番外編
【真夜中はミントの香り】
学校に行く時リュックを背負う。
それは普通にみんなやってる。
父さん母さんの時代は、まだ鞄が主流だったとか。教科書とか本は重いし。背中に背負った方がずっと楽。
みんな学校に着くと、リュックを降ろし。くつろいでいる。
でも僕はリュックを降ろしたくない。授業中も給食の時間もずっと。
リュックを背負っていたいと思う。
僕は別にリュック偏愛のフェチではない。僕には大好きな彼女がいて。
彼女と一時も離れたくはないから。
体操着が入っているナップの方が、
やわらかいし僕の匂いがするから。
彼女はそっちがいいと言うけれど。
ナップは彼女には少し手狭だ。
僕の彼女はいつもリュックの中にいる。こんこん。なんだい?
「彼女じゃなくて嫁でしょ?」
彼女の唇が背中越しにそう囁く。
昼間から教室でいちゃいちゃ。
とてもリア充で幸せだけど。
僕には消せない心残りがある。
それはミントちゃんも同じはず。
僕たち2人はお互いに。
心からけして消えない。
贖罪の気持を抱えていた。
それは亡き裕太兄さん。
もう会うことは出来ない。
そんな兄に対する思いだ。
夜の町を歩く。
補導されかねないけど。
悪いことはしていない。
ミントちゃん。
今日も町は平和みたい。
パトロールは終了だね。
そろそろ家に帰ろう…
僕たちが家に帰ろうとした時。
繁華街の奥の路地から悲鳴が聞こえた。かん高い耳を裂くような。それは若い女性の叫び声だった。
「なにしてるんですか!?」
人気の絶えたシャッター通り。
寂しい路地裏に数人の男たち。
壁に追い詰められた若い女性。
強引なナンパ。
それだって褒められたもんじゃない。けどそれはそんな程度を超えていた。女性はブラウスの襟を掴まれ。強引にその生地は裂かれて。
肩口から肌が露出している。
もう性犯罪じゃないか!?
酔った勢いとかナンパとか。
そんなもんじゃ済まされない。
女性はさらに悲鳴を上げようとした。けれど男たちの1人に口を手で塞がれ。怯えた顔で目を見開いている。やはりこの世界。平和な夜などないのたと。僕はそう思った。
「なにしてるんですか!やめて下さい!その女性怯えてるじゃ…」
「おっと…兄さん!」
ふいに背中越しにナイフを突きつけられた。
ナイフは背中をなぞり。
ゆっくりと頸動脈まで。
もしも刺されたら。
どちらも致命傷だ。
「ガキが!彷徨いていい時間じゃないぜ?」
「さっさと帰んな!」
漫画とかコミックみたいな台詞。
今時こんな人本当にいるんだな。
なんて余裕ぶっていられるほど。
あれから僕は強くなったわけもなく。相変わらずのへたれの弱っぴ。
けれど強くなりたいと思った。
ミントちゃんや大切な人たち。
そしてせめて自分を守れる位。
僕は強い男になるんだ。
心に強くそう決めたんだ。
見過ごすわけにはいかない。
「帰るわけないでしょ!」
どんなに殴られても。
酷い目に合わされても。
困ってる女性を見過ごせない。
見捨てて逃げるなんて出来ない。
僕はナイフ男の手を振り祓い。
男たちの前へと進み出た。
「なんだ中坊が!」
「やんのか!」
「大人しく…」
僕を見て嘲り笑う。
そんな野卑な声が。
途中で途切れた。
夜の街の声。
車のクラクション。
有線から流れる歌。
遠くに聞こえてる。
それしか聞こえない。
男たちの声は止んだ。
ミントちゃんが怒りんぼモードだ。
僕のリュックの中から。
ミントちゃんの人形の手。
僕は背中でそれを感じる。
「ミントちゃん」
僕は片手でそれを制した。
僕やれるだけやるよ!
君にばかり頼らずに。
僕自身の力で頑張る!
だって僕は…
「彼女は僕の嫁さ!」
「な…なんだよ…」
「妙な玩具を…」
僕は息をひとつ吸い込んで。
その男たちに向かって言った。
「彼女は確かに人形だけど…僕の嫁だ!僕が、死んだ兄から寝取ってしまった…愛しくて!とっても可愛い女の子なんだ!
「…そして僕はその罪を贖うため!ミントちゃんと2人悪と戦う!」
ミントちゃんの拍手が聞こえる。
そして僕を励ますように。
肩をもみもみ…もみもみ。
「ちょ!ミントちゃん…そこは乳首…乳首はダメ!そこは…弱いの…あ…ちょちょちょ…ダメェ!?」
僕は敵を忘れひとしきり悶えた。
はっと快感から我に帰ると。
男たちは皆逃げ出していた。
まだ僕…何もしてないのに。
なにはともあれ。
難は去ったようだ。
僕は落ち着きを取り戻すと。
恐怖で座り込む女性の元へ。
この後警察に通報するなり。
被害者女性のケアが大切だ。
僕は恐怖でその場に座り込む。
その女性に優しく声をかけた。
「大丈夫ですか?」
ミントちゃん僕は決めたよ!
これからは背中に愛と書こう。




