第38話:先輩風を吹かせて
「え!? 撃退しちゃったんですか!?」
「俺が3人、ミコトが5人、あと今医務室でぶっ倒れてる長髪くんとあそこで項垂れてる水色髪の女の子が1人ずつ討伐です。火球撃ってた奴ら3人は突然死にました。他は全員逃走ですね」
受付に戻り、報告をすませると、腹黒ぶりっ子お姉さんに大層驚かれた。
まあ、人数だけなら結構な数だしな……。
「すごい弱い上に烏合の衆でしたよ。俺達みたいなのでも易々倒せるくらいには!」
「う……。さ……サーセンした……。私、ここ来てから襲撃受けたこととか無くて取り乱しちゃいまして……」
少しばかり嫌味を言ってやると、申し訳なさそうな顔で弁明し始めた。
……別にいいけどさ……。
「結局取水口や水路塔にも攻撃来なかったし、何が目的だったんですかね?」
臨時で戦闘配置についていた三白眼の受付お姉さんが戻って来た。
念のため見張りを置いているが、特に何が起こるでもなさそうとのことだ。
「連中が言ったことをそのまま受け取るなら、この街の誰かが討伐した邪神教の宣教師の仇討ちに来たんじゃないですか?」
「でも、それならあんなに弱い人たちの寄せ集めで来たりするっスかね?」
「うーん……」
全員で頭を捻ってみるも、本当によく分からない。
とりあえず、ギルド本部の上の人らが帰ってきたら報告しようということで一つの纏まりを得た。
ちょうどその時である。
医務室の扉が開き、中から長髪くんとギルド医務院、マーズ先生が現れた。
長髪くんは先ほどまでと打って変わり、血色もよく、足取りも確かである。
「おお! 大丈夫だったか! 先生、彼には一体何が?」
「呪いですね。かなり簡素なものでしたが、古い闇魔術の一種です。不完全ながら、対象を暫く行動不能にする程度の威力はありますよ」
命と引き換えに行動不能程度の威力て……。
リスクに対して効果が限られすぎだろ!
「ええ……。人を殺せるほどの呪力を持った者はそういません。それこそ、生まれながらに比類なき魔術の才能を持った人間を数十年呪詛漬けにしてやっと一人殺せる程度でしょう。何故彼らは……こんなことのために命を……!」
医務室には、あの赤ローブの邪神教徒たちの遺体も安置されている。
いくら悪人とはいえ、命を使い捨てるようなマネは許せないのがマーズ先生だ。
「彼らの信じる邪神教などというものは……命を賭すに値する教えなのでしょうか……」と、拳を握りしめつつ、医務室へと戻っていった。
彼らの宗教の葬儀が分からないので、簡素な祈りを捧げるそうだ。
今回分かったが、彼らの中にも邪神教の教えに殉じようという者と、いざとなったら逃げる者がいるようだ。
元の世界でもよく聞く話だが、ガチ勢とその他で温度差があるのは間違いないようである。
「どのみち碌でもない教えには違いねえだろうがな……」
俺は手に残る嫌な感触を振り払うように手を叩き、その場の新米君たちに声をかけた。
////////////////////
場所をギルドの食堂に移す。
防衛クエスト成功祝いにと、食事に誘ったはいいのだが、新米君たちの表情は一様に暗い。
全員が対人戦初経験、しかもうち二人は悪の邪神教徒とはいえ、人を殺めてしまったのだ。
また、直接ではないにせよ、残る4人も間近で命のやり取りを見てしまい、少なからずショックを受けているようだった。
特に深刻なのが女性陣二人だ。
討伐に成功した水色髪ちゃんは「人……殺しちゃった……」とワナワナ震えながら呟き続ける。
ずっと城壁の上で腰を抜かしていた青髪の子もまた、殺意を持った人間に攻撃される恐怖、そして人が死ぬ瞬間を目撃、体感し、ずっと泣いている。
ミコトは、そんな彼女達の横に座り、優しい言葉を投げかけたり、背中をさすったりしている。
やっぱ天使だよなぁ……。
悪人殺すの躊躇わないけどこの人……。
「ユウイチさんは……平気なんですか?」
長髪くんが、最近入荷するようになったトビバスのフライを齧りつつ尋ねてきた。
他の男性陣も、ウンウンと頷き、俺に答えを求めているようだ。
そう言われてもな……。
平気なはずはない。
剣で、魔法で、人の命を奪うような一撃を撃ち込んだときにある嫌な手ごたえ。
出来ることなら体感したくはないものだ。
「そりゃ嫌だけどさ……。この世には話も道理も通じない連中ってのがいて、そういうのに襲われた時は命を奪う以外の解決法がないってのを、冒険者なりたての頃に嫌という程体験させられたからな……。ある意味君らは幸運だと思うよ。これである程度自分たちの方向性が掴めただろうから」
「方向性……ですか?」
「そうそう。これで対人戦なんか死んでも嫌だってんなら、害獣ハントとか、鉱物採掘系のクエストに専念すればいいし、逆に悪人討伐に燃えたのなら、山賊だ盗賊だを相手にするようなクエストとか、傭兵団に入団を目指してもいい。一番いけないのは俺みたいな半端者だ。好き勝手やって、行き当たりばったりで戦っても大成できねぇぞ~?」
ちょっと話にオチをつけ、笑いを誘ってみたのだが、全員が難しそうな顔で考え込んでしまった。
この子達真面目だな!
「半端なんかじゃないです! ユウイチさんは勇敢で機転が利いて、しかも人徳に優れた方だとお聞きしてます……。ギルドナイト候補生になるスカウトを蹴ってまで、この街や、近隣都市のために勤しんでると……」
「ちょっと待って! それ誰が言いふらしてんの!?」
変な釣りバカがいるって噂が一時流れてたのは知っていたが、こんな風説は初めてだ。
うおおお! 背中が痒い!!
「まあ雄一さんそういうとこあるっスからね。強くて優しい最高の旦那様っスよ!」
と、ミコトはご満悦である。
これ流したの君じゃなかろうな……?
「お願いします! その強さの秘密、教えてください!」
「お願いします!」
「私も……強くなりたいです……!!」
口々に迫ってくる新米君たち。
泣いていた少女も、決意を固めた顔で俺を見上げ、懇願を始めた。
参っちゃったな……。
「んじゃとりあえず……釣りでもいく?」
俺はほんのギャグのつもりだったのだが、彼らは顔を見合わせ、「はい!」と即答してきた。
この子達、なんかエドワーズに似てる……。





