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第9話 領主館

 魔力テストの後の日々は、片付けと準備などで目まぐるしく過ぎた。

 何より、小さいころから暮らし慣れてきた孤児院を、急に出ることになって不安だった。

 でもそんな中で、ミラが一緒に領主館に行くことになったのはとても心強かった。


 孤児院のあるルナの町から領主館までは、馬車でも半日かかる。

 孤児院を出る当日。昼食後、最後の片づけと準備を終えて、私たちは外に出た。


 そして、孤児院の入り口で領主館からの迎えをミラと一緒に待った。アル君たちはまだ建物から出てこない。迎えの馬車が到着したら出てくるのだろう。

 シスター長も一緒に外に出て馬車を待ってくれたが、そう長く待つ必要はなかった。領主館の馬車は、予定よりも早く到着したのだ。


 馬車は初老の男の人が御者をしていた。

 御者台から降りてきた男の人は、先ずシスター長に話しかけてきた。


「お久しぶりですシスターマデリーン、この度はこちらのエミリーさんとミラベルさんを、ルノザール領主館にお招きするために参りました」


 その方は、一緒に出迎えたシスター長に、親しそうに話しかけた。

(二人はよく見知ってらっしゃるようだわ)


「ごきげんよう、ジョセフ様。本日はご苦労様です。こちらにいるのがエミリーとミラベルの二人ですわ」


 シスター長が、私たちを紹介してくれた。


「こちらはノルザール領主館で執事長をしていらっしゃる、ジョセフ・ランカスター様です。これから二年間あなた方を指導していただく責任者でもあられますよ」


 とても優しそうなお顔でシスター長とお話をされている様子見て、私たち二人は安堵していた。恐い人がお迎えだったら嫌だなーと思っていたからだ。


「私がエミリーです」

「ミラベルです」

「「宜しくお願いします」」


 簡単な自己紹介をしたところで、孤児院のみんなが建物から出てきた。アル君とジムも一緒だ。


 ジョセフさんは、私たちが初めて馬車に乗る事を知っていて、乗り方まで教えてくれた。進行方向を向いて乗った方が酔いしにくいし、窓の外を見ていた方がいいとも教えてくださった。


 馬車には小さな窓が付いているけれど、その窓から孤児院の建物を見て、(もうここには戻れないんだな)と思うと胸が切なくなってきた。


 でも、こうして見送られる私たちは幸せ者だと思う。これから二年間は大変だろうけれど、ミラと一緒に頑張ろうと思って外のみんなに一生懸命手を振った。


 ルナの町を出てからは、途中で馬の休憩を挟みながら進んで行った。領主館に着いたのは、夕日が遠くの山に隠れた直後だった。


「お二人とも、もうそろそろ領主館に着きますよ。ご用意してください」


 初めて見る大きな街並みに見惚れていると、ジョセフさんが御者台の後ろの窓から話しかけてくれた。

 その窓から見えた領主館は、3階建ての大きな建物だった。そして、右側にも2階建ての建物があり、左側には工場の様な建物があった。


(すごく大きな建物だわ)


「お二方は先ず、領主館の玄関前で降りていただき、館内でお待ちの領主様にご挨拶をしていただきます。その後に二人に用意されたお部屋に案内しますね」


(最初に、領主様に挨拶をしなければならないのか。緊張するなあ)


「あなた方の担当をするメイドはアンナと言いまして、歳は15歳だから歳の近い姉さんという感じでしょう。分からないことがあったら彼女に何でも相談するといいですよ」


 五つ年上のお姉さんが私たちの担当らしい。もっと年上の人が私たちの指導をするのかなと思っていたので不思議に思って聞いてみたら、アンナさんは私たちの身の回りの世話や相談事を受け持ってくれる人だった。


 この領主館で私たちの待遇は、”準来客者”という待遇なのらしい。どういう意味なのかはよく分からないけれど、かなり良い待遇ではないかと思う。


 「さあ、着きましたよ」


 御者をしていたジョセフさんが、玄関前で馬車をゆっくりと止めた。

 ドアは自分たちで開けてもいいのかな? と考えていると、ドアが外から開けられた。


「エミリーさんとミラベルさん、ようこそ領主館へ! 私は貴女たちお二人の世話係でアンナといいます。よろしくね!」


 そう言ってアンナさんが両手を差しのべてくれている。車内から外に出るには、ステップを使って降りなけらばならない程高いのだ。


「はじめまして。私がエミリーでこちらがミラベルです。これから宜しくお願いします」

「お願いします」

「長い時間、馬車に揺られるとお尻が痛いでしょう? この馬車はお客様用じゃないから椅子がちょっと固いのよね。先ずは領主館に入ってゆっくりして頂戴ね」


 そう言いながら、アンナさんは応接の間という部屋に通してくれた。


(良かった! アンナさんって話しやすそう)


 領主様に私たち二人が到着したことを伝えたら、執務の切りのいいところで降りてきてくださるそうだ。


 アンナさんが部屋から出ていったので、私たちは「広い部屋だねー」と言いながら壁や天井を鑑賞していた。


 少ししたら、入り口のドアが3回ノックされ、ドアが軽い音を立てて開かれる。

 私たちは、慌てて座っていたソファーから立ち上がった。


「まあまあ、そんなに緊張しなくていいよ。私がここルノザール地方の領主であるシャール・フランソア・ルノザールだ。先日の魔力検査の時に会っているから覚えてるよね?」


(忘れる訳がないわ。まだ若いのに領主様をされている事も凄いけど、ガッチリとしてカッコいいイケメン領主様なのだから)


「「ハイ」」

「さあ、座って」


 私たちは、言われるままにソファーに腰をおろした。


「私は8年前に父から家督を譲ってもらって、領主の仕事を継いでいるんだ。それまでは王都の騎士団で自由気ままに生きてきたから、堅苦しい事が苦手なんだよ」


(教会で初めてお会いした時も、気さくな領主様だなと思っていたけど、そういう事なのか)


「明日から君たちは、この館の別館にて二年間、住み込みで魔力や魔法の技術を磨いてもらう。魔力の練り方、そして魔法の発現のさせ方などを指導する人にも来てもらう事になっている。明日には到着されると思うからその時に紹介するとしよう」


 もしかしてとは思っていたけど……専任の指導者がつくみたいだ。

(もし上達が出来なかったらどうしよう)


「今日のところは来たばっかりだからね、アンナに館内を案内させよう。その後は別館のほうに部屋を用意しているからね、夕食を食べたらゆっくりしてくれ」


「分かりました。これから二年間、宜しくお願い致します」

「宜しくお願いします」


 領主様が立ち上がったので、私たちも立ち上がった。


 領主様が出ていった後に、私たちはアンナさんに案内されながら領主館を歩いて回った。大きなホール、小さなホール、そしてまた客室も沢山ある。

 途中で会った何人かのメイドさんたちにも、声をかけてもらった。


「あら、あなたたちが魔術師の卵さんたちね」


 そう言われるたびに。


「「宜しくお願いします!」」


 と、元気よく返事をしておいた。


 最後に、私たちの部屋に案内されて驚いた。

 孤児院の部屋は年長者の部屋を二人で使っていて、それでも広いと思っていたのだけれど、この部屋はそれより数倍広い。

 大きなベッドが2つに、立派なクローゼットが2つもある。


「ちょっと見て、服が何着か用意してある。下着も十分な量が入っているわよ」


 服も下着も事前に用意されていた。全部それぞれの体格に合わせて用意されているようで、2着ほどを体に合わせてみるとぴったりと合っている。

 シスター長からの連絡が先に行っていたのだろう。皆さんの心遣いに私は恐縮してしまった。


「エミー、靴もある」


 外出用の靴と館内用の靴だろうか、2足ずつ用意されていた。


「私たち、ちゃんと魔術師になれるかな? ……考えると気が重くなるなぁ」


 ここまで私たちの事を考えてくれているのは嬉しい反面、その分の期待が重くし掛かってくる。


「なるようにしかならない」

「……そうだね」


 ミラのそんな一言に、私の心は少しだけ軽くなるのだった。

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