第44話:大討伐クエスト! デイス周辺大捜索網 下
開始よりおよそ半日。
クエスト開始初日の朝が明けつつある。
大討伐クエストは、誰かがクエストを達成するまでは終わらない。
長いものでは数週間を要することもあると聞いている。
今回の大討伐クエストの経過はある意味順調だった。
デイスの周りを数多くの冒険者達が捜索したことにより、潜んでいた邪神教徒が多数発見されたのだ。
だが、その殆どは無抵抗で投降してきたため、デイス城壁に備えられた収監牢に抑留されることとなったらしい。
一部、ゲリラ戦よろしく奇襲攻撃を仕掛けてくる者もいて、思わぬ反撃に傷を負う冒険者もいたようだが、最終的にその殆どは討伐され、命を散らしていった。
ちなみにあの新米くんパーティーは奇襲により2人の重傷者を出してしまい、戦線を離脱したそうである。
やはり、1年目の大討伐クエストは鬼門だ。
死人が出る前に逃げ帰ったのは賢明な判断だろう。
いや、正直邪神教徒の掃討に関しては正直どうでもいい。
肝心なのはコトノさんの安否と居場所である。
捕えた邪神教徒達を尋問した受付のお姉さん曰く、彼らはこの件について何も知らないらしい。
しらばっくれているのか、それとも本当に何も知らないのか。
では、あの男の死体は一体何だったのか……?
思わぬ方向へと謎が深まっていく中、俺達はというと……。
「ダメだ……」
「ダメっス……」
10時間以上ぶっ続けで古戦場周辺の捜索を行ったものの、何の手掛かりも得られず、邪神教徒とも遭遇せず、それどころか、よりによって盗人ゴブリンに遭遇した挙句、またしてもギルドカードを奪われてしまった。
何とか取り戻したものの、疲労はいよいよピークに達し、最後の力を振り絞った飛行スキルでギルド本部へ尻尾を巻いて帰り、そのまま仮眠所でぶっ倒れたのである。
そして2時間ほどの仮眠をと思ったのに、既に4時間も寝入ってしまった。
しかも、その上で尚体が重い。
どうにも動けないので、仮眠所で聞き耳を立てていた結果、耳に入ってきたのが上述の内容というわけだ。
「雄一さん……。早く起きて動かないとダメっスよ」
「くっそぉ……体が重くて動かねぇ……。ラック高いはずなのになんであんな敵と遭っちまうんだ……! しかもこんな肝心な時に!!」
頭がガンガンと痛み、吐き気や眩暈、倦怠感が塊になって体に乗っているような感覚だ。
ミコトも同じ思いをしているようで、荒い息をしながら横たわっている。
手伝いに来てくれている、街の病院の看護師さんに持って来てもらったグリーンポーションと、肉体疲労に効くスタミナ丸を流し込み、体力の回復を待っていると、聞き覚えのある声が受付の方から響いてきた。
「邪神教徒だ! あいつらが村に来て作物と子供を……!」
ん?
この声は……?
「ぶ……ブアートさん……?」
「おお! ユウイチくん! 大変なんだ!!」
仮眠所から何とか這い出すと、血相を変えたブアートさんが立っていた。
畑仕事そのままの格好で来ているあたり、相当急いできたのが伺える。
「い……今何と? 作物と子供たちって……」
「ああ……! 今朝、農作業中に邪神教徒を名乗る連中が現れて、作物庫を壊して中の物を強奪していったんだ……。そして……それを止めようとしたユーリが……」
「……そんな……!」
知り合いが二人も攫われ、行方不明。
不幸は連鎖すると言うが、まさかこんな……。
「く……おぉ……」
回る視界に吐き気を堪えつつ、気合で立ち上がる。
早く……早く二人を見つけて助けなきゃ……と、気持ちだけが先行する。
だが、すぐに膝から崩れ落ちてしまった。
ダメだ……まだ回復薬が効いてない……。
ていうか吐きそう……!
「ちょっと! 駄目よユウイチくん。負傷者と疲労者はしっかり回復するまで待機! デイスギルドの鉄則でしょう?」
見かねた受付の三白眼お姉さんが、冷たい水を差し出してくれた。
ああ……だいぶ楽になった。
「で……でもコトノさんとユーリ君が……!」
「“でも”じゃないの。まずはその連中の情報を絞らきゃ駄目 そうよね!!」
そう言って、お姉さんは勢をつけ、足を思い切り振り下ろした。
「ウブフオオオオオオ!!」
その先から、くぐもった悲鳴が上がる。
……驚いた。
物陰になっていて見えなかったのだが、お姉さんの座る席の前には、正座で拘束され、猿轡を噛まされた邪神教徒の捕虜と思しき男がおり、お姉さんの足は、座る男の股の間に……。
うわぁ……。
「尋問」ってこんなことやってたの……?
俺の隣に立つブアートさんもドン引きだ。
が、デイス襲撃に関与した上、新米くんパーティーに襲い掛かり、重傷を負わせた者と聞いて同情は失せた。
「“はい”か“いいえ”で応えて。そいつらあなたの知り合い?」
「ううう!! ううう!!」
その男は必死で首を横に振り、否定の意を示す。
「本当なのね!?」と、再び足が振り落とされると、ますます激しく首を振り始めた。
その段になって初めて猿轡が解かれる。
男は必死で「俺達とは無関係だ! 俺達は復讐以上の目的はない!」
と叫んでいる。
どういうことだ……?
「おい、ちょっと待て。コイツの着てるローブ……。あいつらのとは少し違うぞ!」
何かに気が付いたように、ブアートさんが男に駆け寄り、ローブを掴んでまじまじと観察し始めた。
「形状も……刺繍の色も違う! あの連中は黒いローブに銀の刺繍だった! こいつ、刺繍が赤い!」
「だから俺達とそいつらは関係ないって言ってるだろう! 邪神教はなぁ……トップ以外は全部別団体なんだよ!!」
……は?
どういうこと?
俺が尋ねるまでもなく、三白眼お姉さんがまた足を踏み鳴らした。
悲鳴と共に白目を剥きつつ、男は洗いざらい喋りだした。
「だからなぁ……邪神教ってのは、枢機卿に教典を授かって、邪神教の紋様刺繍したローブ羽織って、魔封大結解岩の破壊活動さえすりゃ、どんな集団でも邪神教、その配下は邪神教徒を名乗れんだよ! とにかくそいつらと俺達は無関係だ!!」
「はぁ!? なによその宗教!?」
「ぐあああああああ!! あ……」
あ、失神した。
しかし……とんでもない思い違いもあったものだ。
ていうか、マジで何その宗教……。
フランチャイズチェーン?
いよいよ何のためにあるのか分からんぞ……?
「雄一さん……! 私、だいぶ良くなったっスよ」
ミコトが仮眠所からゆっくりと出てくる。
ドン引き拷問ショーに気を取られ、気づかなかったのだが、今の間に回復薬が効き、体の疲労感がかなり和らいでいた。
魔力回復用のイエローポーションの大瓶を追加で一気飲みし、顔を叩いて気合を入れる。
よし……指輪の魔力ゲージもマックスだ!
「ブアートさん。俺、その邪神教徒を追います。一旦村まで行きましょう!」
「分かった……! よろしく頼む!」
「ギルドでもそっち方面重点的に探すよう告知出すわ。ユウイチくん、ミコトちゃん! くれぐれも無理はしないようにね! シャウトちゃん悲しむわよ!」
「死なない程度に無理はするかもしれませんが、絶対二人を助け出してきます!」
「っス!!」
そう言って、俺達は再びデイスの城門を抜ける。
途中、邪神教徒の討伐でますます熱を帯びた住民達が、次々と差し入れを手渡してくれたので、それを全力で食いまくりつつ、朝日の昇る東の空へと俺達は進路を取った。
案外、俺のラックも捨てたもんじゃないなと、俺は思い直していた。





