かに便利アイテムだけどさ、やっぱりただの木の棒だと思うけどなぁ……よし、出来た」

笑顔で幼児の訴えをあしらう親のように

尚も力説するサリアの説明を聞き流しながら、

フィルは10フィート棒を組み立て終えると、

今度は棒を振ったり押し込んだりしてきちんと組み立てられたか具合を確認する。

「むぅ! フィルさん! ちゃんと聞いてくださいよー!」

「うんうん、聞いているよー?」

尚も自分の話を聞き流す気満々のフィルの態度に

サリアはむぅと不満の意を表してみせるのだが

身長差のせいか残念ながら今一つ迫力には乏しい。

むしろ、上目づかいに訴えられているようで

もし自分に妹がいて、兄妹喧嘩したらこんな感じなのだろうかと漠然と考えるフィル。


「ですから! 大切なのは伝説の武器だとか凄い力があるからとかじゃないんです! たとえ手元には僅かな可能性しかなくても、知恵と勇気で土壇場の機転! それこそ冒険のロマンなんです! この棒はロマンが沢山なんですっ!」

「ふむ……何となく分からないでも無い感じはするけど……やっぱりこの棒が凄いというのはなんか違う気がするなぁ」

様々な物語を生む品に敬意を払う。

それは確かにバードっぽい考えだなと思いながらも

やっぱりよく分からんと、フィルは手を動かし

今度は棒の先端に鋼鉄を磨き上げて造られた鏡を取り付ける。

その鏡もまた冒険には良く使われる品であり

サリアはフィルの横で不満そうな顔をしながらも興味深げにその作業を眺めている。

そんなバード少女の様子を器用な娘だと思いながらも

これ以上、下手に藪をつついて蛇を出す事も無いと

サリアには口出しせずに鏡の取り付け作業に専念する。


「……よし、出来た。それじゃあ洞窟へ入る事にしようか? 今は目の前の問題を解決しないとね」

「むぅ……」

「サリアの言い分は後でゆっくり聞いてあげるから。ね?」

全ての準備を済ませたフィルは

未だに飽きもせずに唸っているサリアの頭にぽんぽんと手を乗せると

さぁ洞窟へ行くよと皆に声をかけ、洞窟の入り口へと向かう。



洞窟の入り口には既にダリウとラスティが見張りに立っており

魔法の灯りがともった盾で入り口を照らし、

中の様子に変化が無いか注意を配っていてくれた。

盾から発せられる魔法の光は洞窟のかなり奥まで照らしてくれてはいたが

それでも流石に通路の全てを照らすまでには至らず、

明かりが途切れる所よりその先は、

真っ黒な暗闇が通路を埋めるかのように視界を遮っている。


「中の様子はどうだい?」

「ああ、静かなもんだ。……もっとも、あの先の灯りが届かない場所より先は全く分からないけどな」

「それで十分だよ。あそこは僕の方で見てみるよ」

ダリウの話を聞きながら、フィルはその横に立ち洞窟の中を覗き込む。

暗視の無いダリウ達では完全に視界が失われる暗闇だが

今も暗視の効果が続いているフィルには、

暗闇の先に続く通路から、さらにその先の広間まで、

全ての様子を見渡す事が出来た。


改めて注意深く洞窟の中を見回し、

ダリウの報告通り、洞窟内に動きが無いことを確かめるフィル。

「……やはりここから見える範囲ではゴブリンは居ないようだね。それじゃあ行ってくる」

「ああ、気をつけてな。それと……」

奥の暗闇を確認したフィルの返事に頷くダリウ。

だが、少しばつの悪そうな顔になるとフィルの耳元へと囁く。

「……すまんが、あいつらをどうか頼む」

「ははは、ああ、分かってるよ」

少女達……というよりも、とにかくリラの事が心配なのだろう。

少し恥ずかしそうに、だがそれ以上に切実な顔をした大男にフィルは小さく笑って頷き返し、

それから男二人は後で控えているの少女達の方へと振り返る。



「ねぇ、フィルさんってば酷いと思いません? せっかく私が10フィート棒の素晴らしさを伝えたのに全然話を聞いてくれないんですよ!?」

「あはは、ごめんサリア。それは私も全然分からないや」

「むぅ~敵はここにもか!」

どうやらあの後もサリアは納得がいかないようで、

今度はリラ達に狙いを変更したらしい。

だが、どうやらというか、やはりというか

ここでも理解は得られていないようで、

フィル達の視線の先ではリラがサリアの訴えを笑顔で却下していた。

わいのわいのと明るく賑やかな少女達の掛け合いに

男二人は再び顔を見合わせる。

「……あんなのですまないが、どうか頼む」

「あの分ならきっと大丈夫だよ。まぁ、任せておいて」

心配の必要は無さそうだがと苦笑いを浮かべるダリウに、同じく苦笑いのフィル。

そんな二人にラスティも加わる。

「彼女達、僕らよりもよっぽど肝が据わっているようですね」

「ああ、だが、油断して怪我したりするかもしれん……」

「まぁ、怯えたり緊張したりよりはよっぽどマシさ」

未だに続く少女達の賑やかなやりとりを眺めながら

男三人、感心半分呆れ半分でそれぞれの感想を言う。

(……とはいえ、これも皆、サリアのおかげなんだろうな)


バードは音楽や歌、言葉やその立ち回りで味方を鼓舞し、

敵の戦意を削ぐことを得意としている。

あまり目立つ技能ではないし、効果も実感し難いが、

初めて実戦を経験するという少女達がこうして怯える事も無く戦場に立っているというのは

間違いなくサリアの働きのおかげだろう。

(そう考えると、あの娘の頑張りを褒めてあげたいところだけど……)

そう思いながらフィルは再度少女達の方を眺める。

そこでは今度はアニタを説得にかかるサリアの姿が目に入る。

少し涙目になりながら説得している様はどこか滑稽で、

可愛らしくはあるが戦意を鼓舞しているようには見えない。

だが、それを取り囲む少女達の顔を見れば

少なくとも緊張を拭う効果は十分であることは分かる。

(……うん、でもやっぱり10フィート棒は無いとおもうよ?)


「ねぇサリア? フィルさんも待っているみたいだし、もう行こう?」

「アニタまで……って、あっ!?」

フィルがそろそろ行くよと声をかけようとした時、

流石にこのままだと不味いと思ったのだろう。

サリアの背中越しへと視線を向けながら、宥めるアニタ。

その言葉は乗りませんよと勢い込むサリアだったが、

すぐ後のフィルの咳払いに慌てて振り返る。

「あははは……お待たせしました!」

「……まぁ、緊張しているよりはマシだけどね。洞窟の中では注意するんだよ?」

その先で棒を持った手を腰に当て、

やれやれと軽くため息をついて見せるフィル。

「はーい」

フィルの小言に元気の良い返事を返す四人。

こちらの心配などには気付いていないのだろう。

そんな少女達の様子に男三人は再び顔を見合わせ

やれやれと苦笑いを浮かべた。



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