邪神さんと冒険者さん 10
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「人はいないみたいだね。ここらで荷物をしまっておこうか」
「はいです。えへへ、なんだか隠れてするのって、どきどきしますね」
門へと向かう大通りの途中、前回、荷物整理につかった脇道を覗き込み、
人が居ないことを確認したフィルは、フラウを連れて路地へと入る
細い建物の間の道を進み、さらに一本曲がり
大通りから完全に見えなくなったところで荷物を置いて
手持ちの整理に取り掛かった。
「えへへ、ほんとはちょっと重かったです」
「ははは、ありがとう。おかげで助かったよ」
フラウから瓶の包みを受け取り、バッグに入れてから
お手伝いが出来て嬉しそうにするフラウの頭を撫でる。
「さてと、残りも片づけないとね」
「はいです」
残りの荷物をしまい始めたフィル。その様子をフラウが興味深そうに眺めている。
「フィルさん、バッグの中って揺れたり倒れたりとかはしないんです?」
陶器の瓶が入った包みがバッグに入っていく様子を眺めていたフラウは
少し気になる様子でフィルに尋ねた。
際限なく物が入る魔法のバッグの時点で何でも有りな気もするが、
それでも揺れて割れたらと心配なのだろう。
フラウのそんな様子にフィルは笑って答える。
「ああ、このバッグの中は実際には別の世界の空間につながっているからね。外がどんなに揺れても、内側は揺れたりしないんだ。少しの振動で爆発する劇薬とか、卵とかも気にせず持ち運べるよ」
「わぁ~、すごいんですね~」
前半の説明にはピンとこなかったが、卵も大丈夫という点に感心しながら
フィルの腰についているバッグを手に取って見るフラウ。
試しにゆさゆさとバッグを揺すってみたりする。
「あはは、そのくらい揺すっても中は全然動かないよ」
そう言って、フィルがバッグに手を入れて包みを取り出してみると
やはりそのままの状態で瓶の包みが出てくる。
「すごいですね! お料理の入ったお鍋とか、おすそわけにもっていくのに便利そうですっ」
「ははは、そういう使い方は、思いつかなかったなー」
楽しそうに言うフラウと、そんな少女の様子に、
フィルもたしかに便利そうだと笑いながら残りの荷物を入れていく。
野菜など、残りの荷物を入れ終え
残るは苗木だけとなったところで
フィルはバッグを閉じて、苗木を手に持つ。
「苗木はこのまま持っていくとして、それじゃあ戻ろうか」
「はいです。それじゃあ、もう片方の手は……こうなのです」
ようやく空いたフィルの手を握るフラウ。
「これで、迷子の心配はありません」
「はは、そうだね、はぐれないよう手を繋いで行こうか」
「はいです、なんだか、この辺りって迷路みたいでどきどきしますね!」
楽しそうに答えるフラウ。
たしかにフラウが言うように細い路地は入り組んでおり
建物の先の曲がり道に何があるのか分からない迷路のようにも見える。
とはいえ、別段危険があるわけでもなく
見慣れない物珍しい土地に、子供の好奇心が刺激されているのだろう。
(そう言えば、僕も子供の頃に良く路地裏の探検とかしたっけ)
「そうだね……ねぇフラウ、少し遠回りして、奥も見てみようか?」
「いいのです?」
フィルの提案にフラウの顔が輝く。
やはりフラウも路地の事が気になっていたのだろう。
「うん、子供の頃によくこうした道歩いたなって。フラウも少し探検してみない?」
「はいです! あ、でもあまり奥に行かない方がいいかもです。サリアさん待っているかもですし」
「ははは、そうだね。それじゃあ、もう少しだけ行ってみようか」
「はいです!」
少しだけ遠回りをして路地を歩く二人
手を繋ぎ、用水路や花壇を見ながら歩く。
「そういえば……結局、小遣いは使わなかったんだね」
「えへへ、なんだかもったいなくて」
笑いながら買ってもらった小さなポシェットにもう片方の手を当てる。
「無駄遣いしろとは言わないけど、欲しい物とかあったら買ってもいいんだよ?」
「えーと、でも、あまり思いつかなくって。お洋服とかも買ってもらっちゃいましたし」
見上げるフラウ。少しだけフラウが繋いでいる手を強く握った感じがした。
「とっても楽しくて、なんだか夢みたいって思っちゃいます。だから今はあまり欲しい物が思いつかないんです」
満足そうな少女の様子にフィルも嬉しそうに頷く。
「そっかー、そうだなぁ、まぁ、無理に使う事も無いしね」
「はいです!」
暫く探検を楽しんだ後、再び大通りにでると
改めて目的地である街の門へと向かう。
「あ……、フィルさんちょっと待っててくださいね!」
大通りを歩いている途中、何かを見つけたのか、
フラウはフィルとの手を放し前の方へと駆けて行く。
何処へ行くのかと見てみると、
少し離れた場所に、昨日焼き菓子を買った屋台が見える。
どうやらフラウは、あの屋台を目指しているようだった。
屋台に着いたフラウは店の者と何やら話して
少し考えてから何かを思いついたようで、店の者に答える。
そして少し緊張した様子で、お金を渡し、お菓子を受け取るフラウ。
どうやら無事にお菓子を買うことが出来たようで
店の人から受け取ったお菓子を自分のハンカチに包んでいた。
そんなほほえましい様子を見ながらフィルも屋台へ向う。
遅れて屋台にたどり着いた時には、既にお菓子を包み終えて
フィルの到着を待つばかりとなっていた。
「ここは確か、街に着いた時に食べた店だね」
「はいです。とっても美味しかったので、帰りにみんなで食べようと思って」
そうやってフラウが見せたハンカチの包みには
結構な量の焼き菓子が包まれていた。
「なるほど、それにしても、結構買ったね」
「ええと、六個買ったのですけど、お店の人が昨日も買った事、覚えていてくれてて、村に帰る途中にみんなで食べると言ったら、おまけしてくれたんです」
えへへ、と笑うフラウ。
「なるほど、それは良かったね。お店の人にお礼は言ったかい?」
そう言い、頭を撫でるフィル。
「はいです。フィルさんとサリアさんの分も買いましたから、一緒に食べましょうね?」
「ありがとう。それじゃあ楽しみに待ってるね」
「はいです!」
街の正門までやってきた二人がサリアを探して辺りを見回していると
既に到着して門から少し離れた場所に居たサリアが、
二人を見つけて呼びかけてきた、
「二人とも、こっちですよー。 買い物はどうでしたか? おや、木を買ったのです?」
二人を見つけ、やって来たサリアは、
フィルの持つ袋から顔を出している苗木を見て言った。
「ああ、種と苗木を買ってみたんだ。家で育ててみようと思ってね」
「へぇ~ガーデニングですか! なんの種なんですか?」
「ん~トウモロコシやスイカ、ラズベリーとかかな、ちなみにこの苗木は桃だね」
「あら、庭造りじゃなくて、菜園ですかー。ラズベリー、私も好きなんですよ。育つといいですねー」
「そうだね。結構簡単だと、店の人は言ってたけど。一応育て方のメモも貰ったから、それを見ながら頑張ってみるよ」
サリアの言葉に頷くフィル。
正直なところ、農業はまるで経験が無いため、
上手く育てる自信はまるでなかったが、
これからの引退生活、時間はたっぷりあるのだし、
のんびり頑張るつもりだった、
「果物やお野菜、楽しみですね」
そんなフィルを応援するフラウ。
「うん。ちゃんと育つといいね。野菜を育てたりするのはフラウの方が詳しいみたいだし。フラウにとっても頼っちゃおうかな」
「えへへ。はいです! 頑張っちゃいますね!」
任せてくださいと答えるフラウの頭を撫でてあげながら
よろしくねとフィル。
「ありがとう。さてと、そろそろ村に向かおうか」
「はいです」「そうですね」
元気よく返事をするフラウとサリア。
そして、三人となった一行は、街の出口へと向かうことにする。
「と、そうだ、ね、フィルさん?」
「どうかしたかい?」
出ようとしたところで、サリアに呼びかけられて止まるフィル。
見れば、サリアはまるで恋する少女のように少し恥ずかしそうに
もじもじしながら言った。
「ええと、私の荷物もフィルさんのバッグに入れて欲しいなぁ~なんて」
「ははは、若いうちは苦労しておかないと。ロクな大人にならないよ?」
サリアの様子が演技だと気が付いたフィルは
そのまま笑顔で、お願いを却下する。
「え~フラウちゃんにはこんなに優しくしてくれてるじゃないですか~」
演技がバレたサリアは、悪びれもせず、すぐに普段の様子に戻ると
手ぶらで、お菓子の包みしか持ってないフラウを自分の前に置いて、なおも抗議する。
「いいじゃないですか~フィルさんのバッグ・オヴ・ホールディングに入れてくださいよ~」
「ほら、そんなに大声で言わないの。やれやれ、仕方ないな……」
仕方なく、人気のいない所へ移動する三人
サリアから彼女のバックパックを受け取ると
その荷物を自分のバッグへと入れた。
フィルの持つバッグ……バッグ・オヴ・ホールディングは
自分よりもかなり大きいサリアのバックパックを
詰まるそぶりすら見せず一息に飲み込んでいく。
「サリアさんは、荷物がいっぱいなんですね」
「一人旅ですからねー。野宿に必要な鍋やら毛布やら、暗いところ用のランタンとか、旅に必要そうな道具が一通りそろえると、あの位になっちゃうんですよ」
「わぁ~すごいですね!」
「ふっふっふ~。これでも冒険者ですからね! 準備はきちんとして置かないと、いざという時に大変ですから!」
そう言ってからフィルを見るサリア。
「フィルさんも、そのバッグに、一通りの準備が入っているんですか?」
「ああ、野外活動やダンジョン探索用の道具は一通り持っているよ」
「さっすが、経験者は抜かりないですねー。私も見習わないと!」
「僕はもう引退の身だからね。あんまり参考にならないと思うよ」
「そんなことないですよー。少なくとも駆け出しの一人旅なんて、分担できないから荷物ばかり多くなっちゃって大変なんですよー」
そう言って肩をすくめるサリア。
確かにさっき片づけたサリアのバックパックは
沢山の荷物でかなり膨れており
これを背負って長い距離を歩くのは大変そうに見える。
「なるほど、それなら、仲間を見つけないとだね。どのみち冒険を一人で行うのは危険だからね」
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