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第2話 いつも通り
耳障りの悪い目覚め。
子どもの泣き声で、意識が少しずつ戻る。
彼はいつも通り仕事に行っていた。
私は子どもの食事を準備しながら、スマホを何度も確認していた。
着信はまだないか。
通知が光るたびに、指が少しだけ止まる。
昼過ぎになって、やっと着信があった。
「今何してる」
何もなかったような、いつも通りの声。
「子どもにご飯食べさせてたよ」
そう返しながら、昨日のことが少しだけ遠くなる。
気にしすぎただけかもしれない。
そう思い直すたびに、テレビの音だけがやけに小さく響いていた。
仕事が終わったと連絡が来たとき、体が少し強張った。
時間はいつも通り流れているのに、その瞬間だけ少し遅く感じた。
ガチャ。
「ただいま」
「おかえり」
部屋の空気はいつもと同じだった。
散らかったテーブル、つけっぱなしのテレビ。
何も変わっていないはずなのに、どこかだけが違って見えた。
「なんか暗くない? いつもより」
彼はスマホを見たまま言った。
「そんなことないよ」
自分でも驚くほど、自然に言えた。
彼はそれ以上何も言わず、動画を見て笑っていた。
その横顔を見ながら、私は思った。
この時間が、何も起きずに続けばいい。




