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フランの店・3

《ユーロ・クレセント》


「ういーす」


 いつものように、ユーロは店の入り口をくぐった。

 しかし、いつものような反応は返ってこない。


「?」


 店の奥を覗けば、フランは普通に作業台で作業をしているようだった。ただし、まったく音が聞こえてこない。

 何か集中力を要する、静かな作業をしているのか。

 そう思って、そのまま店の品物を見ていると、


「うわっ、ユーロくんか! びっくりした!」


 フランが作業台から立ち上がってやって来た。


「いつからいたのさ!」


「ちょっと前に来た。声かけたけど、集中してるみたいだったから」


「あー、そっか。ごめんごめん」


 フランは気まずそうに頬を掻く。


「ここのところ、全然客がなかったからさ。ユーロくんも一週間くらい来ないし。何かあったの?」


「まあ、ちょっと、北の方まで長旅をね」


「ふーん、よくわかんないけど大変だねえ」


「さっきのフランのほうが大変そうだったぞ。何作ってたんだ?」


「んー、ちょっと試作」


 フランは作業台から謎の玉を五つほど持ってきた。


「ユーロくんの言った通り、不純な水は物が浮きやすいみたいだね。それで重さの違う五つの玉を作って浮かべてみたけど、まだちょっと微妙かな。性能が安定しないし、不便」


 どうやらユーロが前にヒントを出した、水質検査の道具を作っていたようだ。


「ユーロくんは何か収穫あった?」


 世間話程度といった感じで、フランが聞いてくる。


「ああ、そうだった。これを見て欲しいんだ」


 ユーロはアクセサリーを取り出して渡した。セクアナで手に入れた、緑色に光る小さな球。


「わーっ、綺麗」


 思ったより食いついている。


「へーっ、この鉱石をこういう風に見せるんだ。なるほどなるほど」


「あのさ、確かにそれは綺麗なんだけど、そうじゃなくて」


 ユーロは本題に入った。


「その、皮」


「ん? この皮がどうしたの?」


「それだと、レムードの皮より優秀なんじゃないか?」


「あっ」


 ようやく気付いたようだ。


「確かに……ちょっと固まってるのが難点だけど……新鮮な状態で油を塗れば……」


「その皮なら依頼してくれれば、いくらでも採ってきてやろう」


「なにっ、そういうことかー!」


 フランは頭を抱えながら、虚空に向かってぶつぶつと呟いている。

 やがて、


「いいや。せっかくだけど、それは無しだ。今のところ糸伝話を改良する情熱があたしに無いのと、皮を改良しただけじゃまだまともな物にならない。残念だったね」


 フランはユーロにアクセサリーを返しながら首を振った。


「交渉失敗か。残念」


 ユーロはそれを受け取りながら、ふと思いついて、


「というかフラン、これ、欲しいか?」


「えっ?」


「いや、俺は必要ないし。なんかさっき、やけに食いついてたからさ」


「……く、くれるの?」


 上目遣いになって、フランが聞いてきた。いつになく殊勝だ。


「ほい」


 受け取りかけていた手で再びフランの手に戻した。フランはそれを、そっと手で包む。


「ありがと」


「いいってことよ」


 それが――店員と客としての、二人の最後の会話ということになる。

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