第7話 猫かぶりお姉さまのお見合い
カエルスライムを捕まえた女は、早速ラヴィニアとお見合い相手に近づいていきます
木の陰を伝いに伝い、気分はまるで美人スパイ。ノリノリで成りきっているうちに、話し声が聞こえる距離までたどり着きました。
――どれどれ。まずは様子見ですわね。
女はふたりの風下に隠れ、耳をそばだてます。
「手入れが行き届いていて、とても素敵な庭ですね」
――これはお見合い相手の声かな。凛々しくも礼儀正しいって感じだ。見た目は中性的で、韓国アイドルって感じ。
「ありがとうございます。その言葉を聞いたら、庭師の皆さんも喜ぶと思います」
――えっと……。じゃあ、こっちはラヴィニアお姉さまだよね? 完璧な淑女みたい。猫どころかリスをかぶってない?
女は面食らいながらも、のんびりと散策するふたりをつけていきます。
「ラヴィニアさんはお花が好きなんですか?」
「ええ。毎日を豊かにしてくれる、かけがえのない隣人たちです」
「……キレイな考え方ですね」
「いつも生活を支えてくださる皆さんのおかげです」
お見合い相手は優しく目を細めて、ラヴィニアの顔を見つめました。
その後ろでは、女は納得いかないと言わんばかりに顔をしかめています。
――本当に朝からわたくしの首を落とした人と同じですの?
思わず文句を言いたくなる気持ちをぐっと我慢して、周囲を見渡します。
――今のうちに作戦を練るとしましょう。
目を皿にして「狭くて暗い場所」を探していると、ちょうど人がふたり入るぐらいの倉庫を見つけました。
――あそこに閉じ込めれば、ラヴィニア姉さまは泣き叫ぶはず。そうすれば、相手は幻滅すること間違いなしですわ!
女は悪い顔をしながら、カエルスライムに語りかけます。
「いい? あなたは今からあの男女を倉庫に誘導してください」
「げこ?」
「ご褒美におやつを分けますから」
「げこぉ……?」
――って、こんな小さなスライムが言うことを聞くわけがないですわよね……。
そう諦めた、その時でした。
女は「な、なに!?」と声を上げました。自分の指先から黒い靄があふれ出したのです。それはカエルスライムの中に入っていき、一瞬だけ小さな体を淡く光らせました。
しかし、カエルスライムは「げこ」と鳴くばかりで、特に変化は見られません。
――ん? なんだったのかしら、今の……。
首を捻って考えていると、ラヴィニアとお見合い相手の声が聞こえてきました。
「あの……ラヴィニアさん」
「はい。なんでしょうか?」
様子をうかがうと、ふたりとも熱い視線を送り合っていました。
「今日はまるで夢のような時間でした」
「ええ。アタシもです」
――いい雰囲気ではないですかっ!
「あの。よろしければ正式に婚約を結んで頂けませんか?」
「ええ。喜んで」
――明らかにお似合い……ですわね。もったいないぐらい。
顔を赤らめた女はそっとその場に座り、近くで咲いていた花とにらめっこをしました。
「今のラヴィニアお姉さま、花も恥じらう、という言葉がぴったりですわよね。お花さんもそう思いませんこと?」
もちろん返答はありません。
女はしばらく空を見上げた後、雲を吹き飛ばしそうな勢いでため息を吐きました。
――よくよく考えれば、邪魔をする理由がありませんわね。ラヴィニア姉さまが嫁入りすれば、追い出したも同然ではないですか。
女は肩の力を抜き、踵を返します。
――はぁ。張り切って損しましたわ。少しキャダバー様の顔でも見に行きましょうか。
しかし、その時でした。
「あっ」
一瞬の隙をつき、女の手から逃げ出す、カエルスライム。
そして、彼はあろうことかラヴィニアのいる方向へと直進し、彼女のドレスに潜り込んでしまったのでした。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます
突然ですが、明日の更新時に本作のタイトルを変更します
新:死体人形の花嫁は辺境伯家を乗っ取りたい
旧:転生した死体人形は辺境伯家を乗っ取りたい
恋愛ジャンルの雰囲気に合わせて、ちょっと微調整する形です
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