第90話 武器の量産1
その後、コールリッジ宰相閣下からは詳細な話があった。
ガレットさんにも俺の屋敷に来てもらい、3人で打合せ中だ。
その中で、量産する魔道具の量産数は、この数量に決められた。
エルミンスター辺境向けとして。
魔術スクロール
ファイヤーボール 100本
フレイムバースト 100本
サンダーボルト 100本
身体強化 500本
防御力強化 500本
ヒール 300本
魔道大剣 50本
魔道ライフル 100挺
ブリストル辺境向けとして。
魔道ビームライフル100挺
魔道ロッド 50本
提案された納期はそれぞれ2カ月。思ったよりも差し迫った状況らしい。
「これだけの量をこの期間で作るという事は、鍛冶屋もそうだの……最低3人は必要だの」
「そうですな、どなたか信用のおける鍛冶屋のお方はおられますか?」
「そうだの、鍛冶屋と言えばアル坊と一緒に仕事をしておるアイアンリッジのガルッグ、それと王都に工房を持っておるトラビンというところかの」
ガレットさんの紹介者は、聞きなれた名前の2名だ。
「できれば魔術スクロールも、信用のおける魔道具師3人ほどの協力が欲しいですね」
「ノーマウント卿に腕のいい魔道具師の伝手はございますかな?」
「魔道具師は、私が10歳から奉公したマルコさんしか伝手がありません」
「では、魔道具師は王宮魔道具院から2名を厳選してこちらへ派遣しましょう」
王宮魔道具院の職員は120名ほどいるそうだが、全員が王宮の管理下であり秘匿義務をもっている。その中でもとくに腕のいい2名を厳選して派遣してくれるそうだ。
「それで宰相殿、アイアンリッジのガルッグさんの工房に魔道転移ドアを設置させていただけませんでしょうか?」
「分かりました、陛下に許可をもらいましょう。ガレットさんの工房とも繋げた方が都合がよいでしょうな」
「あーーっと、ガレットさんの工房は既に設置済みで……」
ガレットさんは、よそを向いて知らん顔してる。
「聞かなかった事にしておきましょう。どうせ許可は下りますからな」
「ありがとうございます」
(よかった、これで堂々と行けるぞ)
「それから王都の鍛冶屋トラビンさんには、王宮への通行許可証を発行しておきましょう。そして、王宮の転移ドアを使用できるように騎士団にも指示をしておきます。ルナの町のマルコさんの工房へは、面倒ですがガレットさんの工房からという事でよろしいですかな?」
「はい、それで結構です」
これで協力者も決まり、各作業場所への往来についても心配は無くなった。
「あとは費用と報酬の話になりますが、よろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「アル坊、わしは退席するとしようかの」
ガレットさんが気を利かせて部屋から出ていった。「腹減ったの」と言って食堂の方に向かったようだが、ガストンさんが何か出してくれるだろう。
「王宮魔道具師の報酬は全て王国の方から出します。その他の経費と各人への報酬についてはノーマウント騎士爵に全て一括でお支払いすることでもよろしいですかな?」
材料等の支払いと、鍛冶屋やマルコさんへの報酬は俺から払えという事だと受け取った。
「はい、それでも構いませんよ」
「分かりました。それでは早速金額についてなのですが、報酬については陛下から指示が出ております」
「指示……ですか?」
「はい、こちらが提示した金額はアルフレッド君は拒否するだろうけど、その金額より下げることが無いようにという指示です」
俺が拒否しそうなだけの金額って、いったいいくら位なのだろうか?
「はあ、その金額とは?」
「13.7メリルでございますな」
「えっと? 聞きなれない単位なのですが……」
「1メリルは1000ガリルですぞ」
えーっと、1ガリルが確か1万円だったと思うから……桁を指折り数えてみる。
(いやいやいや、何度指勘定をやり直しても1億3千万円じゃん!)
「今やっと13.7メリルの価値を理解しましたが、それはちょっと桁が違うのではないでしょうか?」
「いえ、間違ってはおりません。これだけの武器を提供いただく正当な対価ですぞ。王国としては原価で予算を組む事などしないのですから」
「この13.7メリルという金額は予算に組まれているという事ですか?」
「当然そうなりますな」
この国の税収がどの位か分からないけれど、ちゃんと軍事予算も組まれているのだという。
「ちなみに、この国の軍事予算ってどのくらいか教えていただくことはできますか?」
「ええ、ノーマウント殿は貴族になられましたからな、お教えできますぞ」
ほー、軍事費はトップシークレットにするものだと思っていたが、この国は軍事予算を貴族までなら公表しているのか。
「軍事予算だけでしたら、約274メリルですな」
という事は、今回の武器購入費は軍事予算の約5%ってところか?
「武器等の代金について、その金額で承知いたしました」
「これより王宮に戻って陛下に報告をし、会計処理を済ませた後直ちに半金をお支払いしますので、すぐにお取り掛かりください。よろしくお願いしますぞ」
もう半金は納品後に支払いますとそう言って、宰相様は王宮に戻られた。
さて、そうなれば先ずはアイアンリッジのガルッグさんのところだな。
「ガレットさん、俺は今からアイアンリッジのガルッグさんのところに魔道ドアを設置しに行ってきますんで、ご飯食べ終わったら適当にドアを通って家に帰ってくださいね」
「おう、すまんすまん。自分ちのドアを開けたらこの屋敷の2階に通じとるもんじゃから、何だか自分の家の様に感じてのう。適当に帰るから気にしなくて良いぞ」
ドアの先が俺の屋敷だという、そんな感覚に陥るのだろう。
その後、月盟の絆の3人には居間の方に集まってもらい、国王陛下から武器の量産を依頼されたこと、その数量と納期、金額についても話をした。
「何だか、ピンとこない数字だなおい」
「豪華なごはんが一生分はあると思う」
「アル君、私たちに何か出来ることは無いの?」
色々とあるから、その内にお願いする事になるだろうと答えておく。
「俺も手伝うぜ!」
「ジムは魔道大剣の使い方について、簡単に上達する方法を考えといて」
「おう、分かった!」
さて、アイアンリッジまでは馬で行くのが一番いいだろう。
「今から俺はアイアンリッジまで行って、魔道転移ドアをガルッグ親方の工房に設置してくる。帰りまでは4日で大丈夫だと思う」
「一人でいいのか?」
「大丈夫……だと思うけど、ジムも一緒に来てくれるか?」
「そうこなくちゃな」
これまで何でも一人でやる癖が出ていたけれど、最近は出来るだけ仲間を頼るようにしている。その方が仲間にとっても嬉しいし、気も楽なのだというのだ。
「一人だと何があるか分かんないからな」
「その方が私たちも安心よ」
「うんうん」
俺は、作りおきの魔道転移ドアが入ったバッグを持って馬を走らせ、アイアンリッジに向かう事にした。作りおきの2台のドアはトートバッグの中に常時しまってある。
馬も2頭を先日購入しており、向かって左側の馬舎に常時待機させている。馬はローランスさんの管理だ。
「ローランスさん、俺とアルがこれからアイアンリッジまで馬を走らせたいけど、大丈夫かい?」
「はいジムさん。いつでも大丈夫なように調整しておりますよ」
「それは助かる」
「ローランスさん、これは俺たちの帰り用のドアだから触らないようにお願いしますね」
「畏まりました、ご当主様」
「アイアンリッジまではだいたい180キタールほどあります。常歩で1日に50キタールほど行けますが、1日に3回ほどは休憩を挟んでください」
ローランスさんはそう言って干し草を用意してくれている。干し草も水もトートバッグに入れた。
そして、4日後にここで待機してもらいたい事をお願いして、俺たち二人は馬に乗った。
「では、行ってくる」
「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
俺たちは相棒の馬の横腹を足で押し、アイアンリッジに向けて手綱を緩めた。




