四歩目 俺たちはこれでいい
さっき話しかけられたおっさんが飲み物を奢るというので僕達は男と一緒にちょっとボロい木の丸椅子に座った。座るとミシミシ言うし、もちろん座り心地は最悪だ。そしてあっという間にビールと水2つが机に置かれた。昼間から酒とはなかなかだな……。そう考えていると次に彼を見た頃には飲み干して空になったそのグラス越しから彼の服が見えるようになっていた。
「調査って言われても俺たち探偵とかじゃないし、まともに職に就けないような奴らだぞ。本当に頼んでいいのか?」
「いや、あんたたちだからいいんだ。どう見たってあんたらを探偵だとは思わないだろ。それに相手が相手なんだから戦う可能性だってあるしある程度戦力になるやつじゃないと困るからな。」
冷静に考えたらこんな僕たちと似たようなおっさんに急に声かけられて仕事をして欲しいと言われても信用できない。実際に金を貰えるのか怪しいし、話がどうも都合が良すぎる。でも今、これがもし本当だったらかなり後悔するだろうし、一旦は話に乗るとしよう。
「具体的には何をすればいいのか教えて欲しい。」
「お、乗ってくれるようだな。ありがと!それじゃあまずは自己紹介だ。オレはすぐ近くのコロッセウス闘技場で選手をしてるランドゥーだ。で、やって欲しいのはここのトップ選手であるオベスってやつがいるんだ。そいつは元からかなり強いんだけど最近になって強すぎるんだ。」
「そんなん人なんだし成長して強くなるのは当然だろ!こういうしょうもない話はしょっちゅう聞かされるからもうちょいまとまな依頼にしてくれ。」
フェニックスが割り込んで喋る。僕は急に割り込んできてちょっとびっくりして口を開けたままになっている。
「最後まで聞け。強いってもな、人間を超えている戦い方なんだよ。何というか獣までは言い過ぎだけど人間離れしてるような……。それに相手がノックダウンしてもう戦闘は終わってるっていうのにまだ戦い続ける。」
闘技場だとみんなが興奮状態になるわけだしこれはおかしくないのでは?と思っている。正直ランドゥーさんの言ってることが完全には理解できなかった。
「もう休憩の時間は終わりだよ!早く再開するわよ!」
そう言われて僕とフェニックスは水を一気飲みし、ここを去る。そして午後からの掃除に励んだ。
窓を見ると映っているのは真っ暗な空と光る月と松明の灯りだけだった。こんなに時間を忘れて働いたのはいつぶりだろうか?疲れよりも達成感のほうがあって全然疲れていない。むしろまだまだ遊んでやるぞーってぐらいだ。
「この1日でだいぶ上達したわね。あんたみたいにやる気のあるおっさん珍しいしまた明日も来て欲しいぐらいだわ。」
ついにあの鬼教官であるおばさんに褒められた。報酬なんてどうでも良くなる程嬉しかった。
仕事を終えてオーナーから給料を受け取る。中を見ると金貨1枚が入っている。
「昼の時はありがとうな!また明日も来てくれると嬉しい。仕事がしたけりゃあいつでも来いよ!来てくれたらおばちゃんも喜ぶはずだ!」
最初は乗り気ではなかったけど一番いい職場だったのではないか。するとチャリンチャリンとポケットから音を鳴らしながら歩いているフェニックスがきた。
「なあ、フェニックス!これからこの金使ってレストランでも行かないか?せっかくだしホームレスが絶対行かないような豪勢なところ行こうぜ!」
「あぁ、もちろんだ!久しぶりに疲れたしそれを癒しに行こう。妥協はなしだぜ。この辺に一番美味い店あるから行かないか?そこはよく闘技場の近くで選手がよく来てるらしいから何か情報が掴めるかもしれない。」
「じゃあ、さっそく今夜行こう!」
レストラン
まるで貴族みたいに胸を張って店の扉を開ける。しかし店員や客全員が僕らの方を見てきょとんとしている。しかも、受付の女性にはあなたたちが来れるほど安いものは提供してないとまで言ってくる。僕は貰った金貨一枚を見せつけてドヤ顔で彼女の顔を見つめる。納得してくれたようで僕達を席へと案内してくれた。
「はぁー、ここの椅子最高だぁー。ずっと立ち作業してたから座ってるだけで気持ちがいい。」
フェニックスの言う通り立ち作業の疲れが癒えてくる。それだけでなく休憩の時のボロ椅子が座ってるのに疲れてくるからここが余計気持ちいい。僕はメニュー開いてフェニックスにも見せる。見てみるとステーキやサラダにスープと書いてある字だけで美味しそうだ。
「もちろん、イデアはこの一番高いステーキだよな!それにスープにサラダも食べような!」
「も、もちろんだ!じゃあ僕もフェニックスと同じでいいかな。」
フェニックスがあんなに興奮してるところは初めてだ。いつも冷静な感じだけどあんな風になるなんてな。提案したのは僕なのになんだか楽しめてないみたいだ。
注文する物を決めて店員を呼んだ。そして料理を頼み待っている。
「おい、お前ら。ここに来ていい人間だって分かってるのか?」
そいつは僕よりも一回り背が高くしかも肩幅ががっしりとしている。さらに周りには女性2人を連れている。ちゃんと払える分の金を持っているというのに何でそんなこと言われなきゃいけないのかむかつき反抗する。
「僕たちはちゃんと金を持ってるから来たんだ。別に金があれば誰が来ようが関係ないだろ!」
「お前らボロ服着てるホームレスがここにくるに値するわけないだろ。こんなゴミ同然のやつらが俺の視界に入るのが嫌だから今すぐ出てってもらえないか?もし抵抗しても俺は一応ここでは力ある方だからな、どうすることだってできる。ましてやホームレスなんて死んだところで誰も気にしないどころか嬉しいに決まってる。」
「テメェ………今からそんなこと言えないようにしてやるぞ!」
殴ろうとしたその時右から誰かの腕が僕の腕を掴んだ。しかも左腕も掴まれて何もできない。誰だと思い振り返るとフェニックスだった。
「落ち着け、イデア!武器も持ってない今のお前があんなでかいのと戦っても勝ち目はない。それに勝ったところで飯なんて食えるどころじゃないだろ。勇気を出すのは大事だけどな、何も考えずに手を出すのはアホだ。冷静になってから勇気を出すんだ。」
それを言われてもなお、抵抗を続けていたが店員に出て欲しいと言われて我に返った。そして僕たちは何も食べることがないまま店を出て夜道を歩いている。
「悪かったな……感情的になりすぎて。」
「いいんだ。確かに俺も調子付いてたしあそこは俺らホームレスが来ていいところじゃなかった。最近はホームレスの盗みとか喧嘩が多いから世間からの評判は最悪だ。ああいう対応されるのは当たり前だし、向こうが悪いわけじゃない。でも、お前といるとますます若い頃の俺に戻ってる気がして楽しいよ。お!それにそこにうまそうな魚の塩焼きがあるじゃないか。食べようぜ!」
言われるがままについていき、それが売っているという出店に行った。目の前には椅子とカウンターを挟んで店主がいる。
「どうした!お客さん、何食べたい?」
さっきとは違って対等に話してくれるような感じがした。普通に話しかけられたはずなのに何だか感じたことない暖かさがある。さっきの酒場と同じような椅子と机で座り心地は悪いはずなのにそうは思わなかった。しかも出された焼き魚は高級ステーキと差し支えないほど美味しい。銀貨1枚分ってこんな安いのが信じられない。
「やっぱ俺たちにはここが一番合ってるよ。こうやって外で焼き魚を食いながら話してるのが幸せだ。」
「お客さんにそう言ってもらえて嬉しいよ。」
「なぁ、僕たちどう見てもホームレスだろ。何で普通に受け取るんだ?」
「うーん……何でやっぱりどんな人でも食で笑顔にできるのならそれが一番いい!身分、性別、年齢関係なく受け入れるのがここの店だ!」
そう店主は自信満々に言う。いつか高級店でステーキを食べたいけど今はこのままで十分だ。
4月3日(金)
昨日言ってたコロッセウス闘技場にやってきた。ランドゥーが本当に来るのか怪しかったが入り口のところで杖を持ちながら立っている。すると向こうが気づいたようで声をかけられた。
「ちゃんと来たみたいだな!じゃあ早速中に入るぞ。これからオベスの試合が始まるからよーく見て欲しい。オレの言いたいことがわかるからさ!」
そうして僕達はコロッセウスへと入っていった。




