後日談
《リエル・サナ》
「それで結局、クローネの心の声は聞けるようになったんだな」
「……なりました、けど」
リエルがちらりと目をやると、クローネがにこにこと笑顔を振りまいていた。
(リエルちゃん可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い)
「前のほうが良かったです……」
リエルは心底げんなりして言った。
「いいことじゃないか。仲良くなれたんだし、リエルをわかってやれる人間が増えたってことだし、作戦の幅も広がるし」
ユーロは完全に他人事モードである。心からそう思っているというのがまた辛い。
「それにこうやって、ケンタウロスの神殿を突破できたんだしな」
◇
ケンタウロスの守っていた城門の先は、かつて栄華を誇ったケンタウロス一族の街であった。
昔は人間との親交も厚く、特産品を交換するなどの交流も行われていたらしい。
それが、人間側の裏切りに遭い、滅ぼされた。
辛うじて生き残った何頭かの仲間も散り散りになり、唯一あのケンタウロスだけが、一人で皆の帰る場所を守っていた。
『だが、結局我は、過去の栄光と恨みを残そうとしていただけだったのだな』
クローネの心の声を通して、リエルはケンタウロスの独白を聞く。
『気付いてみれば、なんと虚しく、孤独な戦いをしてきたことか。その娘に一緒だと言われて、やっと理解できた』
百年以上生きたというケンタウロスの、過去の記憶。栄華と滅び、そして人間への恨み。それら全てを一緒にして、門の向こう側へ封印していたのだ。
『恨みをぶつけるべきあの日の人間達は、とうの昔に寿命を迎えているだろう。我はその代償を今の人間達に払わせていただけだった。そして、もはや仲間も戻るまい。戻ったところで、このような廃墟では何もできない。我のしてきたことは全て無駄だった』
「そんなことはありませんよ」
クローネの翻訳を横で聞いていたユーロが口を挟んだ。
「復興すればいい。どうせ寿命が有り余ってるなら、他の仲間を探して、集めて。再び作り上げればいいんじゃないですか」
『ふっ、簡単に言いおる』
ケンタウロスは笑った。
『だが、お主の言うとおり、どうせ長い命。それも良かろう』
「……それなら、あなたの名前を教えてくれませんか?」
『名前だと?』
「ええ。俺はユーロと言います。あなたの名前が知りたい。いずれどこかで会うこともあるでしょう?」
『なるほどな。我を単なる魔獣、単なるケンタウロスと考えず、一人の人格として理解する態度。確かにその娘の信頼に値する少年だ』
そしてケンタウロスは、自らの言語で、ユーロにその名を告げた。
◇
――最後にひとつだけ、教えてください。ここ何年かで、この樹海を通り抜けた冒険者はいましたか?
――有り得ないな。この樹海は最初に我らの場所を抜けなければ絶対に踏破することは出来ない。それに、果て無き樹海を抜けたところで、その先には大海原が広がっているだけだ。
◇
「ソル、か。どこかで会えるのかな」
ケンタウロスが去っていった先を見ながら、ユーロが呟いた。
「ユーロくんが外の世界に出る頃には、案外先を越されてるんじゃない?」
「ははは、そうかもな。ああ、しかし、まさか北の限界が外れとはなぁ」
「外れでもないでしょ。廃墟にあったアイテム貰ったし、樹海の先にも進めるじゃない」
「進んでも海だって言うんだろ。それなら樹海の踏破はもう他の冒険者に任せたい」
「お師匠、今浮かべている顔は誰ですか?」
「リエルちょっと待て」
「あーわかった。ユーロくん、師匠さんの情報が無かったからひねくれてるんだ。なーんだそういうことか」
「あーもーお前らなあ!!」
楽しそうな声が三つ分、樹海からセクアナの街へと歩いていった。
◇
近いうちに、奇妙な情報がセクアナに広まった。
ケンタウロスの神殿は開かれ、門の向こうには広大な廃墟と、誰かが石を積んで作ったような小さなお墓がポツリと立っているという。
樹海の向こうを目指す冒険者がその廃墟を野営地として借りる際には、その奇妙なお墓の前で手を合わせておくとよいそうだ。




