第26話:デイスを目指して 2日目 ハスヤガラのヘビーカバーメソッド
砦跡は小さな湖に面している。
また、その湖の水を用いたお堀があり、小魚やカエル、ザリガニなどが泳いでいるのが見えた。
時折、敵を警戒するような動きを見せており、彼らを襲って食うような捕食者が潜んでいることが分かる。
湖の波は穏やかだが、水面には水草が無茶苦茶多い。
オニバス、ホテイアオイ、ジュンサイ等、日本でも見られる水草に酷似したものから、風船のような半透明の花なのか、葉なのか分からない物体を持ったもの……。
あと……なんだアレ……?
浮き輪のような形で、まだら模様の物体が所々の水面直下に浮いている。
何にせよ、水中は水草の茎と根だらけだろう。
ルアーで手返しよく釣り歩きたいところだが、これはリトリーブの釣りは無理だな……。
というか、ウキも投げもフライも厳しいだろう……。
だが、このように水面が障害物に覆われている釣り場で有効なメソッドが、ルアーフィッシングにはあるのだ。
バスフィッシングではヘビーカバー・スタイルと呼ばれる釣法である。
木や水草が水面を覆うようなフィールドで、その隙間にルアーを落とし、縦の動きで魚を誘う釣法だ。
「釣具召喚!」
ハードロックフィッシュ用のウルトラヘビーベイトロッド、フロロカーボン20lbを巻いたローギアのベイトリールを召喚する。
そしてそこに28gのタングステンシンカー+クローワームを固定テキサスリグ+オフセットフックでセットする。
水面でパシャパシャとライズが起きており、メインのベイトは小魚と思われるので、シャッド系ワームの方がマッチ・ザ・ベイトだが、この釣り方では短距離で水をかき回す力が強いクロー系ワームの方が優れている。
ワームをキャストし、ハスの上に乗せる。
そこからロッドを何度か小刻みに煽り、ハスの葉を揺らしながら水面にルアーを落とす。
この釣法は東北のベッコウゾイ釣りで教わったものだ。
すると、水面付近で「モワッ」という波紋が見え、一瞬、ロッドが強く引き込まれた。
「食った!! ……ありゃ?」
大アワセを入れると、スポッという感触と共にルアーが水面を跳ねて戻ってきた。
フッキング失敗である。
再度試みるが、またしても同じ感触と共にすっぽ抜けてしまう。
何度も食ってくるあたり、魚の活性は高いはずなんだが……。
こういう場合、考えられる理由はいくつかある。
例えば、
フックやワームが魚の口に合っていない。
シンカーが重すぎてフッキングを阻害している。
魚の口が特殊で、針先が刺さらない。
アワセの方法が魚にマッチしていない。
等である。
一瞬は引きを感じるあたり、口に入ってはいるように思う。
となると、原因はシンカーか、魚の口かのどちらかの可能性が高い。
なので、シンカーの重量を半分にしてみる。
同じようにハスの上にワームを乗せ、水面に落とす。
すると、先ほどと同じように、グッと引き込まれる。
再び大きくアワセを入れるが、一度目はフッキングに至らず、二度目、三度目も同じく失敗……。
だが、とうとう四度目で待ちに待った感触がやって来た。
「ガン!」という衝撃と共に、ラインの先で針が固いものを貫く感触があり、それと同時に、強い引きが始まる。
魚に走られては、水草に潜られたり、障害物にラインを巻かれたりして回収不能になってしまう。
それを強引に止めるためのハードロックフィッシュロッドと太めのフロロカーボンだ。
ポンピングで無理やり魚を水面に引っ張り上げる。
そのまま勢いよくリールを巻き、魚を水面より深くに潜らせない。
長い魚体が、魚雷の如く水面を突っ走ってくる。
勢いよくずり上げた魚は、奇怪な姿をしていた。
「こいつは……ヤガラ!」
ヤガラ。
長い魚体に、筒のような口をもつ肉食魚である。
筒状の口を水草の茂みに突っ込み、小動物を吸い上げて捕食するという面白い生態を持っている。
背中は緑がかった灰色と白の斑模様で、腹は白、長さは大体2mくらいだ。
そのうち50cmは口で占められている。
日本のそれに比べて短めだ。
あ! あの浮いてる浮き輪みたいなのこいつか!!
うーむ……ウキワヤガラ……、いや、ハスヤガラと呼ぼう。
見れば、ルアーが口の根元まで入り込み、そこでフッキングしていた。
口の筒状になった部分は非常に固く、とてもオフセットフックが貫ける硬さではない。
どうやら、この口で堅く茂った水草をかき分けるようだ。
また、その硬さゆえか口先の開き幅も小さめで、大きな獲物を飲み込むことが難しい構造になっている。
なるほど……。
重いシンカーがここに引っかかって、フッキングできなかったのか……。
つまり、口元までルアーを送り込んでからアワセる必要があるということだ。
それが分かればこっちのものである。
早速、仕掛けのシンカーを取り外す。
そして、クローワームを、高浮力のスティックワームに交換し、尻にネイルシンカーを挿入した。
スティックワームは、アピール力こそ少ないものの、フッキングを妨害するパーツが無いので、ハスヤガラの口でも吸いこみやすいだろう。
ハスヤガラが浮いている場所の傍のハス目がけてワームをキャストすると、浮き輪型に丸まっていた魚体がゆっくりと動いた。
そして、揺れるハスの葉の下に潜っていく。
水面で揺れるハスの振動というより、茎の揺れを感知してるように思えるな……。
そこへワームを落とすと、すぐにワームが吸い込まれる感触があった。
慌てず、ラインを一瞬送り込む。
そして、ロッドに重みが乗った瞬間、大アワセを入れる。
今度は一発でフッキングした。
狙いバッチリ!
同じように、水面を走らせて魚を取り込む。
今度は1.5m程度の小柄な個体だ。
いや、決して小さいわけではないのだが、身が細く口が長いので、大きさの割に迫力がない。
まあここは細長い魚の宿命か。
その後、1時間ほどの釣りで4匹のハスヤガラをキャッチした俺は、砦跡へと戻った。
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「ほえ~。こんな妙ちくりんな魚いるもんなんだなぁ」
先輩がヤガラを興味深そうに眺めている。
その頭の上で、タマタマが「キュー」と鳴く。
「おっ……タマタマ、お前これ食いたいのか?」
と、先輩が言うと、タマタマが「キューキュー!」と応えた。
チャームミールを食わせたとはいえ、無理やり捕まえた野生動物がこんなに早く人に懐くのは稀だ。
先輩って動物にはモテるんだな……。
「ヤガラはお刺身だとすごく味が薄いのに、焼いたり昆布締めにするとすごく豊かな味わいに変わるんスよ~。面白いっスよねぇ!」
ミコトがワクワクしながらヤガラを捌いている。
「胃の中身はザリガニと小魚がメインっスね。この口……固いっスねぇ! 確かに水草をかき分けるのに適してるように思うっス。この長さなら細い水草の中を泳ぐのも楽そうっスね」
あっという間にヤガラの頭が4つ並び、塩煮と塩焼き、吸い物が出来上がった。
ヤガラの頭は腎臓にいいらしいので、干して持って帰ろう。
「ちなみにコレ、試しに作ったお刺身っスよ」
ミコトが差し出してきたのは、美しく透き通った刺身。
ぱっと見旨そうに見えるのだが……。
うわ、確かに全然味がねぇ!
よく言えば上品……なのだろうか?
本当に薄味だ。
「それじゃこっち食べてみるっス! はい、あーんっス」と、塩焼きを口に入れられる。
熱っ!! 旨っ!?
「すげぇ! 全然ちげぇ! 何で!?」
「含まれるうま味の性質がどうのこうのと聞いたんスけど、なにせレア魚なので、自分もあんまり知らないんスよね」
「まあ旨けりゃいいじゃねぇか。 うおっ! こりゃ旨いな!」
「きゅ~♪」
「おっ! タマタマも旨いって言ってるぞ!」
「えへへ……。なんか人以外に褒められるの初めてなんで照れるっスね」
ふと、すぐ傍でオオカミの遠吠えが聞こえたが、砦のおかげでその夜はぐっすりと眠ることができた。





