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邪神さんと冒険者さん 19

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夕食が済んだ後、

食器を洗うために厨房へと戻ったフィルは

一緒に手伝うといって、ついてきたフラウと共に

洗い場で食べ終わった食器を洗っていた。

フィルの横で踏み台に乗って、

楽しそうに鼻歌を口ずさみながら、

灰と藁で木皿の汚れを落とし、水で濯いでいく姿は、

親の手伝いをしている娘のようで、何とも微笑ましい。


「フィルさん」

「うん?」

「今日はとっても色々ありましたね!」

濯ぎ終わった木皿を立て掛けながら楽しそうに話すフラウ。

「そうだね、街から戻ったと思ったら、ゴブリン騒ぎだし、そうかと思えば、今日はお客様が三人も増えたし……フラウは疲れてないかい?」

「はい、ぜんぜんだいじょうぶです!」

「ははは、それでもあまり無理はしないようにね? ご飯の準備もしたりで、結構疲れが溜まってるだろうからね」

「えへへ、はいです!」

元気よく返事するフラウにフィルも笑いかける。


「ご飯と言えば、今日はとっても賑やかなご飯でしたね」

「ははは、そうだね。こんな大人数で食べたのは随分と久しぶりな気がするよ。それにしても、サリアの時はフラウが助けてくれたおかげで助かったよ」

「ふふふ。今日のサリアさん、すごかったですね! お姉ちゃんを見てるみたいでした!」

「女の子にあんなダメだしされたのは初めてだよ。フラウもあんな感じで怒られたの?」

やれやれと苦笑いを浮かべるフィルに

サリアが姉のように叱っている姿を思い出してくすっと笑うフラウ。

「私も良くお姉ちゃんにあんな感じで叱られてました。フラウ! 好き嫌いをしたらダメよ! とか」

「ははは、それじゃあ、今好き嫌いなく食べれるのはお姉さんのお陰かな?」

「えへへ。今でも食べれない物は沢山ですけど、お野菜は食べれるようになりました」

「なるほど、それじゃあ、お姉さんに感謝しないとね」

「はいです。……ふふふっ、フィルさん?」

「うん?」

「その、お姉ちゃんを助けてくれたのはフィルさんなんです。だからフィルさんにも感謝なのです」

「え……、い」

とっさに、助けようとして助けたわけじゃないと否定しそうになったが

フィルを見上げるフラウの嬉しそうな表情を見て、

辛うじてその言葉を飲み込む。

それから、この少女に喜んでもらえそうな言葉を探す。


「……そうだな、フラウのお姉さんならこれくらいお安い御用だよ。何度だって助け出して見せるさ」

「もうっ、フィルさんったら、そんなことしてもお姉ちゃんはあげませんよ?」

楽しそうに、でも少し呆れた様子のフラウ。

その様子にフィルはほっとする。

「ははは、それは残念。それじゃあ、代わりにフラウにここに居てもらおうかな」

「えへへ、はいです! ずっといちゃいます!」

「ふふ、ありがとう」

おどけた調子で言うフィルに

元気よく返事をするフラウだったが

なにかに思い当たったようで、フィルの方へと体を向き直る。

「あの、フィルさん。お姉ちゃんだけでなく、リラお姉ちゃんたちも守ってほしいです」

見れば、心配そうに見上げるフラウが目に入る。

先ほどの話を聞いて、殺し合いになる事を知ったフラウは

戦いで傷ついてほしくない、

そう願わずにはいられないのだろう。

洗い途中のお皿を両手で握って見上げる姿は

何処か祈りをささげる乙女を想起させた。

フィルはフラウの目線まで腰を下げると、出来る限り優しく微笑む。

「わかった。あの子たちは僕が絶対に守るよ。絶対にね」

「はいです!」

嬉しそうに返事をするフラウ。

その笑顔によしと、満足すると、二人は残りの皿を片づけに取り掛かる。


「よし。これで全部終わったか。お疲れ様」

「はいです。おつかれさまです!」

最後の皿を洗い終え、皿を立てかけたフィルは、

布で手を拭い、先ほどパンを焼いた窯へと向った。

「それじゃあ、風呂の準備をしてしまおうか。ああ、それと今のうちに雨も降らせておかないとね」

「えへへ、二日ぶりですもんね」

「うん、まぁ一日ぐらいは振らなくても大丈夫だろうけど、さすがに二日開けると少し心配だしね」

嬉しそうに返事するフラウの頭を撫でて

焚口から薪と火を入れる。


細木に移った炎が大きくなり、

太めの薪でも問題なく燃える火勢になったところで、

窯の方は一旦そのままにして置き、

厨房の勝手口を開け外へと出た。

と、後ろ見てみると、当然といった感じでフラウがついてきていた。

「ここだとフラウも濡れちゃうから中で待っていたほうが良いよ?」

「少しぐらい濡れても大丈夫です」

にこにこしながら、言い返すフラウに、

やれやれと前へ向き直ると

村の畑がある方角へむけて呪文を唱える。

遠く、畑の方で大きな雲が出来上がり、

大ぶりの雨が周辺の畑へと降り注ぐ。

雨は、さらに範囲を増し、フィル達のいる山も覆い

暫らくすると頭の上に水滴が落ちてきた。

「これでよしと、さ、濡れるから家に戻ろうか」

「はいです!」

フラウはそう言うとフィルの元へと寄りフィルの手を握った。

「えへへ、それじゃあ、お家に戻りましょう!」

そう言うと、フィルの手を引くようにして歩き出すフラウ。

その様子は何処か弟を世話する姉のようであり、

フィルは少し笑うとフラウに連れられて勝手口を目指した。



「さっきまでパンを焼くのにつかっていたから風呂も大分温まっているだろうし、今日はすぐに入れるんじゃないかな」

「それじゃあ、パンの窯を使っていた時も、お風呂って温められていたんです?」

「うん、同じ焚口だからね。まぁ一石二鳥というか、横着と言うかだけど」

厨房から風呂場へと向かい、

湯加減が丁度良い事を確かめるフィル。


この家の風呂は、個人宅の施設としてはかなり凝った造りになっており

厨房の井戸から隣の部屋にある風呂へと水を送るのだが、

途中、窯の横を通る際にお湯へと温められるようになっていた。

さらには窯の奥が風呂場につながっており

焚いた時の熱で直接風呂を温めることもできた。

窯の火で既に溜まっている水の温めと

新しくお湯を追加することが出来るために

広い風呂でも早くお湯を満たすことが出来たのだった。


さっきまでのパン焼きに使っていたおかげで

既に風呂場は大分温まっており、

今も窯で焚いているとこと加味して

冷水の流れる量を少し多めにしてから

二人は風呂場を出て、四人が待つ居間へと向かった。



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