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可哀想な姫君  作者: 桃皐
2/11

療養で後宮を出る

 後宮に入ってからは苦難の連続だった……とはいうまい。

人生経験になったと言っておこう。

詳細は省くが、私は王の好みである、聡明で、優しく、かつ苛烈で、そして強く、面白い女――なんと複雑なタイプであろうか。難しすぎて、素のままで行っても大丈夫なのではないかと思った――の、正反対を見事に演じて見せた。


即ち、愚鈍で――他人(主に他の妾姫)からの表面上煌びやかなやんごとなきオブラートで包まれた罵詈雑言に気付かず喜び、あからさまな侮辱に真っ向から怒り狂い隠すことを知らず――、

意地が悪く――侍女を蔑み、下男を畜生と扱い、地位の低い姫君を嘲笑い――、

気弱で――地位の高い姫にこびへつらい、金魚の糞も真っ青な腰巾着振りを披露し――、

弱く――やれ頭が痛いだの腹が痛いだのすぐに医者を呼ばせ、武術も魔術もからきしで――、

面白みもクソもない――国王の言うことに是としか返さず、言葉遊びにもすぐさま窮し、ゲームも出来ぬ――女、である。


自分でやっておいてなんだが、最悪に近い女だと思う。

それが2年。

2年がたち、王ももはやこれまで、と私を地方に療養に出した。


私についたあだ名は「馬鹿姫」というあられもないものから、「災厄の姫」という規模の大きなものまで多種多様であるが、中でも私が気に入ったのは「可哀想な姫君」である。

字面から見れば全く正反対の姫を思い浮かべてしまうが、これはつまり、「(頭/国王様が)可哀想な姫君」である。的を射ている。

その可哀想な姫君であるところの私は、先日王からの文で療養に出されることを知り(ここは愚鈍に「まあ、陛下はわたくしの体調を心配してくださっているのね!」か、もう一方の愚鈍で「このわたくしを地方に!?陛下は何をお考えなのです!」と迷ったが)、素直に喜んでおいた。

恐らく、怒り狂うのは間もなく届くであろう後宮から――わかりやすくいえば、解雇する旨の書状を送られた時であろうから。

基本的に、子どもを産むか正妃となるか以外の妾は下賜、もしくは出家、もしくは出戻りである。

私の場合、下賜されても相手が可哀想であるし、出家してはその先に迷惑がかかる。すなわち、出戻りである。


長かったが、まあ当初の予定通りになってよかった。

罪もない人々を苦しめるのは心が痛んだが、後ほど両親から何らかの形で謝罪が送られるはずである。

ちなみに、両親が私の存在を隠していたのは出来が悪すぎる娘であったから、というのがもっぱらの噂である。

この噂の出所も、実は父母と私の手の者からであるのでまさに計画通り。


地方の療養とは言ったが、そこは私の生まれ育った山のすぐそばにある湖のほとりであった。

この湖はこの国所有のもので、別名精霊湖と呼ばれている。本来の名前は「鈍色の爪(ヴァニ・ハン)湖」という。名の通り、猫の爪のように弧を描いた湖の水面は銀とも、鋼の色ともつかない色彩を渦巻いている。透明度は限りなく低い。

しかし、透明度も低く得体の知れぬ何かが凝っているような湖では、魚が大量に釣れた。それも大物が。

龍の様な主も存在するという話もあり、精霊の加護を受けた湖、とされている。


その湖のほとりに、私が療養することになっている代々国王が管理している白亜の神殿がある。

精霊の住む湖の隣であるから、当然ながら精霊を祀っている。

なぜ神殿に来て療養なのかわからないが、恐らく王も神殿という清らかな場所でその汚れた心を少しでも洗い流して欲しい、とお思いなのだろう。素敵な皮肉である。


「素敵ね!真っ白で!そう思わない?」


「…そうでございますね。」


「お前のような虫けらの声は聞きたくないわ。黙りなさい。」


自分付きの侍女に話を振り、びくついた彼女が観念したかのように答えると、私はさも不愉快そうに彼女をねめつける。

そうして萎縮する侍女を、私は愉悦が抑えきれないように嗤うのだ。最近の“私”のお気に入りの遊びである。

本当に良い性格をしている、と思う。可哀想な姫君は。


侍女は、主からの問いかけには答えねばならぬ。そして私はそれに敢えて答えさせ、それを嫌悪する。

胸糞悪いが、ずいぶん板についてきたと思う。

耐えきれず辞めた侍女がこの2年で56人だったはず。最長は、館からついてきたお抱え侍女だ。

彼女にも遠慮はしない。が、私は彼女が苦手、という設定になっているので積極的にいじめようとはしないのである。

これでも心が痛んでいるので、大変助かっている。


さて、侍女をいじるのをやめて、私は馬車から騎士に先導されて降りる。

この騎士は私の家よりも位の高い貴族の家の生まれであるので、それを嫌がりはしない。むしろ嬉々としてエスコートされている。

ちなみに、騎士は無表情であるが、その瞳にともる嫌悪の感情は消し切れていない。残念である。


「ありがとう、リトリジット卿。」


「…いえ。」


にっこりとほほ笑むが、騎士からの返答はつれないものである。目さえ合わせようとしない…だが、それでいい。


うきうき、といった風情を精一杯体現しながら、私は侍女4人と護衛騎士6人を引き連れ、神殿へと歩みを進めた。





6/16 精霊湖の名前表記を改訂しました。

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