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第24話 救助で一番大切なもの

「厳しいな、先生。そんなこと言ったって、仲間呼ぶうるさいカナブンおったりも散々やったで」

 堂本が地面に座り込んでそう言った。


「そっちはアラームビートルいたんですか」

 話に割り込んできたのは、DTubeの久賀だった。

「そっちおらんかったんか。でっかい音出したから、魔物寄ってきて大変やったわ」

「こっちは特に何もなく終わっちゃって、ゴーレムと散歩して帰ってきただけですよ」

「なんやそれ、えこひいきちゃうか、先生」

 堂本が眉根を寄せて、黒瀬に言った。


「B班は単純に早く動いて結果を出した。それだけの話だ」

 黒瀬はそう言ってタバコに火をつけた。

「アラームビートルはこっちにもいたわよ。倒したあとで気づいたけどね」

 スマホをいじっていた瀬川が言った。

「へえ、そうなの? 言ってくれよ、美月」

「体が崩れるちょっと前に気づいて、撮影できなかったのよ。それに、今回の企画の趣旨と違ってたしね」

「早クリア企画失敗したか~」

 久賀は苦い表情を一瞬見せたが、すぐに人懐っこい笑顔に変えた。


「いや、お前たちの判断は正しい」

 黒瀬は煙を吐きながら言った。

「今日の課題は何だ。答えろA班」

「そら、救助やろ」

「そうだ。救助で一番大切なのは速さだ」

「それは分かっとるけど、いろいろあってん」

 堂本が少しすねた子供のようにぽつりと言う。黒瀬はタバコをくわえ、A班のメンバーを見回したあと、ゆっくりと煙を吐いた。


「堂本。お前、子供はいるのか?」

「いてますよ。中学二年の娘が一人」

「名前は」

「四葉っていいます。幸せになりそうでしょう」

 堂本が顔の筋肉を緩めてそう言ったが、黒瀬はそれを無視して朔のほうを向いた。

「後藤。お前の家族の名前を言ってみろ」

「湊という弟がいます」

「今回、救助要請を出してきたのは堂本四葉と後藤湊だ。救助が遅れたため、堂本四葉は重傷を負って片足を切断。後藤湊は毒が神経に回り、運悪く半身不随。それが今回、お前たちが出した結果だ。お前たちもいろいろあって大変だったな。ゆっくり休んだらいい」


 黒瀬がそう言うと、堂本は何か言い返そうとしたが、その言葉を飲み込んで下を向いた。

 大げさな話……ではないのだ。

 ちょうど昨日、そのような事例があると黒瀬が話していた。

 だから、みんなそのことは知っている。

 そのときは、ただのよくある事例だと思って聞き流していた。

 でも、その事例の当事者にも家族はいた。

 湊が救助失敗の事例になる可能性もゼロではない。


「辛辣だね~、あの教官。美月、きちんとカメラ回してた?」

「撮るわけないでしょ。教官の発言や映像は使えない契約でしょ」

 久賀と瀬川がこちらのやり取りを聞いて、そんな会話をしていた。


「すいません、ちょっと話を聞かせてもらってもいいですか?」

 愛想のいい笑顔で寄って来た久賀を、堂本は眉をひそめて見返した。

「何やねん、見たらわかるやろ?落ち込んどるんや。そっとしとけや」

「まあまあ、同じ教官の下で学ぶ仲じゃないですか。仲良くしましょうよ」

 久賀は堂本のきつい言葉も気にせず、近くに寄って横に座る。

「大変だったみたいですね。何があったんですか」

 そう言ってバッグの中から缶コーヒーを取り出し、堂本に渡す。

 堂本は眉根を寄せて缶コーヒーを見たが、結局受け取って飲むことにした。

「なんでブラックやねん。苦い思いしとるのに、苦いもん飲ますなや」

 堂本がそう言うと、久賀は笑顔で「すいません」と言った。


「どうせその人がまたやらかしたんですよ。前の時みたいに」

 細身で眼鏡をかけた、魔法使い風の三十代後半くらいの男がそう言った。

 三浦と呼ばれていた人だ。

「何?三浦さん、この人と知り合いなんですか?」

「前、一緒に実技2を受けたパーティーなんですよ」

 三浦はため息をついて、そう言った。


「なんやさっきの言い方。全部、俺のせいでお前も落ちたみたいな言い方して。同じパーティーで受かった奴いてたやろ」

「受かった人は、私みたいな魔術師じゃなかったからですよ。魔術師は前衛が機能しないと、十分に力を発揮できないんですよ」

「ちゃんとしてたやろ、率先して敵倒しとったやないか」

「それがダメだって言っているんですよ。前も言ったじゃないですか。重戦士はタンクなんですよ。敵を引きつけてなんぼなんですよ」

「そんなんばっかしてたら、経験値が……」

 そう言って堂本は、吐き出しそうになった言葉を飲み込んだ。

 三浦はその様子を見て、目を細めてため息をついた。

「まだ信じてるんですか、敵を倒した人に多く経験値が入るとか言う馬鹿なこと」

 三浦が言うと、堂本はすねた子供のようにぷいっと横を向き、口をへの字にした。


「なにそれ、例の都市伝説ですか」

 久賀が声を少し大きくして反応した。すると、堂本はさらに体を横に向け、久賀から逃げようとする。

「そんなん分からへんやろ。戦士は敵倒してなんぼや、敵を引きつけてじっと盾を持ってるなんて、性に合わん」

 堂本は独り言を言うように、横を向いたままボソボソとそう言い捨てた。


 それを見て、久賀は瀬川のほうを向く。視線を受けた瀬川は小さく頷いた。

「そうですよね。戦士は敵倒してなんぼですよね。その方がかっこいいし。やっぱかっこいいって大事ですよね」

 久賀がそう言うと、堂本は体をぴくりと反応させ、久賀のほうへくるりと向き直った。

「わかるか、兄ちゃん! なんや薄ら笑いしとる、うさんくさい奴やと思うてたら、ええ奴やないか」

 堂本は上半身をぐいっと乗り出し、うれしそうな笑顔を浮かべている。

「いやあ、堂本さんみたいな人がパーティーにいたら頼もしいですよね。そういう話、ぜひ詳しく聞かせてくださいよ」

 久賀は人懐っこい笑顔を浮かべていた。


 柾木も、あんな笑い方をしていた。

 朔が堂本を見ると、さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように楽しそうに笑っている。

 なんとなく堂本に叩かれた肩に手を当てる。

 胸の奥にかすかなざらつきを感じた。


「先輩の貴重な意見を聞きたいんですが、参考のために撮影させてもらっていいですか?」

 久賀はそう言って、うっすらと笑った。


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