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第91話 武器の量産2

 アイアンリッジには、馬を走らせて4日目の午前中に着いた。

 走らせてといっても、長い時間走らせると馬がくたびれてしまうので、少し早めの常歩で移動した。



「ガルッグさん、いますかー?」


 道中は魔物の襲来なども無く、予定より少し早く着くことが出来た。


「ほう、アル坊かの、久しぶりじゃのう」

「こちらこそ、お久しぶりです。お元気そうで何よりです」


「ほうほう、それで何か急な用事でもあるのかの? わざわざ馬で来るとは」

「はい、実は……最近はお忙しいですか?」

「一時期は板バネの注文で休み無しじゃったが、最近はそうでもなくての。比較的、暇じゃわい」

「それならよかった!」


 俺はガレットさんからの手紙を渡して事情を一通り説明した。


「お主も忙しい男だのう。武器の生産と転移のための装置の設置はしかと承った。連絡事と材料の配達の時などは、転移ドアに入ればガレットの工房に直接通じるのじゃな?」

「はい、今は私の屋敷の馬舎にも繋がっていますが、私が帰った後にはガレットさんの工房だけに繋がるようにしています」


 間違えて王宮に行っちゃった……みたいなことが無いように、ガルッグさんの工房からは、行き先をガレットさんの工房に限定している。


「ところで、お主の大剣の具合はどうかの?」

「おかげさまで、だいぶ体に馴染んできました」


 ジムが持っている大剣を見て、うまく使いこなせているかガルッグさんが聞いてきた。


「そりゃあ良かったわい。ちゃんと腕力も鍛えておるようだの?」

「俺は、鍛錬の時に鉛の玉を使って鍛えてますが、最近これが軽く感じるようになってきましたね」

「鉛の玉は持ちにくいじゃろうて、ちょっと待っとれ……」


 ガルッグさんは、奥に何かを探しに行った。


「これをお主にやろう」

「おお?! ありがとうございます!」


 そして、ジムはトレーニング用のダンベルを貰っていた。付け替えると重さが変えられるタイプで前に俺が絵に描いたのを形にした物のようだ。


「では、俺は一旦屋敷に戻ります。ガレットさんの所にはすぐ行けるように設定しています」

「ほうほう、ではまたのう」


 一度通ったら、行き先を消去する仕様だ。



「お、お帰りなさいませ!」

「ああ、ただいま」


 使用人のローランスさんは目を丸くして俺たちというか、馬たちを見ている。馬がドアから出て来たのに驚いているのだろう。


「驚かせてしまったかな?」

「いえ、往復で8日はかかるところを、本当に4日で帰ってこられたものですから」


(そっちだったか)


「これからは日帰りが出来るぞ?」

「なんと!」


 今回の2つの魔道転移ドアには少々の改良を施した。双方向の情報通信を可能にして透しモードを追加したのである。

 馬はドアの先が暗いと入ってくれないが、向こう側の景色が映ると躊躇なく入ってくれるのだ。



「「「おかえりなさいませ、ご主人様」」」


 我が家のメイドさんたちが一列に並んで出迎えてくれた。胸に手を当てて感慨に浸ろうとしたら、奥にグラハムさんがいた。が、気にしてはいけない。


「ただいま戻りました」

「ただいま!」



「早かったわねぇ」

「ガルッグさんのところでは、『泊まってけ』って言われたんだけどね。明日の朝にはマルコさんにスクロールの協力要請しないといけないから帰ってきたんだ」


 実は武器よりも、スクロールの方が手間がかかると思っているのだ。


「よかったわ! 実は魔道具院から派遣された2名が、今日の朝から来られているのよ」

「あちゃー、もう来ちゃったのか」

「あの宰相さん、仕事が早えーな!」


 出来るだけ早く帰ってきたつもりだけど、間に合わなかったのはマズかったな。エミーを見ると、やはり気まずそうな顔をしている。


「じゃあ、今日のうちに会って打ち合わせをやっとくか。えーっと、ファティマさん、魔道具院から派遣されたお二人を30分後に応接間にお通ししてくれる?」

「畏まりました。その間にお食事をなさいますか?」


(どうしようか? 話が長くなるかもしれないから、少しだけでも食べておくか)


「食べるの何かありますか?」

「今日お帰りの予定だとお聞きしてましたので、準備が出来ておりますよ。ハナンとタリアは給仕をお願い。魔道具院のお二人には私からお伝えしておきます」

「ありがとう、助かるよ」



 夕食を急いで食べ終えて、着替えをしたあと応接間で待機をする。

 王宮魔道具院から派遣された魔道具師のお二人には、俺が帰るまでずーっと待ってもらっているのだ。

 もしかしてご立腹かもしれない。ここは正装して礼を尽くし真摯に謝るしかあるまい。


 食堂でジムはまだのんびりと食っているようだが、それを考えたら俺が腹立たしく感じてきた。

 いやいや、そんな事は頭から消して、心から詫びる気持ちでいこう。これから二カ月の間、一緒に仕事をするのだから。


 応接間で待機していると、ノックが3回叩かれた。ファティマさんだ。


「お二人をお連れしました」

「はい、お入りください」


 部屋に入って来たのは、俺の予想に反して二人の若い女の子だった。


(男じゃなかったの? 俺はてっきり、気難しそうなおっさんが二人だと思ってたよ)


「ど、どうぞこちらへ」

「あ、あの、私は王宮魔道具院から本日派遣されてまいりました、エレンディルと申します」

「わた、私は同じく、王宮魔道具院から来ましたノーラと申しましゅ」

「えーっと初めまして、私はこの屋敷の主でありますアルフレッド・ノーマウントと申します」


 二人目の人噛んでなかったか? 顔も赤くなってるけど。


「私はてっきり、派遣される方は年配の男性だと思っていたものですから、こんな若いお嬢さんが二人だったのでビックリですよ」

「本日、コールリッジ宰相様に私とこのノーラを派遣要員に選んでいただきましたので、早速訪問させていただきました。あ、あの! 魔道転移ドアを初めて通りまして感激です!」

「こ、ここが王都ではないなんて、とても信じられないですぅ!」


(あの宰相さん、何考えてるんだ! ……厳選するって言ってたから、てっきりベテランのそれも眼鏡かけた厳格なおっさんを想像してたじゃないか!)


「えーっと、取り敢えず二人とも落ち着きましょうか」


(俺が落ち着いてないかもな……)


 しかしそれだと、今日言われて今日来たという事かな? 準備とかがあっただろうに。


「いきなり来られて、問題なかったですか? ……ご家族への連絡とか、その、着替えとか」

「はい、それは大丈夫です。私たちは魔道具院に住み込みで働いていますので家族への連絡は手紙を書けば大丈夫ですし、いつどこに派遣されてもいいように作業服2着をいつも準備しております。ですからご心配は無用です」


 ああ、それで二人とも白衣みたいな格好なのか。何だかこの二人、日本で言うところのリケジョって感じがするな。


「明日はルナの町に住んでいる、マルコさんという魔道具師のところへ行って、仕事の要請に行ってくるけど、エレンディルさんとノーラさんはどうしますか?」

「あの、もしよろしかったら、そのマルコさんのところに連れて行ってもらえませんか?」

「ああ、いいですよ。ここにいてもまだやることないですもんね」

「やったー! 魔道転移ドアですよね!」

「転移ドアで行くんでつよね!」


 二人ともテーブルに手ついたまま、ソファーから立ち上がらないでください。顔近いですから。俺がのけぞっちゃいますから。ノーラさんまだ噛んでるし。


「分かりました。その通り、魔道転移ドアを通っていきますよ。だから落ち着いて座ってくださいね。転移ドアは許可が下りるかどうかわかりませんが、これから量産していく魔術スクロールは魔法陣をお見せしますから、しっかり覚えて転写してくださいね」

「「はい!」」


「すごいです! 魔術を発するスクロールだなんて!」

「ワクワクして、今日は寝られそうにないです!」

「いやいや、お願いだから寝てください」


 この二人、根っからの研究者気質だ。

(テンション上がってしまって、精神安定剤でも用意しないと寝てくれなそうにないぞ)


 ――この時の俺はまだ知らない。

 この二人が、後に魔道具技術を大きく変えていく存在になることを。

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