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第8話 魔道具の修理

 マルコさんの魔道具店にお世話になって、早いもので半年が過ぎた。


 俺は店内にあった魔道具や、修理を依頼された魔道具を片っ端から解析していった。

 そして、すべての魔法陣をプログラム化し、改変できることも確認した。


 発熱、発火、発光の仕組み、これらの原理は全て同じだった。

 魔道回路が“物の運動”に干渉し、熱の発生を操作する。

 その出力をさらに上げれば燃え、酸素を絞れば光だけを取り出せる――そんな具合だ。


 地球の知識を参照すれば、魔力の作用は地球の物理法則によく似ていることに気付く。魔力を電気に置き換えると、同じような現象が起こっているのだ。



 この世界の魔術師が、魔法として発現させられる要素は基本六つとされている。火魔法、水魔法、雷魔法、風魔法、土魔法、それに召喚魔法だ。

 これらの魔法が、すべてプログラムで記述が可能なのだとしたら……考えただけで、胸の鼓動が収まらない。


 ちなみに、光魔法は応用魔法の一つである。応用魔法とは、二つ以上の基本魔法を組み合わせるものと聞いた。

 治癒魔法や身体強化などの魔法も、複数の基本魔法を同時に使用する魔法なのだ。


     ◇


 故障した魔道具を修理するのは魔道具屋の仕事だ。


 隣でマルコさんの修理の様子を見て、魔道具の仕組みがほぼ理解できた。

 そこである日、マルコさんに頼んでみた。


「マルコさん、魔道具の構造はだいぶ解ってきたので、何かひとつ修理をやらせてもらえないですか?」

「えぇ? アル君、もう魔道具の修理とか出来そうなの? 魔道具の修理が行えるようになるためには、王都にある魔道学園でいろんな知識を身につけないと……普通は無理なんだよ?」


 マルコさんは、目を丸くしている。


 中に組み込まれている魔法陣の理論は難しく、理解するには魔道学院で専門の教育を受けなければならないらしい。

 解析してプログラム化した――なんて話は当然できない。


「この半年間、マルコさんの修理を傍でずっと見てきました。どこをどう治したらいいのか、魔法陣の意味や修正箇所もある程度は理解したつもりです」

「理解したって……凄いねアル君。そんな事まで解ってしまったなんて……ふむ」


 マルコさんは何か考えているようだ。


「じゃあさ、隣で見ているから、試しにこれを修理して貰えるかな」

「分かりました」


 俺は予めMRアダプタを装着してきた。迷彩液晶による同化モードであれば、誰にも気づかれることはない。

 そして、解析とコード変換などの簡単な操作指示は、脳波解析モードで黙ったまま実行できる。


 渡された魔道具は、発火の魔道具だ。炊事や湯沸かし等で薪コンロに火をつける時に用いる。

 中央にあるボタンを押してみたが、先端からは小さな煙しか出てこない。


 留め具を外して、丸められた強化紙を引き出すと、魔道回路と魔法陣が姿を現した。


―― アルゴリズム解析、コード展開 ――


『解析とコード展開が終了しました』


 頭の中で思念するとコマンドを受けて解析が始まった。

 すぐに結果が仮想空間上に表示される。


―― キーボード オン ――


 魔法陣の一部が薄くなって欠けているが、その部分がプログラムのエラー部分として赤く表示されている。

 仮想空間のキーボードで、俺がその部分を修正してしまえばよいのだ。


 修正するのは、通過する魔力量の制御部分。指の圧力によってそこを増加させる。これで良し。

 一通りコード修正が終わると見直しを行う。


(おっと、桁が間違っている!)


 これだと炎が吹き荒れてしまう。俺は何事もなかったかのように修正をした。


―――― 魔法陣コードへ変換 ――――


 修正したプログラムを元の魔法陣へ変換すると、消えた部分が補完された完全な魔法陣が表示される。

 あとはルメリウムの樹液を筆に含ませて、欠けた部分を補正したら大丈夫だ。

 ルメリウムの液は、少し粘り気があって塗りにくかったが、俺は慎重に欠けた魔法陣をなぞった。


「魔法陣のこの部分が消えていたので修正しました」


 終了したことを伝えると、マルコさんは横で呆気にとられていた。


「……いやいや、ビックリだよアル君! 完璧だよー……すごいなー!」


 強化紙を再度丸めて、留め具を元に戻すと完成だ。俺は先ほどと同じようにボタンを押して、修理が成功したか確認してみる。

 日本の知識の中にあった、使い捨てのライターと同じくらいの炎が先端部分に出現した。


「よし、大丈夫だな」


 こうして、記念すべき1台目の魔道具修理は成功したのだった。


◇◆◇


 今日、アル君が魔道具の修理をさせて欲しいと言ってきた。


 彼がうちに来てから半年間、私が魔道具の修理をしているといつも真剣な眼差しでその過程をじっと見ていた。

 しかしだ、いくら賢いアル君でも魔法陣の修復は専門の教育を受けたものでないと無理だ。


「えぇ? アル君、もう魔道具の修理とか出来そうなの? 魔道具の修理が行えるようになるためには、王都にある魔道学園でいろんな知識を身につけないと普通は無理なんだよ?」


 でも彼は、この半年間で魔法陣の意味や修正箇所が、ある程度は解ってきたと言ってきた。


「凄いねアル君。そんな事まで解ってしまったなんて」


 そうは言ったが、半年やそこらで修理ができるわけがない。

 その内に諦めてくれれば、修理屋の苦労が少しだけでも分かってくれるかな? そう思っていた。


 もしも、間違った魔法陣に書き換えてしまった場合、その魔道具は全く働かないどころか、場合によっては危険な事だってある。

 私は彼が間違った時点でそれを指摘しようと思い、隣で見ているからやってみるように言ったのだが――


 彼は慣れた手つきで留め具を外し、中から魔法陣を引き出した。やはり部分的に魔法陣が消えた状態になっているようだ。


 少しの間じっと魔法陣を見ていた彼だったが、なぜか両手の指をピクピクと動かし始めた。

 何をやっているのだろうか? 多分、理解が出来ないので焦っているのだろう。

 私はもう少し見守ることにした。


 暫くその状態を続けているかと思ったら、彼は小さく頷いた。そして、おもむろに筆を取ってルメリウムの樹液に先端を浸けている。


 ルメリウムの樹液は黄金色をしており、魔法陣の修復に用いる材料だ。

 ルメリウムの木は魔力を通す。その樹液も魔力をよく通すので、魔法陣の描画や修正に私も良く使う。


 この辺は私の修理の手順をいつも見ているから、一度やってみたかったのだろう。

 そう思って見ていると、彼は欠けた部分の魔法陣を、何と完璧なまでに正確に復元していった。


 何ということだ!


「魔法陣のこの部分が消えていましたので修正しました」


 魔道学園で専門の教育を受けていない彼が、いや僅か10歳の少年が、魔道具の複雑な魔法陣を理解できているなんて! ……信じられない。


 私は呆気にとられてしまった。たった半年間でこれを理解したなんて! 彼は天才なのかもしれない。


「よし、大丈夫だな」


 その後も、私がいつもしているように、ちゃんと炎が出ることを確認していた。

 私の仕事が、全部取られてしまうのではないか、そんな危機感が私の中をよぎった。


 たまたまだったかも? そう思い、その後も何台かの修理をさせてみた。

 しかし、すべての修理品が完璧に治っていたのだ。


 やはり魔法陣の理解は、本物のようだ。

 そうでなければ、修理なんて出来る筈がないのだから。


 しかし、あの毎回やっているピクピクとした指の動きは何なのだろう? 聞いてみたい。

 だが――彼の中に、聞いてはいけないものがありそうで、私は聞くのを躊躇ってしまった。

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