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第25話:デイスを目指して 2日目 タマタマちゃん




 翌朝。

 猛獣の奇襲を避けるべく、俺達は日が昇ってから出発した。

 今日の日程は、ひとまず昼までに砦跡までたどり着くことと、その損壊状況の把握である。

 どうもこの辺りには大型肉食獣の生息地が出来上がってしまっているようで、夜を安全に越すことができる中継地点の確保が必須なのだ。

 仮に動物の侵入を防げないほど壊れていたら、拠点の建設を行わなければならず、どちらの都市が金を出すのか、どうやってそこを維持するのか等、議論が必要になってくる。

 大金がかかる案件なので、俺達の調査報告の責任は重大だ。


 その先の中継点まで結構距離があることを考慮して、今日は砦跡までの行程とし、時間が余れば砦の畔の湖で釣りをさせてくれるらしい。

 ということで、俺はかなり張り切っている。

 のだが……。



「ぷーっス……」


「うおっ!? 急に振り向くんじゃねぇ!!」



 昨日の一件のせいでミコトは膨れっ面、先輩は俺の挙動を警戒しまくりだ。

 なんでこうシャウト先輩にセクハラ技が炸裂しちゃうんだろうなぁ……。

 しかし、昨日の太腿挟まれ比べは案外悪いものでもなかった。

 先輩のよく締って固く、少し汗っぽい太腿も、ミコトのちょっとぽっちゃりムッチリで、肌に吸い付くようなスベスベポカポカ太腿も、どちらも脚フェチにはたまらない感触だ。

これもジョブスキルの運のよさが絡んでるんだろうか。

 まあ、ミコトとの夫婦仲にはちょっと問題が出そうなので、今後は気をつけていこう……。


 しかし、昨日教わった飛行スキルの形質変化はなかなかに便利だ。

 200kgほどの木製リヤカーに、100kgぶんくらいの飛行スキルを使用すれば、一人でも軽快に引くことができる。

 しかも疲れ具合からして、魔力の消費量はかなり少ないみたいだ。

 よく考えれば、80kg近い俺を完全に浮かせ、さらに姿勢や方向を変えながら飛ぶのに比べたら、消耗が少ないのは当然である。

 これを応用すれば、重い物をどかしたり、敵を投げ飛ばしたりするのにも使えそうだな。


 昨日に比べ、若干言葉少なめに歩き続けると、道の跡に沿って緩やかに流れる幅100mほどの川が現れた。

 お、これが先輩の言ってたボニート川とは違う水系の川ってやつか。



「川が見えたな。地図によればそろそろ砦跡が見えるはずなんだが……」



 先輩が背伸びをして、辺りを見渡す。

 すると一瞬、その目つきが変わった。



「ちょっとこれ置かせてくれ。あと伏せろ」



 先輩はそう言いながら俺の引く台車に背負っている荷物を置く。

 とりあえず、俺はリヤカーを転がって行かない平坦な場所まで動かし、石でストッパーをかける。

 キャンプ道具召喚で双眼鏡を出し、先輩に渡す。

 「うおっ!? なんじゃこりゃ!! クソ透明じゃねぇか!」

 と、現代の光学技術に衝撃を受けつつ、ある一点を見つめている。



(どうしたんスかね……)



 草むらに伏せて身を隠しながら、ミコトが不安そうな顔ですり寄ってきた。

 モンスターのコロニーでもあったか……。

 それとも砦跡を根城にしている盗賊団、山賊の類でもいたのか……。

 ちょっと盗賊山賊の類にはトラウマがあるので勘弁願いたいのだが……。

 などと思っていると、先輩は「いいか……アタシが合図するまで絶対に動くんじゃねぇぞ」

 と言い残し、背の高い草が生い茂る坂道を川の方へゆっくり降りて行った。



 これまで数える程しか見たことがない、緊迫した表情だった……。



(雄一さん……先輩大丈夫っスかね……)


(わ……分からない……そもそも何者がいたのかも分からん……)


(私たち助けに行くべきじゃないっスか……)


(でもわざわざ俺達をここに留めたってことは、俺達じゃ足手まといになるような相手が居たってことじゃねぇのか……?)



 そんなこんなで議論が堂々巡りしていた俺達だが、突然、河原の方で「バサバサ!」と水鳥が激しく羽ばたく音が聞こえた。



「ああああ―――!!!」



 同時に、シャウト先輩の悲鳴が響き渡る。

 「ユウイチ―――!! ミコト―――!!」

 そして助けを求める声!

 俺達は咄嗟にその場を飛び出し、先輩の声の元へと坂道を転がり降りた。



「先輩! 大丈夫っスか!!」


「お前ら! それ捕まえろ!!」



 藪の中から飛び出した直後、河原で這いつくばっている先輩と、こちら目がけて飛んでくる真ん丸の白い玉が目に入った。



「ランディングネット!!」



 マス用のラバーネットをその白玉を包むように召喚し、その持ち手へテレポートする。

 腕をグン!と負荷が襲ったが、無理やり抑え込んだ。



「キュー!! キュー!!」



 網の中でじたばたと暴れる物体。

 モフモフの白い玉が可愛らしい鳴き声を上げている。



「で……でかしたぜユウイチ……」



 先輩はその白い玉を手でゴロゴロと撫で転がしながら、肩で息をしている。

 あの短い間に、思いもよらぬ激戦が繰り広げられたようだ。



「先輩……コレなんスか?」


「ああ、これはな、シラタマタヌマジロだ。可愛いだろぉ~」



 そう言って差し出される白いボール。

 それはクルリと姿を変え、タヌキとアルマジロを掛け合わせたような形態になった。

 思わずポカンとしてしまう俺達。



「お……おい何だよその顔はよ!?」


「い……いえ! なにも言ってないじゃないですか! ところでそれ食うんですか……?ブッ!!」


「んなわきゃねぇだろ!! 持って帰って飼うんだよ! もう名前も決めてあんだからな!」



 何も殴らなくてもいいじゃん……。

 しかし、よく考えたら俺達の関りが始まったのって、先輩が飼ってる「ミーちゃん」がきっかけだったな。

 先輩って結構可愛いもの好きなんだな……。



「ほーら、タマタマ~。ご飯だぞ~」



 と、野生動物を手懐けるマジックアイテム「チャームミール」を食わせている先輩。

 その名前はちょっと……と思ったが、本人が幸せそうなのでまあいいだろう……。

 下手に指摘したらビリビリビンタ食らうかもしれないし……。




////////////////////




 とまあ、ちょっとした寄り道をしつつ、俺達は砦跡に到着した。

 跡とは言っても、外壁と本丸は原型を完璧に留めており、強固な岩で作られたそれは、ちょっとやそっとの衝撃ではビクともしなさそうだ。

 3階建ての本丸を見回り、動物や賊の類が住み着いていないかを調査したところ、ネズミの類がチョロチョロ走り回っていた程度で、今後の使用は全く問題なさそうだ。

 そのネズミも、先輩のタマタマが追い散らしてくれている。

 先輩のタマタマて……。



「うわぁ~。タマタマちゃん優秀っすねぇ」


「だろ? パートナー動物はこういう時役立つぜ。癒しにもなるしな。お前らもそのうち何か捕まえてみるといい」



 しかしミコトが「タマタマちゃーん」とか言っているのを聞くと何かこう……。

 家に帰ったら言ってもらおうかな……。

 などと下世話な考えが脳裏をよぎった。


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