表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/276

邪神さんと冒険者さん 9

---------



「それで、フィルさん、村へは何時ごろに出発します? できれば私、少しこの街でお買い物をしておきたいのですが……」

サリアが言うには食料や消耗品を

村に行く前に、物が豊富なこの街で

買っておきたいとのことだった。


「なにせほら、昨日は到着早々、フィルさんたちの宿を探すのに、ほとんどの時間使ってしまいましたし」

「それはそれは、本当に、良く僕らを見つけ出したよね……」

頑張りましたから! と得意げに胸を張る。

年頃の少女のそんな様子に、

年頃を過ぎて既に中年のフィルの視線が自然と顔から下に向かう。

(ふむ、大きさはフラウと同じぐらいか)

「フィルさん、私の胸になにか気になる点でも?」

「え? いや 気のせいじゃないかな?」

見ればサリアはにんまりとした表情でフィルを見ている。

「ふーん、フィルさんは、そんな風にごまかすんですねー」

「まったく、目が行ってしまったのだから。しょうがないだろう。僕だって男なんだよ」

「ふふふ。素直でよろしい。許して差し上げましょう」

不意打ちで狼狽えているところを見て楽しんでいるのだろう。

これ以上何か言ったとしても、余計に不利になるだけだと

目をそらし素直に敗北を認めるフィルに楽しそうなサリア。

これでは話が進まないと、少し強引に話題を変える。


「やれやれ、それで……店に寄っていくにしても、夕方までには向こうにつきたいからね、昼頃には出たいけどいいかな?」

幸いフィル達がこれから向かう村は

この街からの距離もそう離れてないし

何より着いた先で宿を探す心配がないため

他の者達よりも時間には余裕があった。


「ええ、今からは朝市に行ってある程度揃えるつもりですから、朝市で揃え終えるころには商店も開いているでしょうし、商店で買う物もそんなにないと思いますし」

「分かった。それじゃあフラウ。僕達も少し朝市を見てみようか? 今日の昼のお弁当とか、昨日買い忘れてたけど野菜とかあればついでに買っておきたいしね」

「はいです!」


街の門の前で落ち合う約束をし、サリアとは別れ、

食料の市場を見て回ることにした二人。

市場では、まだ朝も早いというのに

周辺の街から届いたのであろう野菜や肉、

パンにソーセージなど、様々な食品が並んでいた。

午後に来た時と比べて食材の店が多く

菓子や軽食を売る屋台が少ないのは

今が各家庭や店で使う食材を買いに来る人が多い時間帯だからなのだろう。


「わぁ~昨日とはずいぶん雰囲気が違うんですね!」

朝市独特の雰囲気に、興味深そうに周りを眺めるフラウ。

迷子にならないよう、フィルの手を握りながらも

物珍しい食材の露店を見かけると、

自然に手を繋いだフィルを連れてそちらに向かってしまう。

フィルもそんなフラウの様子に嬉しそうに付き従う。

「フラウ、何か食べてみたい食材があったら買ってみようか」

「はいです!」

「よし、昨日は小麦とかばかりだったからね、料理に使える野菜とか、あとは果物とか香辛料で何か変わった物があれば……おや?」



話しながら辺りを見ていたフィルは

市場のはずれの方に

他の店と明らかに毛色の違う屋台が出ているのを見つけた。

そこには魚や野菜の姿はなく、

苗木や麻袋に入った種が販売されている。

明らかに食料を商う店ではないが、

ここに露店を広げにやってくる農家や他の行商人など、

それなりに需要はあるようで、屋台の前は人で賑わっているようだった。


「フラウ、あそこのお店に寄って行ってもいいかな?」

「あれは、種や苗木のお店です?」

「そのようだね。家で試しに育ててみようかなと思ってね」

「わぁ~なんだか楽しそうですね!」

「はは、そうだ、フラウは何か食べたいものはあるかい?」

「えっと……イチゴとか桃が食べたいです!」

「なるほど、よし、じゃあ、あったら買っていこうか」

「はいです!」

二人が露店につくと、

店の主人は普段の客とは明らかに違う二人に

おや?という顔をする。


「いらっしゃい。種が入用なのかい? 見ての通り、ここは種や苗木を売る店だからね~。食べ物はないよ?」

「あ、はい、家で色々育ててみようと思いまして、とりあえず桃とかイチゴとかってあります?」

フィルの言葉になるほどと、納得した主人は、

それならと、さっそく引き出しから種を取り出した。

「桃にイチゴね、イチゴの方は苗木は無いけど種ならあるよ。日当たりの良いところに蒔いて、毎日きちんと水を上げるといい。桃はこっちの苗木だね。これも植えてから二週間ぐらいは水をこまめに上げないとだめだよ。どちらも、育て方を書いたメモ付きで桃は苗木一つで銀貨一、イチゴは種十個で銀貨一枚だね。」


そういうと、店の主人は、今度は引き出しから羊皮紙を取り出して見せる。

初めて扱う作物を、原産地から遠く離れた土地で、

しかも種や苗木から育てることは、かなり難しい。

そのため、必要な条件を書き出して一緒に売っているのだという。

売る方としても種の値段だけでは殆ど金にならないが、

こうして育て方も一緒に売ることでより高く売ることが出来るし、

買う方としても貴重な種を無駄にしなくて済むため

新しい作物を探している農家などに重宝されているのだという。


「なるほどです。それなら知らないお野菜も失敗が少なそうですね」

「植物を育てるのは難しいんだ?」

家の手伝いで、農業をずっと手伝ってきたフラウが興味深そうに店をのぞく。

そんな様子に、フィルが質問するとはいですと頷く。

「種をまく時期とかもですけど、どんな土が良いかとか、お水はどのくらいあげるのかとか、その前に何を育てたかとか、いろいろ大事なんです」

「なるほど、じゃあ、それを一つづつください。後は……なにか、この辺では珍しい果物とか野菜とかってあります?」

「そうだなぁ、この辺で珍しいのというと、今はトウモロコシとスイカとトマトかな、どれも春先に蒔く種だから、今すぐには使えないけどね。あとは、評判のいい品種のラズベリーとかがお勧めかな。これなら日当たりが良い所なら適当に蒔けば生えてくるだろうしね」

「へぇ、それじゃ、それらを一つづつもらえますか」

「はいはい。これも種が十個づつで、トウモロコシ、スイカ、トマト、ラズベリーそれぞれ銀貨一枚だね」

店の主人に合計で銀貨六枚渡し、

苗木と種を受け取る。

ホールディングバッグに入れると、せっかくの種が死んでしまうので、

種は別のポーチに入れ

苗木は袋に入れてもらい持ち歩いて帰ることにする。


その後は、ニンジンや玉ねぎ、カブ等、いくつかの野菜と、

香辛料、乾燥させた魚に

今後しばらく食べる用のパンなどを追加で購入し

さらには、少ないながらも出ていた軽食の店で

昼に食べる用のサンドイッチを購入する。


「たくさん買っちゃいましたね!」

「……うん、さすがにちょっと買いすぎたかもしれないね。」

左右の手に一杯の荷物の包みを持つフィルを眺めながら

自分はサンドイッチの包みを持って楽しそうに言うフラウ。

既に手を繋ぐ余裕は無く、野菜売りの露店で沢山買った際に

店の人がサービスでくれた包みを両手にぶら下げての移動となっていた。


「フィルさん。私もいくつか持ちましょうか?」

フラウの方はまだ片手が空いており

お手伝いしますと言ってくれるのだが、

男としては、女の子に荷物持ちをさせるのは、なんか負けた気がする。

「このくらい大丈夫だよ。さてと、買いたい物も買ったし、そろそろ市場を出て待ち合わせ場所へ行こうか」

「はいです。あ、フィルさんフィルさん。あそこのお店は何でしょう?」

市場から出ようとしたところで、

フラウが何か珍しい露店を見つけたようだった。


フラウが指した先には、

何かを入れた陶器の瓶を売る露店があった。

売っている物は皆同じものらしく、

敷物の上に同じ瓶が八個ほど並んでいる。

その後ろでは、店の者らしい女性が、

小さなコンロをつかって鍋で何かを温めている。


「すみません。こちらは何を売っているんですか?」

興味津々といったフラウの元気な声に、

女性はこちらを見ると笑って答える。

「いらっしゃい。ここはスープの素を売っているんだよ」

「スープの素です?」

「そう、まぁこれを飲んでごらん」

そう言って差し出された小さな皿を飲む二人。

「フィルさんフィルさん、このスープ美味しいですね!」

「うん、いい味だね」

フラウの言葉にフィルも頷く。

チキンベースのスープは旨味が良く出ており味もしっかりしていた。

「でしょう? このスープは、瓶の中身を薄めたものなんだよ」

店の女性が言うには

濃縮されたブイヨンが瓶に詰められて売られており、

溶かすだけでスープの出汁に使えるという品だった。

「大体、大匙一杯で、お皿一杯のスープにできるよ。この瓶一つで五十杯ぐらいは作れるよ」

「わぁ、すごいですね。ちなみに一瓶はおいくらなのです?」

「これ一瓶は銀貨二枚だよ」

「わぁ~、フィルさん、これ、買っていきませんか?」

「そうだね、これがあれば、スープを作るのが大分楽になりそうだ」

一瓶、銀貨二枚とそれなりの値段はするが、

一杯あたりの値段にすれば銅貨一枚以下で、露店で買うより断然安い。

それに何より、料理の腕にまだ自信の無い二人にとっては

かなり重宝しそうな品だった。

すぐさま、瓶を二瓶購入したのだが

既に両手は荷物で一杯のフィルは

さすがに観念しフラウに瓶を持ってもらうことにする。


「大丈夫かい? 少しだけ頑張ってね」

「はいです。このくらいなら大丈夫ですよ~」

心配そうなフィルに大丈夫とフラウ。

陶器の瓶はそれほど大きくないものの

陶器の重さが想像よりも重かったのか

持った際に少しふらついてしまう。

不安そうなフィルにえへへと笑いかけると、

瓶のはいった包みを握りなおす。


ようやく市場の入り口にたどり着く頃には

時間も大分経ち、そろそろ待ち合わせの時間も近づいてきたので、

二人は待ち合わせ場所である、街の東門を目指すことにした。



---------


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ