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第10話:インフィート竹採り物語 下




「なんだよユウイチ~。お前あれだけ大見得切っといて収穫無しかよ~」



 ネマキダケを籠いっぱいに抱えたエドワーズが頭を擦り付けてくる。

 彼に同行した耳長族の青年によると、今日は珍しくミレニアム・パンダが出なかったらしい。

 「やっぱ俺くらいになると猛獣の方から道を開けてくれるもんなのかねぇ~?」とか言いつつ、クルクルと回るエドワーズ。

 うるせえ、お前もバンブーフォレストカニ地獄を体験してこい。



「こいつがエサになってくれたおかげでいつもより多く収穫できたジャン。役に立たなかったわけジャないよ」



 と、ラウザーさんがフォローしてくれる。

 普段は2~3本が限度らしいが、今日は6本も取れたそうで……。

 今度も頼みたいジャンとか言っているが、丁重にお断りさせてもらった。



「おー。エド随分大漁じゃねーかよ。おらよっと!」



 続いて、マービーが幅30センチはあろうかという巨大な竹を担いで戻ってきた。

 インフィートでは食器や民芸品に加工される「ゴンブトダケ」である。

 そしてその中から、茶色っぽいモフモフした物体が転がり出てきた。



「面白いもん捕まえたぜ」



 と言って、彼女が摘まみ上げたのは、全長50cmもないであろう、エリートパンダの子供だった。

 手足をバタつかせ、「シィー!」と威嚇している。

 彼女によると、「親の死体の傍で吠えてたからとりあえず連れてきた」そうだ。

 なんかレッサーパンダに似てるな。


 勝手に連れてきて良いのか……? とか思ったが、この世界にはまだ、保護動物とかそういう概念は無いことを思い出す。

 まあ、そもそも生息数が無茶苦茶減ってるとかじゃないなら、保護する意義は薄いし、向こうだって勝手に保護される筋合いもないだろう。



 俺も一緒になって子パンダと戯れていると、突然、竹藪の向こうからガサガサと大きな音が聞こえ、同時に、奇怪なうめき声が響いてきた。

 思わず身構える俺達3人。

 声のした方に目をやると、藪をかき分けて、巨大なウニが現れた!

 うおお! なんじゃあ!?



「うわああああ!?」



 エドワーズが咄嗟に短剣を抜き、得意の風魔法をぶちかまそうとした瞬間、ラウザーさんがその手を掴み、制止した。



「よく聞くジャン……。全くこれだからお前ら耳なし族は不便ジャン……」



 え……?

 聞く?



「雄一さ~ん……私っス~」



 ウニの下から、ひょっこりと顔を出すミコト。

 お前それ……どうしたの!?



「どうしたもこうしたも……タケノコっスよ。ここのタケノコは黒くて太くて長いんスよ……」



 「ふあぁあ~! 重かったっス!」と言って彼女が背負子の綱を離すと、黒くて立派なタケノコが辺りにバラバラと散らばった。

 「昨日の夜に雨が降ったせいで、馬鹿みたいに生えてたよ」と、後から現れたもう一匹のウニ、もとい耳長族の少女が嬉しそうに話す。

 どうやら、雨後の筍という言葉は、この世界でも通じるらしい。



「よっしゃ! みんな戻ってきたし、手伝いへの感謝も込めてまかない飯でも作るジャン!」



 そう言って、ラウザーさんは地面に竹の繊維で作られたブルーシートならぬ、バンブーシートを敷く。

 あら、これまたオシャレな竹細工……。

 薄くも、しっかりと固いシートは、地面の凹凸やとがった小石を見事に緩和してくれる。

 高級なイ草マットでもなかなか無い座り心地だ。


 そこに俺たちを座らせ、持ってきた大鍋にエドワーズが採ってきたネマキダケと、道中で狩ったヤブイノシシの肉をざっくばらんに投げ込んだ。

 うおお……豪快……。

 可憐なウサミミに似合わない蛮族肉料理に目を奪われていると、ミコトが顔を近づけてきた。


 キスでもしたくなったのかと思い、口づけで応じる。

 「ん!? ……んん……」と、一通り互いの唇を味わった後、ミコトが「違うっス!」と口を離してきた。



「あんな下処理もしてないイノシシ肉を放り込んだら臭みが凄いことになるっスよぉ……」




 と、耳打ちしてくるミコト。

 イノシシ料理では割とタブーらしい。

 見れば、なべからはおどろおどろし量の灰汁が泡となって沸き立っている。

 あれ……?

 コレ結構なゲテモノ食わされる感じ?

 料理に疎いエドワーズとマービーは、耳長族の仲間たちと楽しそうに談笑していた。



「安心するジャン。ちゃんと臭み消しってものがあるジャン。仮にも客人にゲテモノは食わさないジャン」



 ラウザーさんが、いたずらっぽい笑顔でこちらを振り向いた。

 ああ、聴力ものすごいんでしたねあなた方……。



「これを使うジャン!」



 彼女が取り出したのは、マービーが持ってきたゴンブトダケの切れ端だった。

 細く輪切りにしたそれを、2~3個鍋に放り込む。

 するとどうだ。

 湧き上がっていた灰汁が、シュワシュワと消えていくではないか。



「うおおお!? すごいっス! その竹にそんな効果があるんスか!?」


「竹に空いた細かな穴が臭みと灰汁を吸ってくれるジャン。これはゴンブトダケにしかない特徴ジャン?」


「ほえ~。面白い使い方もあるもんだな」



 やがてゴンブトダケが茶色っぽく染まると、ラウザーさんはそれを取り出し、鍋に蓋をした。

 そのまま少し待ち、蓋が開かれると、肉汁の濃厚な匂いと、竹の清々しい香りが辺りに広がった。



「耳長族の伝統料理、ヤブイノシシとタケノコの汁ジャン!」



 竹の器に盛られたそれを、竹の柄杓で食す。

 おお……。

 おお……!!

 これは旨い!

 

 イノシシ肉の力強いうま味が、口いっぱいに広がり、ネマキダケのコリコリした触感がたまらない。

 若干独特の風味があるものの、ゴンブトダケの香りがそれを抑えてくれている。

 竹にこんな使い方があったとは……!



「へへへ……気に入ってくれたみたいで良かったジャン。サステナと親父さんには恩があるから、頑張ってそのなんちゃら祭りであいつを勝たせてやってほしいジャン!」



 そんなこと言われたら、ほどほどに頑張って緩くクエストこなそうとか思えないジャン!

 ちょっとした手伝いのつもりが、えらく重い使命感を負わされてしまった竹採りであった。


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