練習試合 生田第一―城北
午後からの2試合目は生田第一高校との試合になった。
城北は先発こそ二番手ピッチャーの荒木であったが、他は一軍を中心としての構成となっていた。
対する生田第一も基本はレギュラーながらも所々に数字の大きい背番号が混じる。
両者の戦いは、お互いの持ち味を出しつつも、エラーあり、ファインプレーありと非常に白熱したものになった。
生田第一は盗塁にバスター、ヒットエンドランにスクイズと積極的に足を絡めた機動力野球をし、三回までに4点を奪う。
城北も負けじと、フォアボールからランナーをバントで送り、犠牲フライで帰すなど打線の繋がりチームプレイを意識した粘りのバッティングを徹底し、生田第一同様三回までに4得点をあげた。
――何かがおかしい。
誠がそう感じ始めたのは、四回に城北がピッチャーを交代した時だった。グラウンドの外から応援している人たちがいっせいに騒ぎだし、中にはカメラを取り出している人までいる。
いったいなんだ? と思っている中、交代した2年生が投球練習を始めると途端にカメラをしまいだし、ブーイングをする人まで現れる始末。
鮮やかに三振をとっても無言。
では生田第一の応援かと思えば、レフトの頭を越えるタイムリーヒットを4番が打ったのに拍手さえせず無反応。
今にして思えば、この試合は最初から雰囲気がおかしかったのかもしれない。
異常なまでに多くの観客がグラウンド周辺をとり囲んでいた。他の競技が終わり暇になったから様子を見に来たのかとも思っていたが、彼らは一向に帰らず、それどころか更に増えてきている。
誠が悩んでいる時、城北陣もまた別の悩みに囚われていた――いや、別というよりは誠の一歩先の、であろうか。
「主将、もう限界じゃないですか?」
「これ以上は暴動に成りかねないですよ」
「とりあえず、一度出したら落ち着くでしょうし……」
部員たちの話に「あれっ?」と誠は首を傾げる。
「皆さん、これの原因が分かるんですか?」
「……いや、分かるだろ。普通」
「何なんですか、一体?」
「お前だよ、キング様。おそらく午前のあれで完全に情報が流れたんだろ」
「あれっ? 今までバレてなかったんですか、逆に」
「一応、部員達には話さないようには言ってあったしな」
ああ、と納得する誠。そして騒がれなかったのはそうだったのか、と少し安心する。
後から分かったことだが、別の高校に応援に行っていた城西の生徒がわざわざ見に戻って来ていたり、比較的ここから近い城北からも多くの生徒が来ていた。
仕舞には今回の体育大会に関係ない学校の生徒までがどこから情報を仕入れてきたのか、授業をサボって来ていたらしい。
まさかそこまでとは城北部員達も思っておらず、当初の予定通り荒木から2年の伊藤に交代したものの、ブーイングを背に受け、それでも一生懸命に投げ続けるというのは辛いだろう。
五回表を投げきりベンチに戻って来た伊藤はピッチング以上の疲れを見せていた。
その様子を確かめた吉田はある決断を下す。
「よし、とりあえず六回表から頼んだぞ、キング」
「観客の声援に応えてやれ、キング」
「全部三振で構わんぞ、キング」
勿論、登板事態に文句はない、ただ気になることがあるとすれば――
「……え~と、やっぱりキングで固定なんですかんね」
「「あっ……」」
昨日までは普通に「太田」であったはずなのだが、葵坂との対戦の影響からかいつの間にか部員達からの呼び名がキングに成ってしまっていた。
「別にいや、と言う訳ではないのですが、流石のあのノリを毎回というのは……」
「確かにそうだな、まあじゃあ――行って来い、太田」
「はいっ!」
丁度、五回裏の攻撃が終わり、六回が始まろうとしていたため、誠はそのままマウンドに向かう。
そして投手が変わったことに気が付いた観客が今度こそはと見つめ、アンダーで投球練習をしたことからキングに違いないと騒ぎ始める。
流石に、遠いということもあり、未だに確信が持てないようでもあったが、最初のバッターを三振に切って取ると「本物だ」「すげー」と一気に盛り上がる。
観客からの響き渡る歓声に驚き「ひぃっ」と縮こまる三澄。それをあかりはあやしながらしみじみと呟く。
「太田はすごい人気だな~」
「勿論です! なんたってキング様はベアーズの救世主、地元のヒーローですから。開幕と同時に借金を重ね、6月の段階で既に5位と4ゲーム差というダントツの最下位を独走していたベアーズを! そんなベアーズを! 4位に導いたのは間違いなくキング様ですからね。特に三回からの――――」
あかりはかなえの話をうんうんと楽しそうに聞く。
「つまり、かなえちゃんは太田君が大好きってことだね」
「勿論でっ……えっ!? ……いや、あの……勿論、ベアーズの大ファンですし、キング様も大好……きですが、決して誠さんをどうこう……では」
「『誠さん』ねぇ~」
「あうぅぅ……」
あかりにからかわれ真っ赤になって俯くかなえ。
「青春ね~、若いっていいわね~」
今度は三澄がそんなかなえをあやしながら「先生はずっと女子校だったからね~」と語りだす。
その後も、きゃっきゃ言いながら楽しく喋る3人を部員達は温かいと言うには若干温度の高い目で見つめる。
――オレ、野球部に入ってホント良かった。
とは、だれの心境だろうか。
六回表をしっかり三者三振に切って取った誠は最後にファンサービスなのか大きく拳を突き上げ、更に盛り上がった観客の歓声を聞きながらベンチに戻る。
その後は、とりあえずキングは見られたと帰る人間もいたものの大部分はその場に留まり続けたために、誠は降りるに降りられず、九回まで投げ切り大いに盛り上げた。
結果としては6-9と勝利を収めたが全部誠に持ってかれた感が強いため、部員たちとしても喜び半減となってしまった。
今日の試合で城北は自分たちの現状、課題、武器となるものを確認出来た。
まず急務となるのは誠のキャッチャーとの練習だろうか。いくら誠でもストレート一本で夏を戦う気はない。必然として今回封印していたシンカーを出さざるえないこともあるかもしれない。そういった際パスボール気にしていては必殺の魔球もただの棒玉に成り下がる。
また大会を勝ち上がるためには監督不在はやはり痛い。去年までは顧問の先生がしていたがそれを三澄先生に頼るのはどう考えても不可能と思われる。主将の負担が大きいことが分かった以上避けては通れない問題だろう。
勿論、部員全員のレベルアップも必須であり、これなくしては先の二つが何とかなってもどうにもならない。
城北の夏に向けたひと月半が見えて来た。この限られた時間でどこまで課題を克服し、武器を育てられるか、勝負は既に始まっている。
――城北の長い長い夏が今、こうして始まった。
また、この日の出来事は観客、対戦相手等それぞれの口コミをはじめ、ネットで騒がられたり、動画が流れるなどしたため全国に行き渡たり、徐々に浸透していくことになるが、それはまだまだ水面下の出来事であり、差し迫っては夏に向け県下の強豪校が対応、対策に追われる程度であった。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
ストックが尽きました。
また大筋だけからの見切り発車のため細部が詰めれていない点などが多く違和感のある所も多々あったかと思います。
今後も一話ずつ更新では後から矛盾等が出そうなので、ちゃんと甲子園編終了まで終わらせて一つの物語としてまとめてから更新しようと考えております。
何か気になる点がありましたら、感想等によろしくお願いします。




