ユーロの場合
《ユーロ・クレセント》
ユーロにとって、ミナという少女はレアアイテムのようだった。
もちろん、彼女を物扱いしているとか、人格を意識していないわけでは一切ない。
そうではなく、彼女と出逢った出来事そのものが、ユーロにとってはレアアイテムの発見と重なる感覚がしていた。
あの時、ユーロは迷いもせず、ミナを襲っていたレムード三頭を殲滅した。
その行動自体はおかしくないのだが、色々な意味で、迷いが無さすぎたことを後から不思議に思った。
以前からクローネの手前、魔獣を「狩る」ことは意識して避けてきたユーロである。
見知らぬ一人の少女と、三頭のレムード。
そして、パーティーの安全。
それらを総合的に判断し、それでも少女を助けると判断したならばいい。
しかし、あの時のユーロはほとんど無意識に行動していた。
無意識に攻撃し、しかもリエルに少女の救出を求めてしまうというミスも犯した。
なぜこんなことをしたのか、クローネに「あんな無茶をして」と怒られてから、何となく心当たりがあった。
今までにも、似たようにクローネに怒られたことはあったのだ。
そう、レアアイテム絡みの時である。
もちろん少女の体が、ユーロのスキルで光って見えていたというわけではない。
いくらこのスキルが人間相手に発動するようになったと言っても、今のところそれが起きたのは、クローネ、リエル、それにフランが幸せな感情を見せた時だけだ。
見知らぬ他人に対して、「こいつは役に立つ!」と言うかの様に光が見えたことはない。
だから、ミナは決してレアアイテムではない。
ユーロが単に一人で突っ走って無茶をした、という解釈をすればそれまでである。
だが、スキルではなくもっと非論理的な何か、第六感のようなものによって導かれたのだとすれば。
ミナはまさに、運命によって遣わされた少女なのかもしれない。
◇
ネヴァンへの旅から十日ぶりに『宿舎』へ帰ってくると、ミナがユーロに飛びついた。
「さみしかった!」
ユーロは少なからず驚いた。ミナがこのように負の感情をあらわにするのは珍しかったからだ。
「ごめん、長い間待たせたな」
「もーっ」
最初に会った頃と比べれば、ずいぶん言葉も感情表現も自然になっている。
そろそろ普通に出歩いてもいい頃かとユーロは思う。
「ユーロ、クローネ、リエル。ワタシ、きめたの」
ミナはユーロから離れると、三人に向かって勢いよく宣言する。
「ワタシ、きおくを、さがしたい。ワタシがだれか、しりたい。ほんとのワタシで、みんなといっしょにいたいの」
「ミナちゃん……」
声を出したのはクローネだったが、ユーロも同様に驚いた。
記憶を取り戻して、ミナを元の生活に戻す。それが、ユーロ達の目標だった。
けれどミナは、記憶を取り戻して、それでもユーロ達と一緒にいたいと言う。
「だから、お願いします。ワタシを、てつだってください」
ミナは綺麗に頭を下げた。
純白のロングヘアーが、垂れ下がって揺れる。
「もちろん、です」
意外にも最初に答えたのはリエルだった。
「ミナさんは、私に笑顔を教えてくれた、友達、です。ミナさんがどう思っていようとも」
リエルがこんなにもはっきりと自己主張するとは。
確かに最近ミナと一緒にいる時は、リエルは笑うことが多くなった。
「私も」
クローネも続けて声を上げる。
「私もミナちゃんの味方でいたい。罪悪感でも罪滅ぼしでもなくて。ミナちゃんのために記憶を見つけたい」
クローネも、最近すっきりした笑顔を見せるようになった。
ミナが来てから、なぜかクローネが笑ってもユーロのスキルが反応しなかったり、陰った光を見せていたのだが、今回のネヴァンの旅では素直に楽しんでいる様子がスキルでもはっきりとわかったのだ。
「俺は」
ユーロは悩んだ。
ユーロももちろん、最初からミナの記憶を探したい気持ちは同じだ。
でも、今の二人のように、全力で心から、ミナのためにと宣言できるのだろうか。
――気にかけてくれるのは嬉しいけど、いちいちそういうのはやめてほしいよ、ユーロくん。
――謝らないで。私達はそういうのも覚悟で着いてきてるんだから。パーティーなんだから。
唐突に、クローネに言われた台詞が浮かび上がってきた。
そうか。
俺は、リエルのように他人の内面を気にかけようと決めてからずっと、勘違いしていたのかもしれないな。
そうだ、俺だって、全力で心から言えることがある。
「俺はもしかしたら自分のためなのかもしれない」
意外そうな顔で、クローネがユーロを見た。
「ミナを助けたのも、記憶を探すのも、何か自分の見つけたい物のための手がかりに近づきそうな気がするから、やっているのかもしれない。すごい自分勝手で、自分でも呆れる。けど」
ユーロは今度は、謝らなかった。
「ミナは今じゃ、大切なパーティーだ。仲間だ。家族だ。その思いだけは絶対に本当だ」
ミナはそれを聞いて、いつものような純粋な笑顔で、にこっと笑った。
「ミナのために、俺も記憶探しを手伝いたい。ついでに、『自分自身の夢のために』を付けて良ければ」
「ふふっ」
その笑い声に、リエルが目を見開く。
そうか、ミナが声を上げて笑ったのは、これが初めてだ。
「もちろん、です。リエル、クローネ、ユーロ。みんな、ありがとです!」
ミナは一人ひとりに抱きついてから、「ねむたいのです」と言って寝室へ向かった。
もしかすると、待ちすぎて寝られなかったのかもしれない。
「相変わらず無茶苦茶な言い草だね、ユーロくん」
クローネがニヤニヤしながら、ユーロを小突いた。
ユーロのスキルが豪快に反応し、クローネの笑顔が光り輝いて見える。
「でも、最近のユーロくんより、そっちの方が、ずっとかっこいいよ」




