推理会議・1
《リエル・サナ/クローネ・アイリス/ミナ・エル・エトゥ》
『宿舎』共用スペースにて。
先日のミナの「記憶を探したい」という発言を受け、ミナについて話し合う会が持たれた。
というのも、
「記憶を探す旅をするのは全くもって賛成だが、その前に、もしかすると俺たちはもう十分なヒントを手に入れているんじゃないか」
とユーロが呟いたことによる。
クローネやリエル、それにミナ自身もその言葉に心当たりを感じたらしく、全員が深く考え込んでしまった。
埒が明かないと思ったユーロが、
「じゃあ、どうせなら各自、気付いたこと、思ったことをじっくり時間をかけて考察して、後で発表して話し合うことにしないか」
と提案。
それから二日が経ったのが今日なのである。
「よし、それじゃあ、皆何かしら考えもまとまったようだから、予定通り発表を始めたいと思う」
ユーロが宣言して、会議が始まる。
「やることは簡単だ。まず、ミナについて自分が気になる点や、重要なヒントだと思う事柄を公開。次にそれに基づいて考えた仮説を発表。最後に、その仮説について他の全員が質問や突っ込みをして、問題が無さそうなら『ありえそうな仮説』として、今後の記憶探しの方針に生かす。以上だ。順番は特に影響しないと思うが、最初は誰がする?」
まずはリエルが手を挙げて、発表が始まった。
◇
「……この仮説は、本当はずっと、黙っているつもりでした」
リエルは控えめに、俯きがちで話し始める。
「まず気になる点、ですよね。私はずっと、ミナさんの笑顔が気になっていたんです」
「えがお?」
当のミナがにこっと笑って、聞き返す。
「そう、です。その笑顔、です。あの、とても説明しにくいのですが、ミナさんの笑顔は、純粋なんです」
「純粋、と言われても、理解しにくいな……。もうちょっと詳しく言えるか?」
「ごめんなさい。とても、主観的で、とても曖昧で。信じてもらえない、かもしれません。でも、私が感じた印象は、ミナさんの笑顔には、全くクセがないんです。まるで赤ちゃんのように。まるで本能で作ったように。まるで、生まれてから今まで、一度も笑ったことがないかのように」
「……」
ユーロは黙って考え込む。リエルの言葉をどうにか咀嚼して理解しようと努めているように。
「もう一つ、あります。ミナさんの心の声は、お師匠やクローネお姉ちゃんの声に比べて、とても理性的で、余計なことが入っていないんです。必要なことだけを話し、横道にもそれず、動揺もしない。まるで普通の会話、です」
「?」
言われたミナ本人が首をかしげている。
「おそらく、それが特別だということを、ミナさん自身、気が付いていない、です。それがどういうことなのか、私は考えました。それで思い出したんです。ミナさんのスキル、いえ、『グリム』のことを」
「『グリム』ってあの、火とか雷とか、自由に出せる能力だよね?」
「はい。ミナさんはあれがスキルではない、と言いましたが、それならミナさんが自分自身のスキルを持っていないことがおかしい。逆に『グリム』がスキルだとすれば。スキルは深層心理によって与えられる、と聞きます。では、『グリム』というスキルの正体は何なのでしょうか。あれほど何もかもができてしまうようなスキルを手にするための深層心理とは、何なのでしょうか」
慣れない話をしすぎたのか、リエルは一息深呼吸をすると、また話し出す。
「私は、『グリム』は、一つのスキルでは説明できないと思いました。だとしたら、複数のスキルを入れ替えて使っているのではないですか」
「複数の、スキル……。いや、でも実際は、スキルは一人一個なんだ。ミナだけが例外という説明にはそれなりの説得力が必要だぞ」
「もしかすると……、ミナさんは、深層心理をある程度自由に操れるのではないでしょうか。スキルが深層心理の結晶だというなら、その深層心理を変化させれば、スキルも変化するのではないでしょうか。そう考えました」
「なるほど……。いやしかし、それでもまだ、『そうであれば説明できる』というだけで、無数の可能性の一つに過ぎないんじゃないか?」
「いえ、根拠が、あるんです。それが、ミナさんの心の声です。お師匠は、私のスキルを正確に覚えていますか」
「確か、心を開いている相手の、表層心理を読む――表層心理、そうか」
「そうです。心の声、つまり表層心理が、かなり自由に制御できる。それなら、ミナさんにとっての深層心理は、私たちにとっての表層心理と同じくらいには、ある程度制御できるのではないですか」
ユーロは顎に手を当てて考え込んだ。今の論拠におかしいところがないか、チェックしているのだろう。
「ミナさんの深層心理と、表層心理と、外側が、ひとつずつずれて奥へ入り込んでいるのなら。深層が表層にあたり、表層が外側にあたるのなら。私たちから今見ているミナさんの、『見えている外側』――つまり、外側のもっと外側は、一体なんなのでしょうか。それが……ミナさんの笑顔が純粋すぎる理由と、繋がっているような気がしたんです」
リエルはさらにひとつ深呼吸をして、辛そうな顔で続ける。
「ここまでが。私の考える、ポイントです。ここからは、仮説、です」
見るからに苦渋の表情。それでも、重い口を開くように、言葉を紡ぐ。
「外れていればいい。外れていて、ほしい。だから、言いたくなかったんです。でも、ミナさんが、『元の場所に帰りたい』のでもなく、『何かを思い出したい』のでもなく、私たちと一緒にいたいと、言ってくれたから。そのために、『本当の自分が知りたい』と。だから――、私はこの仮説を、発表します」
目をつぶり、歯を食いしばって何かに耐えた後。
覚悟を決めたようにミナを見据えて、言う。
「ミナさんは、何者かのスキルによって、作られた存在、です」
「!!」
驚いたのはミナではない。ユーロとクローネである。
「そ、そんな」
「もし……、私の言ったことが正しくて、ミナさんの心理が一つずつずれているなら。ミナさんの深層心理のさらに内側には、『本当の深層心理』が隠れているはずです。その『本当の深層心理』が持っていたスキルが、ミナさんという存在の、根本だと思うんです。つまり、元々誰かがいて、その誰かがスキルを発動してミナさんという外側を作り出し、自分自身はミナさんの内側に入り込んだ。ミナさんの記憶は失われたのではなく、作られたばかりだから、始めから……っ」
どうしても、その先は言えなかった。それを、
「はじめから、なかった」
ミナが、引き継いだ。
「こう、かな? リエル」
「……っ、そう、考えれば――全ての辻褄が、合ってしまうんです」
ミナはリエルに近寄り、ぎゅっと抱きしめた。
「ありがと、リエル。もし、そうなら、ワタシはそれでもいい。だって、これからワタシを、つくるから」
「……っ、ミナ、さん」
しばらくそうして抱き合う二人を、ユーロとクローネは何も言えずに見つめていたが、
「あ、あの、リエルちゃん。それだとミナちゃんが、うっすら覚えていたとか、知識はあるみたいなことが何回かあったのはどうなるの?」
「それは――、おそらく、元のスキルを使って、ミナさんの内側に入り込んだ人の、記憶の名残、です」
「いや、待て。リエル」
突然思いついたように、ユーロが声を上げた。
「それは却下だ」
「え……」
リエルが少し不服そうに、そして半分以上は嬉しさを隠せない顔で、ユーロに詰め寄る。
「何か、おかしい、ですか」
「ああ。おかしいよ。リエルの説だと、ミナの使っていた言葉、あれはどこから来たんだ」
「そ、それは」
リエルも一応自説にそれなりの矜持があり、反論を試みる。
「作られた時に、生きるための知識が、付加されたんです。でないと、すぐに死んでしまうから。その一つに、言葉もあった、のでは」
「だとしても、その元のスキルを使った人間とやらは、俺たちと同じ言葉が通じたはずだ。それがなんでわざわざ、なんだかよくわからない言語に換わったんだ?」
「言葉は複雑で、膨大、ですから。そのスキルでは上手く言葉を、与えられなかった。それで、意味のない言語になってしまった。というのは」
「意味のない言語、は有り得ないな。ミナの言葉には、ちゃんと意味が通っていた。その証拠に、『ありがとう』と言う場面では、常に『ラトゥトゥ』と発音していた」
それは、リエルは全く意識していないことだった。ただでさえ言葉でのやりとりが苦手なリエルは、通じない言葉をわざわざ聞き取ろうとしていなかったのだ。
「もちろん、リエルの言う通り、新たな人格に全く新たな言語が与えられたという可能性も、完全にありえないとは言えない。スキルは何でもありだからな。だけど仮説の信憑性という意味では、大きく下がると思うよ」
「そう、ですか……」
自説は論破されたが、リエルはほっとした。
「では、私の仮説は、取り下げます。役に立てなくて、ごめんなさい」
「いや、リエルの示してくれた、心の声やグリムについての考察自体は、きっと後の参考になるはずだ。勇気を持って発表してくれて助かった」
ユーロはリエルの頭に手をのせ、ポンポンと軽く叩く。
「じゃあ、次に移ろうか。誰が行く?」
次に手を挙げたのは、クローネであった。
◇
「じゃあまずは、ポイントから話すね」
クローネは明るく話し始める。
「一つ目は、すごく主観的になっちゃうけど……、ミナちゃんの、考え方のこと」
そこで、クローネは人差し指を立てて強調した。
「リエルちゃんにも助けてもらって、ミナちゃんに、たくさん話をしてもらったことがあるの。その時に思ったのは、ミナちゃんの考え方がすごく公平で平等で、なんというか、先入観のようなものが全くないっていうこと。特に、人間と魔獣について」
特に、その時の話を聞いていないユーロに向けるようにして説明する。
「ミナちゃんにとっては、人間と、魔獣と、それ以外の生き物について、区別のようなものが全くないの。対象が何であっても変わらない、すごく理性的な判断ができる。それって、私たちのような普通の人間には、どうしてもたどり着けない境地だなと思ったの。魔獣の言葉が聞けるなんてスキルを持ってる私さえもだよ」
「まあ、確かに。魔獣の意味について突き詰められた時は焦ったし、鋭いと思ったが」
「そして、二つ目」
人差し指に続き、中指を立てる。
「ミナちゃんの外見のことなの」
誰もがミナを初めて見て思うのが、その白さ。髪も白く、服も白く、そして肌も白っぽい。それなのに瞳だけが、爛々と赤く輝いている。
「私、今まで、ミディールでもセクアナでもネヴァンでも、白い髪を見たことはないと思う。赤い瞳も。これって重要なことじゃないのかな?」
「確かに、言われてみれば見たことがないな。あまり気にしてなかった」
クローネはひとつ頷き、
「ポイントは今の二つなんだけど、仮説に行ってもいいかな」
そう言って、参加者を見回す。
ユーロが目で促すと、
「じゃあ、発表します。この仮説は、普通の人なら、なんて失礼なって思うかもしれない。怒るか、ショックを受けるかもしれない。でも、ミナちゃんなら、きっと大丈夫だと思うから」
そう言ってミナを見つめ、こう宣言した。
「ミナちゃんは、魔獣です」
「……なるほど、そう来たか」
ユーロは半ば予想していたような反応だ。
「あ、でも。ユーロくんが前に言ってたように、魔獣っていう言葉に『人間にとって害をなすもの』って意味が入ってるなら、ミナちゃんは魔獣に入らないよ。害は全然感じないから。でも説明しにくいから、今は魔獣って言い方で通させてもらうね」
「ちょっと待て、クローネ」
早速ユーロが口を挟む。
「質問は仮説を説明した後じゃないの? ユーロくん」
「いや、その仮説の論拠はもう十分に理解できる。要するにさっきの二つ、人間と魔獣を対等に扱いすぎる点と、外見が人間離れしている点だろ。それに、ケンタウロスのことを思い出せば、ミナが独自の言語を持っていたことも説明できる。謎の力『グリム』も、魔獣それぞれが持ってる不思議な力、たとえばスローサーが人間に聞こえない音で会話できたり、ベルーノンが羽ばたきもせずにふわふわ浮いたりするのと同等のものだと思えば、納得できなくもない。だけどな、よりによってクローネがその仮説を言うとは思わなかったぞ」
ユーロは呆れ顔で言った。
「一番重大な反論を忘れてる。魔獣なら、クローネのスキルが発動しないのはおかしいだろ」
「うーん、確かにそれを言われると辛いなあ。自分のスキルのことだけに」
クローネは一瞬引いたように見せたが、
「だけどそれってそんなに重要なことかな、って思ったの。他の全てのことに説明がついて、私のスキルだけ説明がつかないなら、そっちが例外になる理由が何かある、って考えた方が自然じゃないのかな」
「それを言い出せば、ある程度説明の付く仮説は全部通ってしまわないか? 説明の付かないところを、何か例外的な理由があるって処理してしまえばさ。たとえばリエルの仮説だって却下できなくなる」
「ううん、リエルちゃんの仮説は、他にもおかしいところがあった。例えばクリッキーを『ティップ』って呼んだり、スキルを『アーツ』って呼んだり。それってミナちゃんは知識としてそれらを知ってたってことだよね? 生きるのに必要な知識でもないし、記憶の名残だったら、言葉が違うことに説明がつかないでしょ。そう考えると、リエルちゃん説は説明の付かない点がいくつもある。私の仮説は、今のところおかしいのが私のスキルだけ」
「つまり、リエルのよりは説得力がある、と言うわけか」
「それにね、リエルちゃんの説明を聞いた今なら、私のスキルが通じなかった理由も説明できる気がする」
それにはユーロも意外そうな顔をした。
「ミナちゃんの心の声は制御できてるっていう話。これは、ミナちゃんの属する種族がそういう性質を持っているのかもしれないし、ミナちゃんだけの性質かもしれない。とにかくそのせいで、私に言葉が伝わらなかったんじゃないかなって思ったの」
「……クローネお姉ちゃんのスキルは、魔獣の心の声を読むスキル、ですか?」
「ううん、違う、けど。あくまで魔獣の声を聞き取って理解するんだけど、でもその理解の仕組みがどうなってるかなんて、私にもわからない。もしかしたら、魔獣自身が『こういう言葉を話そう』って意識したことを読み取って、私の耳に反映する仕組みかもしれない」
そこまで言われて、ユーロは反論ができなくなった。
ありえそうな仮説として採用していいものか、もう一度考え始める。
「あの、いい、ですか」
ところがなんと、反論したのはミナ自身だった。
「ワタシ、『ティップ』、しってる。『ヴェルスク』、しってる。あー、『ヴェルスク』は、レムード、です」
つまり、クリッキーとレムードは、自分の言葉で言うことができる、ということか。
「ワタシは、ワタシを、『レヴェン』とよぶこと、しってる。『レヴェン』は、にんげんです」
「つまり、ミナちゃんは自分のことを、『レヴェン』っていう人間を表す単語で呼ぶことを知識として知っているから、人間だっていうこと、かな? でも、ミナちゃんは私たちのせいで自分を人間だと思い込んでいて、『レヴェン』という知識に当てはめてしまった、ってことはないのかな」
「もし、そうなら。もし、ワタシが、『レヴェン』じゃないなら。ワタシを、あらわす、ことば、しらない。それが、おかしい。です」
「な、なるほど」
ユーロが今の言葉をわかりやすく言い直す。
「もしミナが魔獣として生きてきたなら、ミナ自身を表す種族名がミナの語彙に無ければいけないんだ。でも、ミナは自分の外見に当てはまる言葉を、『レヴェン』しか知らない。もし人間と、人間に似たミナの種族が両方存在するなら、ミナは自分のことを『レヴェン』じゃないと言われた時点で、もうひとつ心当たりのある単語を思い浮かべるはずなんだよ」
「じゃ、じゃあ、ミナちゃんは魔獣だけど、元から人間の中で暮らしてて、自分が魔獣ってことを知らなかった、っていうのは」
「そうしたら今度は、ミナの言語はどこから来たんだという問題が再登場する」
「……それに」
リエルも反論に参加した。
「私たちの目的は、ミナさんの記憶を探すこと、です。もしミナさんが、人間として過ごしてきたなら、それこそが探すべき記憶、です。正体が魔獣かどうかは、意味がありません」
「……そっか。そうだね。目的を見失ってたよ」
クローネは大人しく引き下がると、
「私の説は取り下げます。じゃあ次は、ユーロくんかな?」
「あの」
ユーロが何か言う前に、ミナが前に進み出た。
「ワタシのかんがえ、いい、ですか」
◇
「ミナさんが違和感を持っている点は、いくつかあるそうです」
リエルがミナの心の声を読み取って、代理で発表を伝える。
「たとえば街並み。たとえば服装。色々な物が自分の記憶と違う気がする。もちろん、記憶が無いので、記憶と違うなんてことは断言しようがないのですが。あくまで違和感という程度だそうです」
ミナのこくこくと頷く顔を見て、リエルは続ける。
代理で話す時だけは、リエルはやけに流暢だ。
「それに、記憶がないことそのものが、最も腑に落ちないのです。目が覚めたとき、頭が痛かったわけでもないし、外傷も無かった。ただお腹が減って喉が渇いていた。何によって記憶を失ったのかが全くわからない。とのことです」
「それもまた、新しい観点だ」
何によって記憶を失ったのか。
漠然と、何か物理的な、あるいは精神的なショックがあったのだと、ユーロは思い込んでいたが。
「記憶の消え方も綺麗過ぎる。言葉や、生きるための知識はほとんど揃っていて、思い出だけがすっかり無くなっているそうです。こんなことが起こりうるのでしょうか」
「まあ、俺たちの中で記憶を失ったのはミナだけだし、どこからどこまでが『起こりうる』記憶喪失なのかはわかりようがない。それに綺麗過ぎるって言うのも主観的な基準だからなぁ」
「ミナさん曰く、自分の仮説は、『自分の記憶は意図的に消されたのではないか』ということです」
「消された?」
なにやら物騒な仮説に、ユーロもクローネも眉をひそめる。
「『アーツ』……つまりスキルによって。あるいは、『グリム』によって」
「『グリム』って、そんな複雑なことはできないんじゃなかったの?」
「それも記憶が曖昧なので断言できないらしいです」
「しかし……誰がどうしてそんなことを」
ユーロがそう呟くが、そんなことはミナに知りようがないことを、ユーロ自身わかっていた。
そこで、切り口を変えた質問をする。
「そうだとして、結局ミナはどこから来たのか、とか、あの言語は何なんだ、とか、色々疑問が残るんだが」
「ミナさん自身、記憶についてはこうではないか、と言う仮説を披露したかっただけで、その他の疑問については全く見当も付かないそうです」
「ごめんなさい。いろいろ、かんがえることは、むずかしい、です」
ミナ自身が謝罪の言葉を付け足した。
「いや、いいんだ。部分的にでも解決できたほうがいいもんな。じゃあ、最初に言ってた、街並みに違和感がある、っていうのは?」
「それはおそらく、無理やりに思い出だけを消されたせいで、家を見た記憶はないけれど家という概念だけは知っている、という変な状態になっていることが原因ではないかとミナさんは予想しています」
「ふむ……特に矛盾はないように感じるな」
「だけどミナちゃん、それはユーロくんの言うところの、『無数の可能性の一つに過ぎない』んじゃないかな。その説明だけが特にありえそうだってわけじゃないでしょう?」
「たしかに、そう、です」
「ミナちゃん自身の意見だから、尊重はしてあげたいけど。でも、記憶を消すスキルを持った人がたまたまいたとして、その人がミナちゃんの記憶を消すことに何のメリットがあるんだろう。どうしてもっと直接的な手段に出なかったんだろう、って考えていくと、信憑性はそんなに無いんじゃないかなって思う。ごめんね」
「わかった、です」
ミナはあっさり認めた。
「まあしかし、撤回するほどでも無いよな。可能性の一つとして持っておく、ってことで」
ユーロが言って、ミナの発表は終わる。
残るは、ユーロだけだ。




