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第25話 カメラは回っている

「なんや兄ちゃん、若いのにえらい腰が低いやないか。最近の若いのは、上下関係を面倒くさがるやつが多いのに」

 そう言って、堂本は警戒することもなく、にっこりと笑った。


「久賀さん、こんな人の話聞いたって……」

 そう言って三浦が久賀のほうへ近寄ろうとしたが、瀬川が三浦の肩に手を置いて止めた。

 朔は嫌な予感しかしなかった。

 止めるべきだと思ったが、体がすぐに動かなかった。

 柾木と同じような笑顔を浮かべる相手に、体が拒絶反応を示している。

 そんな朔より先に成瀬が動いて前に出た。


「堂本さん。今の時代、むやみに発言とか撮影はさせない方がいいですよ」

 鋭い目つきだ。明らかに久賀たちを疑っている。

「そんな、心外だな。警戒させてしまったなら申し訳ないです。僕たち、DTubeをやってるんで、いい瞬間を逃したくなくてカメラを回したくなるんですよね。心配なら撮影はしないので、話だけでも聞かせてもらえますか」

 久賀は動揺するそぶりも見せず、成瀬にも笑顔を向けた。

 でも、カメラはすでに回っていることに朔は気づいていた。

 久賀が欲しかったのは、撮影の許可だけ。

 許可の前に撮影されていたとしても、後でどうにでも言い訳をするだろう。柾木ならそうする。

「なんや、えらい当たり強いな成瀬くん。気のええ兄ちゃんやと思うけどな。魔術師は疑り深いな」

 そう言って堂本は成瀬に笑顔を向けた。成瀬はその顔を見てため息をつき、スマホを取り出すと、「勝手にしてください」と言って視線を外した。

 もしかしたら、勘のいい成瀬のことだ。カメラがすでに回っていることに気づき、そのことを指摘してくれるかと思ったが、成瀬は人間関係に深く入り込むタイプではないようだ。


「それじゃあ、できたらゆっくり話を聞きたいので、飯でも食べながら聞かせてもらえますか」

 久賀は何事もなかったかのように堂本へそう言った。

 俺たちから、堂本を離すつもりだ。

 成瀬は眉根を寄せて明らかに警戒したが、動かない。

 樫村も今にも何か言い出しそうな顔をしていたが、結局、心配そうに状況を見守るだけだった。

「飯か、ええな。年下から誘われるなんてなんか新鮮やわ、今日は疲れたし、冷たいビールをかき込みたい気分やわ。同じ苦いもんでも、ビールやったら何杯でも飲めるで」

 そう言って、堂本は膝をパンと叩いて立ち上がった。


 神経がざわつく。

 気持ちでは止めろと信号を出すが、それを制止する信号が同時に出ている。

 柾木に言いくるめられた昔の感覚が蘇る。

 相手をはっきり否定することへの抵抗。

 曖昧な態度でその場を流した時の一時的な安心感と、その後の後悔。

 もう一度、堂本に叩かれた肩に手を当て、その感触を思い出す。


「……あの、今日はこの後みんなで反省会をしたいので、また今度にしてくれませんか?」

 朔がそう言うと、久賀は一瞬だけ目を細めた。

 見覚えのある目つき。

 以前は柾木のこの表情が怖くて、強く否定してこなかった。

「そうですね。きちんと連携について話し合わないと、また赤点くらいたくないですからね」

 成瀬が横から助け舟を出してくれた。

 樫村のほうを見ると、うんうんと頷いている。


「自分ら真面目やな。疲れとるときに反省なんかしたら、ビールが苦なるんやけどな」

 そう言って堂本はため息をついた。

 久賀はその様子を、うっすらとした笑顔で眺めている。

 笑ってはいるが、表情は硬い。そんな印象を受ける。

「でも、しゃあないわ。パーティーやからな。反省するとこは反省せんとな。兄ちゃん、悪いな。また今度にしてくれんか?」

「そうですか。じゃあ、食事はまた今度ということで」

 久賀はあっさり引き下がった。

 そこもなんだか柾木と似ている。引くときは素直に引く。だが、引いたことはしっかりと後々まで覚えている。


「あの……。それと、カメラの電源を切り忘れてますよ」

 朔は久賀の胸当ての中央に取り付けられている小さなカメラを遠慮がちに指さして言った。レンズの横で、赤いランプが点滅している。

 それを聞いた樫村は、そそくさと後ずさり、成瀬は眉根を寄せた。

「ああ、本当だ。電池なくなっちゃうとこだった。ありがとうね、教えてくれて」

 久賀はそう言って、慌ててカメラの電源を切り、朔に笑顔を向けた。

「きちんと動画は消すので、心配しないでくださいね」

 そう言って、樫村と成瀬のほうにも笑顔を向けて謝った。


「お話楽しみにしてます」

 久賀はそう言って堂本に頭を下げて、地面に置いていた荷物を持ち上げる。

 ……終わった。とりあえず、どうにか堂本は変なことに巻き込まれずに済んだ。

 朔は長く息を吐いた。それと同時に、こわばっていた筋肉が緩むのを感じる。


「ところで、後藤君でしたよね?」

「……はい」

「どこかで見たことがあると思ってたんですけど、もしかして……」

 久賀は何かを思い出したように、笑顔を浮かべた。

「あの『残念なスカウト』の動画に出てた人ですよね?」

 相変わらず、人懐っこい笑顔を浮かべている。

 だが、堂本の笑顔とは違う。

 こちらがどう反応するのか、試されているような気がした。

 ……そう来たか。


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