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邪神さんと冒険者さん 11

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サリアの荷物を入れ終えた三人は

ようやくといった感じでフラウの村へ出発する。

だが、街の門を抜ける際、

普段ならば外に出る時は、

そのまま素通りできる場合が殆どなのだが、

門にさしかかろうとしたところで、

少し離れたところで街に入る人々の検問をしていた兵士から声がかかった。


見れば、昨日、フィル達が街に入る際に対応した兵士が

検問業務を同僚に任せてこちらにやって来る。

「昨日はありがとうございました。おかげで皆、大きな怪我も無く、無事に暴漢たちを捕らえることが出来ました。そちらの方は……どうやら、そこのお嬢さんに捕まってしまったようですな」

「はい。おかげさまで同行させてもらう事が出来ました!」

どうやら、昨日の一件の時に

すぐに宿に戻ったフィルに対して礼を伝えるためだったようだ。

さらにはサリアが一緒にいる事に、大して驚く様子も無く

サリアも嬉しそうに返事を返しているところを見るに

この娘がフィルを探しに行った事はある程度予想していたようだった。


「それは何よりです。ところで、あの三人は結局何だったのですかね? ただの冒険者にしては、やけに物騒でしたが」

とりあえず、自分に面倒が降りかかる訳ではないと判断したフィルは

昨日から思っていた疑問を兵士に尋ねてみた。


「ああ、それなんですが、あの時暴れた三人は、近くを荒らしている盗賊の一味だったようで、おかげで街中に居た、盗賊の繋ぎや、協力者を合わせて捕らえることが出来ました」

という事は、あの騒ぎの後も尋問とか捕り物が続いたという事なのだろう。

「なるほど……、それじゃあ、昨日は随分忙しかったのですね」

「ええ、おかげで街の危機を回避することが出来ました。それも、そこのお嬢さんが魔法で、奴らから情報を聞き出してくれたお陰ですよ」

兵士がサリアの方を向いて礼をする。

突然お礼を言われ、少し照れた様子のサリア。


「いえいえ、魔法は成り行きですから! 効果時間だって短いから少し聞き出せただけですし!」

あたふたと、謙遜するサリア。

「なるほど、それじゃあ、あの後も兵士に協力していたんだ」

「元はと言えば、因縁つけられてた親子を助けようとして周りに被害出したのは私にも責任がありますし……結局フィルさんに助けてもらいましたし……そりゃ……ね」

少しばつが悪そうに言うサリアに

昨日の宿での押しの強さと比べ、少し意外に思うフィル。

「それで、迷惑かけた分、手を貸したと?」

「そりゃ、私だって迷惑かけたって反省していますもん。それにあんな暴れ方する人、私だって怪しいと思います」

「なるほど。でも、全面的に被害者のはずなのに、人が良いんだな」

「ふふふっ、少しは見直しました? もっと見直してもいいんですよ?」

先ほどの気まずそうな様子と打って変わって、得意げになるサリア。

「ああ、見直し半分、呆れ半分と言ったところかな。周りに被害も出ているのだしね」

特に僕とか。と少しジト目で言うフィルにサリアは頬を膨らませる。

「えー、ちょっと酷いですよー。フラウちゃんも何か言ってやってくださいよー」

「ええっと、フィルさん。サリアさんのおかげで悪い人が捕まったみたいですよ? 褒めてあげて欲しいです」

「ふむ……まぁ、サリアが動かなければもっと悪い事になっていたかもしれないしね。確かに凄い事だと思うよ」

サリアはともかく、心配そうに見上げるフラウに言われてしまってはどうにも弱い。

しぶしぶと褒めるフィルに、

サリアとフラウはお互い手を打ち合わせる。


「まったく……そうやって、すぐに調子に乗るんだから。それにしても魔法を使ったと言うと、チャーム・パースンかな?」

「はい、まだ一日一回しか使えないんですけど、おかげで大逆転です!」

ガッツポーズをとるサリリア。

さすがはバードと言うべきか、魅了の魔法の使い時をよく心得ている。

チャーム・パースンと言えば、

バードだけでなくウィザードも駆け出しで覚える魔法で

ごく短時間の間、相手に術者の事を仲間や親友と思わせる呪文だった。

敵対する相手など、簡単に説得できない相手などから

情報を引き出すのに、かなり重宝する呪文なのだが……


「でも、魅了の魔法は街中で人間相手に使うのはあまり良い事とは言えないよ?」

人に向かって魅了の呪文をかけるという行為は

殆どの土地で忌避されており

殆どの街では、街中で使えば犯罪として取り締まられる行為だった。

「分かっていますよー。ちゃんと衛兵の人たちに了解を取って使いましたから!」

その辺ももちろん大丈夫ですよと、薄い胸を張るサリア。

(多くのバードは呪文を覚える際に、スリープよりも先にチャーム・パースンを選択するというけど……)

それは、情報を手に入れるという

戦闘とは異なる重要な役目のための手段の一つであり

今回もそれがいかんなく発揮された。という事なのだろう。

「やれやれ、まぁ、ちゃんと使い時を間違えないなら何も言うことは無いか。それじゃ、そろそろ僕らは出発させてもらいますね」

「ええ、道中旅の無事を祈ってます。あと、あの村の周辺ですが、まだ盗賊や、モンスターが周辺に出没するようですから気を付けてください」

「ははは……道中は注意することにします」

領主直々にこの街の兵士たちに盗賊たちの討伐に出る余裕が無いことを

昨日、聞かされていたフィルからすると

今後対処するのはフィル達の役目になるのだろうなと思いつつ、

とりあえず忠告はありがたく受け取っておき

兵士に見送られて門を出発した。


街を出た三人は暫く道なりに進み、

街道沿いの宿場町を通り過ぎ

畑の道を超え

行くときに馬から降りた場所までたどり着いた。


「さて、ここでまた出していくか」

そう言うと、道の前後に人が居ないことを確認するフィル。

「どうかしたんですか?」

立ち止まった理由がわからないというサリアに対して、

昨日と同じ場所にフラウは察しがついたようで

「あ、今回もお馬さんなんですね!」

「そう、少し待っていてね」

フィル昨日と同様に呪文を唱え、馬を召喚する。


「ほ~これはマウントの呪文ですね」

出現した馬を、眺めるサリア。

残念ながらバードではマウントは使えないらしく

フィルの出した馬をしげしげと眺める。

「そう、これに乗っていけば、少しは楽になるからね」

「その恰好から何となく思ってましたけど、フィルさんってやっぱりウィザードだったんですね~。それにしても剣をあれだけ使えて、魔法も使えるなんてすごいですね!」

「やっぱりって……昨日の夜にプレスティディジテイションで服を洗濯してあげただろうに」

「えへへ、ほら、昨日は魔法使っているとこは見れてませんでしたし~」

なおも、いいなーと褒めちぎるサリアに、

何となくその後の展開が読めたが

とりあえず、そのままにしてみることにする。


「それじゃあ、フラウ、また馬に乗ろうね」

「はいです!」

先に馬に乗ろうと馬具に手をかけたフィルの裾をサリアが引く。

振り向けば、少し困った顔をしつつ、

上目づかいのサリアがフィルを見ている。

「ええと……、それで、私の分も欲しいなぁ……なんて?」

「仕方ないな……」

もう一度呪文を唱え馬を召喚する。

なんだかんだいっても、どうせ必要になるだろうと、

昨日、呪文を準備しておいたのだった。


「ふふふ、もうっ、なんだかんだ言って、ちゃんと準備してくれている優しい所大好きですよ」

「そう思うなら、後でお返しをもらいたいね」

「えーと、それは……出世払いで?」

笑ってごまかそうとするサリア。

フィルはため息をこぼしつつ、

新しく召喚した馬を喜ぶバード娘へと手渡した。



「それにしても剣と一緒に魔法を習得するなんて大変じゃないですか? やっぱりファイアボールとかぐらいまで覚えているんです?」

「……まぁそんなところかな」

馬に乗り、村を目指している道中

隣を行くサリアの質問に適当に答えるフィル。

往きの時と同様に、フラウにはフィルの前に座ってもらい

一緒に景色を楽しみながら

のんびりと馬は村へ向かって歩を進めていく。


魔法の実力で言ったら、

どちらかと言えば低~中級の魔法であるファイアボールはおろか

人間の扱えるとされる最上位の魔法も扱えるのだが、

サリアがフィルの魔法の腕を低めに見積もっていることについては

そのままにしておくことにした。

世の中、相手に力量を低めに見られているぐらいが

いざという時に何かと都合が良いものだというのは

これまでのフィルの経験だった。


特に魔法使い同士の戦闘では

相手の手の内をどれだけ把握しているかで

勝敗が大きく分かれてしまう。

そのために街中では、できるだけ魔法を控えていたし、

人前で使わなければならない場合も

必要とされる中で一番低レベルの魔法で済ませるようにしていた。



「えへへ。でも本当に、あんなに剣も使えるのに魔法もきちんと使えるなんて、すごいですね!」

「剣の腕は……まぁある程度の鍛錬はしてるけど、殆どがマジックアイテムの補助のおかげだよ」

実際の所は、神になった際に、

肉体が強化されていたことが一番の要因なのだが

話がややこしくなりそうなので、取り合えず胡麻化すことにする。

「またまた、いくらアイテムで力とか増したって、普通のウィザードじゃ、あそこまで剣を使えませんって!」

「ああ……ウィザードとエルドリッチナイトを修めてるからね、剣はそれで鍛錬しているんだ」


「エルドリッチナイトというと……武器と秘術系魔法を両方習得するという上級クラスですよね。たしか、剣と魔法を同時に訓練するのに修練にもの凄く苦労するって聞いたことがあります」


エルドリッチナイト……基本クラスとは異なり、

習得には特定の条件が必要となる上級クラスで、

秘術呪文の使い手ながら、戦闘で魔法の技を磨き上げ、

さらには武器も同等に扱うことのできるクラスと言われている。

もっとも、他の上級クラスと比べれば、

伝説の英雄や、神の血を引くとか

そう言った条件が必要でない分

エルドリッチナイトは比較的容易に習得できるクラスとも言える。


「ああ、習得する時は毎日、剣の訓練と、魔法の研究の日々だったな……その割には、魔法を使おうとすると重い鎧を着れなかったり、剣も魔法も、専門職ほどには技能を極められなかったりで中途半端なクラスだよ」

少し自嘲気味に言うフィル。

「……僕がいたパーティには専門のファイターもウィザードも居たからね。その間を埋める役だったんだ」

「なるほど、必要に応じてそれぞれの補助にまわるんですねー」

それまでずっと話を聞いていたフラウも、フィルの事に少し興味が湧いたようで

背中のフィルを見上げて

「フィルさんは、剣も魔法も使えるのです?」

「うん? ああ、どっちも中途半端に、だけどね」

「それでもやっぱりすごいです!」

素直に褒めてくれるフラウの頭を、

撫でてあげながらありがとうと言う。

フラウの方も嬉しそうにフィルの手に頭を任せる。


「でも、いいなぁー、一人で剣も魔法も何でも出来るんですよねー」

一応、バードは魔法剣士に分類されるはずだが

サリアは羨ましそうにフィルを見る。

「まぁ、一人で何でもできるからと言って、一人で何でも解決できるって訳じゃないけどね」

「そうなのです?」

サリアに返したフィルの言葉に反応したのは、

今度はフラウの方だった。


「ああ、魔法の使用回数に限りはあるし、大勢の敵に囲まれた時とか、パーティでないと生き残れなかった事ばかりだよ」

本当に、一人だけでは攻撃は集中するし、

剣で一度に倒すことのできる敵の数にも限りがある。

やはり、冒険するならばパーティで冒険に出たい。

「なるほどですー?」

「はは、何事も一人でやるのは難しいってことだよ」

「なるほどです~」

分かったのか、分かってないのか

よく分からないフラウの返事だったが

会話に付き合ってくれた事にフィルはありがとうとフラウに伝える。

フラウは少しきょとんとしたが、

すぐにえへへ、と笑って応えてくれた。


暫く一行は、のんびりと馬を進めてフィード村へと向かう。

途中、昼食をとったり、

街で買ったお菓子を食べたりと、

何度か休憩をしつつ、

村の入り口に到着するころには日も暮れ、

夜になりそうな時間となっていた。



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