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第37話:邪神教徒襲来! デイス城門前の攻防




 俺達はデイスの飛行甲板を経由してギルド本部に飛び込む。

 既に一人を残し、動ける者は皆城壁に向かっていた。



「あー! ユウイチさん! ミコトさん! 待ってました! 今若い新米の雑魚木っ端10人と晩成しなかったオッサン2人しかいないんです! 早く行ってあげてください!」



 残っていた受付のお姉さん(ぶりっ子)が、とんでもない本音をぶちまけながら俺達にギルド特製、スタミナエキス丸を投げてきた。



「他の皆にはギルドバード飛ばしたんスか!?」


「飛ばしてますが、今さっきのことなので、当分援軍は期待できません! お二人が冒険者では最高戦力です!」


「マジっスか!? ギルドナイトの人とか商会の用心棒の人とかいないんスか!?」


「殆ど都や他の街に出張中です! ていうか早く行ってくださいよ! もう中堅なのに釣りばっかして遊んでるんですから!」



 戦況説明もろくにしないまま、嫌な本音付きでペシペシと俺達の尻を押してくるお姉さん。

 そんなんだからいつまで経っても独り身なんだよアンタ!

 と、心の中で叫びつつ、急いで装備を身に纏い、俺達は城門の方へ急いで向かう。



「おお! 来てくれたか!」



 ジールさんが城壁の隙間から敵の様子を伺いつつ、俺達を手招きする。

 今デイスは水路を含む全出入り口を封鎖し、籠城戦の構えに入っている。

 街の生活の生命線ともいえるボニート川取水口、及び水路塔に新米冒険者4人とオッサン冒険者全員、そして非番で残っていたギルドナイト一人と実は戦える受付のお姉さん(三白眼)を割いているので、今、邪神教徒達と正面切って睨み合っているのは18歳に満たない、冒険者になって半年と経たない少年少女6人だけだ。


 対して敵の戦力は30人前後。

 頭数だけ見れば絶望的な戦力差だが、ジールさん曰く、敵の戦闘力は全く大したことのないレベルらしい。

 稀に魔法で火球を飛ばしてくるが、それを使っているのは3人だけ。

 残る27人はただこちらを睨むばかりで何もしてこないのだ。

 鑑定スキルで一瞥してみても、高位の魔術師や剣豪は不在ときている。

 とてもデイスを落とせるような戦力ではない。



「正直、敵さん何がしたいのか分からんね。取水口側は全然攻撃してこないし、人質がいるでもなさそうだし……」



 首を傾げつつ、再び敵の観察に戻るジールさん。

 俺達は城壁の上に登り、敵と対峙している少年たちと合流した。

 ジールさんとは異なり、彼らは随分緊張した面持ちである。

 二人いる女の子の片方に至っては腰を抜かしたりする……。

 まあ、初めての対人戦とかなら、誰でもこうなるもんだ。



「あ! ユウイチさん! た……助かったぁ……」



 6人の先頭に立っていた長髪の少年が俺の姿を見るなり、地面にへたり込む。

 そんな期待されても困るけど……。

 まあ、彼らのモチベーションが保てるなら良いことだ。



「敵の様子はどうかな?」



 火球に注意しつつ、彼らに戦況を聞く。

 強い連中でもないみたいだし、ちょっとは頼れる先輩風吹かしていきたいところだ。

 しかしまだ2年目なのに中堅クラス扱い。

 冒険者という職業における1年目のハードさがよく分かるな……。



「あの真ん中にいる赤いローブの奴らが魔法攻撃してきます。他は何もしてきませんね」


「僕らも攻撃しようと思ったんですが、この距離から攻撃できるのが誰も居なくて……」


「でも敵の攻撃もここまで届かないみたいです。だからずっと硬直状態です。この子はちょっと怖がってますけど」


「ひいいい……」



 なるほど……。

 まあ確かに、直立不動でこちらを睨んでくる連中の様子は確かに不気味だし、火球は威力以上に威圧感がある。

 それが辺りの草原や、城壁周辺に吹き寄せられた木くずゴミを焼く程度の威力しかなくてでもだ。


 とりあえず一つ、威嚇攻撃でもしてみようか。

 ミコトにアイサインを送る。

 彼女は「オッケーっす!」と嬉しそうだ。



「アクアシュート!」


「フリーズシュート!」



 二人の掌から放たれた高圧水流と冷気弾が輪形陣を組む敵の頭上で交差、爆発し、猛烈な冷気のミストとなって降り注ぐ。

 夏とはいえ、既に逢魔が時。

 凍てつく様な寒さが敵に襲い掛かる。

 憮然と立っていた邪神教徒達が一斉にたじろぎ、陣形が揺らいだ。

 もうこの時点で当初の威圧感は消え去っている。

 インフィートのダンジョンでもう分かっていることだが、彼らもローブの下は普通の人間。

 そして、一般の教徒は全然強くない。



「みんな行くぞ!!」



 腰を抜かしてしまった一人以外の新米5人を抱えて、城壁を飛び降りる。

 そのままの勢いで、俺達は寒さに震える30人の陣にむかって突撃を仕掛けた。

まさか切り込んでくるとは思っていなかったのだろう。

 主力と思しき赤ローブ3人を囲んでいた前面が転んだり、這ったりしながら一斉に後退を始めた。

 当の赤ローブ達もそれに戸惑い、随分低威力な火球を放ちつつ、後ずさりしていく。

 俺に1発、新米たちに2発の火球が飛ぶが、俺に飛んできたそれはオートガードがあっさりと弾き、新米の方に飛んだ火球はミコトが水魔法で迎撃した。



「フロロバインド!!」



 赤ローブ3人を纏めて拘束する。

 形質変化させた火炎魔法でそれを脱出できないあたり、本当に低級の魔術師のようだ。

 だが、それだけでもう敵の部隊は総崩れである。

 遁走を図る者、短刀を手に切りかかってくる者。

 逃げた者は捨て置き、攻撃を仕掛けてきた奴は容赦なく双剣で斬り捨てる。

 まだ剣術も覚束ない俺相手にあっさり負けるあたり、戦闘経験があるかすら謎だ。

 新米の子達は、なんとか互角以上に斬り合っている。

 時折危うくなるので、そこは俺とミコトが魔法でフォローする。


 10人ほどが反撃してきたが、ものの30分程度でその全員が物言わぬ死体となり果てた。

 決して気分のいいものではないが、この世界は悪党に情けを見せられるほど甘くはない。

 俺達は緩く釣りライフを送っているが、冒険者は本来死と隣り合わせの職だ。

 殺しをしたくなくとも、降りかかる火の粉は掃わねばならない。



「貴様ら……よくも宣教師アター殿を!!」



 グルグル巻きで転がっている赤ローブの一人が俺達の方を睨んでくる。

 いや、誰ですかそれ……。



「とぼけるな!! 貴様ら、デイスの冒険者どもによって海の藻屑となり果てた宣教師殿の無念……私が果たす!!」



 いや、本当に誰だよ!!

 記憶にない人の仇扱いされ、ものすごい迷惑だ。

 しかし、いくら吠えても現状、この3人組には何も打つ手がないだろう。

 デイスの街に火を放とうとした極悪人……。

 気は進まないが、殺るしかない。

 剣を構え、止めを刺そうとした時、突然彼らが痙攣を始めた。

 な……! 何だ!?


 異様な光景に唖然としていると、彼らの首にかけられた邪神教の紋章をかたどったペンダントが妖しく光り始める。

 一体何を……!



「うっ!!」



 俺の背後から苦し気なうめき声が聞こえた。

 振り返ると、長髪の新米くんが膝をつき、苦しそうに悶え始めた。



「大丈夫っスか!!」



 ミコトが彼に慌てて駆け寄り、ポーションを飲ませる。

 しかし、一向に回復せず、彼は体をのけ反らせながら泡を吹いている。



「く……な……ぜ……」



 彼に気を取られている隙に、赤ローブ3人組は息絶えていった。

 なぜか疑問を口にしながら……。

 いや、今はそんな場合ではない!

 辺りから動く敵が居なくなったのを確認し、俺達は苦しむ新米君を背負って城壁内へと戻った。


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