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世界はレアアイテムであふれてる  作者: とびー
第八章「風の山脈」編
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謎解き

《クローネ・アイリス》


「皆の言ってる謎は、たぶん解けたよ」


 また、ユーロがそんなことを言う。


「一人一人の違和感は難問だが、全部つなぎ合わせれば至極簡単な話になる」


「まーね。あたしも薄々考えてる解答はある」


 フランも頷いた。リエルも心を読んでいるからわかっているのだろう。ミナは初めから考えるつもりがない。

 自分だけが置いてけぼりだ。


「ちょっと待って」


 クローネは急に反骨心が沸いて、自分で考えてみたくなった。


「私の違和感は、この子がどうやって山に登ったか。ミナちゃんのが、風は空気の移動だから、無くなったりいっぱいになったりするんじゃないか。リエルちゃんのが、風を起こしているものは何か。で、フランさんが、吹き降ろしなのに雨が降った理由――あ、そっか」


「わかったみたいだな」


 確かに、簡単な話だ。

 吹き降ろしでは話がおかしいのなら、現実が逆。


「風は吹き降ろした後、吹き上げてるんだね。あの森のところで」


 そうだ。森に辿り着いた時、毛玉は『宙へ向かって』飛ばされそうになっていた。

 あの時点で、風の方向は上。つまり、地面から山頂へ向かって空気は移動していたのだ。


「ミナとリエルの言う通り、山からずっと空気が吹き降ろしていれば、この辺りは空気でいっぱいになる。そうなった空気はどうなるか。当然、空気が足りなくなった山頂の方に還っていく」


 山頂から地表へ、地表から山頂へ、空気は循環する。


「フランの言うネヴァンの言い伝えを信じるなら、そうして常に空気が吹き上がっているからこそ、この辺りは雨が多い。だから、ここに森ができたんだ」


 森のところで、吹き上がっているのではない。

 吹き上がっているから、そこは森だったのか。


「さらにリエルの疑問、この風はなんなのか。それも妥当性の高い推測は立てられる。際限なく風が吹き降ろしてくる理由だけでは見当もつかないが、際限なく風が吸い込まれ、吹き降ろしてくる理由なら一つあるだろう」


「えっ……本気で言ってる?」


 フランが少し引いている。彼女の推論もそこまでは達していなかったのだろう。


「本気と言うか、それしか思いつかないんだ」


 クローネも、そこまで言われれば、ひとつだけ思いつくものがあった。

 しかし、それはあまりにも、恐ろしすぎはしないだろうか。

 もし、それがそうなら、南の限界など自分たちには、超えられるのだろうか。


 そう。

 南の山脈を踏破不可能にし、一帯に雨を降らせ、森を作り、この街をここまで発展させた、その全ての現象の原因。

 その正体は。


「竜の、呼吸――」


 ◇


 謎が解けたにも関わらず、ユーロの表情は冴えない。

 やはり、越えなければならない敵があまりに強大であることがわかって、気落ちしているのだろうか。

 それを指摘すると、


「え? いや、そんなものはどうとでもなるだろ」


 ユーロはあっさりとそう言ってのけた。


「そうじゃなくて、俺の抱えてた違和感の方が全く解消してないんだよ」


「その中身をちょっとでも言ってもらえないとなー」


 と首を傾げるのはフラン。


「さっきから違和感としか言わないから」


「うーん、自分でも何がわかっていないかがわかっていないんだ……」


 クローネはふと思いついて、とあるアイテムを取り出す。


「もしかして、これのこと?」


 それは、クローネが毛玉の毛の中から摘出した謎の破片。

 ユーロはこれを『光っている』と言ったので、無意識に気になり続けたのではないかと思ったのだ。


「確かに、それは気になってはいるんだ」


 なんと言ってもレアアイテムだ。ユーロにとって最大の原動力となっていることは間違いない。

 ところが、それをユーロの掌に乗せてあげても、表情は浮かない。


「違った?」


「これが何かもわからないしな……。あれ、これちょっとひんやりするな?」


「えっ、そう?」


「いや、気のせいかもしれない」


 ユーロはまた黙々と考え始めた。


「それが毛玉さんの体に突き刺さっていたのは」


 沈黙に耐えかねてか、珍しくリエルが口を開く。


「その破片に向かって、勢いよくぶつかったことになりませんか? それはつまり……」


「毛玉を山頂に吸い上げた本人である竜の、鱗か何かの破片、ということか?」


「いえ、鱗は……違います。この街のお店に飾ってあったものは、もっと濃い青色、でしたから」


「それが偽物だったら、話は別だけどね」


 フランが横槍を入れた。

 それを聞いて、ユーロはいっそう険しい顔になる。


「偽物……偽物。そうだ。その飾ってあった鱗は俺も見た。それは『光っていた』」


「ええ、じゃあ、本物かー」


「だが、俺以外はそれをどうやって判別する? どうやってあれが本物だと? 誰も、竜の姿を見ることができないのに」


 確かに、この街に来てから、一度も竜の姿を見ることはできなかった。

 それは当然だ。竜の棲む山に登るどころか、麓に近づくことすらできないのだから。

 強いて言えば、街の至る所にある竜と風のモチーフくらい――モチーフ?


「なんで……この街の人は竜の姿を知っているの?」


「――それだ」


 ユーロは突然立ち上がった。


「おかしいんだ。あんな風の中では誰も山に登れないのに、街には竜の姿を模したモチーフに、拾えるはずのない竜の鱗。そして、かつて名物だったという『山菜料理』」


 ようやくクローネにも、ユーロの抱えている違和感の正体がわかった。

 街並みのすべてが、まるで、山になど簡単に登れることを前提とするような情景。

 見てきたもの同士が、あまりにも噛み合っていない。


「では、街の人だけは風が吹こうとも、山に登れる力かコツを持っているのか? 違う、山菜料理は今やどこにも売っていない。考えられるのはひとつ、山の風は、かつてより強くなっている――」


 怒涛の勢いで、ユーロは考察を組み立てていく。

 立ち上がったその足で部屋を歩き回りながら。


「なら昔は竜がいなかったのか? それはおかしい。それだと竜と風のモチーフも鱗も存在できない。森も発展しない。竜はいて、風も吹いていた。けれど、それは今より弱かったんだ。なぜか?」


「まだ幼かった、とか?」


「それは考えられる、が……あのモチーフは『幼い竜』には見えないんだよな」


 ユーロはクローネが渡した欠片を、しげしげと眺める。


「そうだ、もうひとつの可能性があった」


 歩き回るのを止めて、ユーロは言った。


「竜が子を産んだ可能性。この欠片は、卵の殻だ。そしてこれがひんやりしているのは、殻自体が呼吸をしているからだ」


 そう言われれば、確かにその欠片は、巨大な卵の一部分にも見える。


 もし、それが正しいとして。

 毛玉にそれが突き刺さっていたということは、竜ではなく、割れた卵に向けて吸い込まれたということ。

 ならば竜の卵は竜と同様に、空気を吸って吐くことができるということだ。それはおそらく、中にいる子竜の呼吸を助けるためだろう。


「……なんとかして、見られないかな」


 ユーロが不審な一言を呟く。


「見るって、何を?」


 クローネが恐る恐る聞くと、


「山頂にある卵だよ。それさえ確認できれば、仮説は全部真実になるし、活路さえ開けるかもしれない」


 そう、あっけらかんと答える。

 嫌な予感は、どうやら正しかったようだ。

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