第87話 使用人を募集しよう
ブリストルを出てから予定通りの9日後、俺たちは王都に着いた。
王宮騎士団に馬車を返却してから陛下の予定を確認したところ、魔道宅配便で業務連絡を欠かさない俺はすんなりと王宮内に通された。
(やっぱり報連相は大事だね)
「陛下、ご指示をいただきました4つの都市への魔道転移ドアの設置、事前報告通り完了致しました」
「うむ、ご苦労であったな。暫くはゆっくりするがいい」
「はい、できれば早くルノザールに帰りたいと思っています」
ルノザールには買ったばかりの家がある。改修は終わったらしいのだが、どのような状態になっているのかとても気になるのだ。
「それで、家名は決まったかな?」
「はい一応……『ノーマウント』と」
「ふーん……ノーマウント騎士爵か、意味は深くは追及しないが、紋章も考えてくれたかい?」
「一応、頭の中にイメージ的なものはあります」
「わかった、では数日のうちには紋章担当の文官をよこすから、図柄を完成させたら登録までしておいてくれ」
この世界でも、家名と共に紋章は重要だ。同じ紋章が発生しないように登録制度を設けてある。
「そういえば、君の屋敷で雇う使用人たちはもう決まっているのかい?」
ああ、そうだった。うっかりしていたけど、使用人が必要なのだった。
「いえ、まだ決まっておりません」
「それならば、ルノザール伯爵に心当たりが無いかどうか聞いてみてはどうかな。もし集まらなければ王都で募集してもいいぞ?」
「それでは、ここから直接ルノザール領主館の転移部屋まで行って、相談ができればと思いますので、連絡をお願いしたいのですが……」
「あい分かった、宰相!」
「はい」
(すごい、ドアの外で待機されていたようだ)
「ルノザールの執事長にアルフレッド君が1時間後に転移することを伝えてくれ」
「承知いたしました」
1時間後に騎士団の事務所で待機していた3人と合流して、俺たちは王宮を後にした。
「王宮から直接転移してきて申し訳ありません」
「いやいや、宰相殿から事前に連絡が入ったので慌てずに済んだ。陛下だったら連絡無しっていうのをやりそうだからね」
(何それ。という事は、うちにも前触れもなく来る可能性があるって事だ)
「陛下だったら、指紋認証で拒否されるように魔法陣に組み込んでおきましょうか?」
「それはいいねー。いやしかし、後々煩いからそれは止めておこう」
(ですよねー)
「宰相殿からは、君の屋敷で雇う使用人の伝手がないか聞いてきたよ」
「使用人というのは、あの程度の屋敷だと、何人ぐらい必要なのでしょうか?」
「使用人と言ってもいくつかの役職がある。その辺りはジョセフから説明させよう」
「畏まりました。アルフレッド邸、あいや、ノーマウント騎士爵邸は今後のご活躍によって陞爵される可能性を考慮し、子爵級の屋敷をご提案させていただいております」
(今後の活躍って…… そんなつもりは無いんですけど)
「それからすると、執事1名、メイド3名、コック2名、庭師2名、使用人兼務の御者1名、それに守衛の2名が最低限というところでしょう。あとは必要によってその都度雇い入れれば良いのではないかと」
全部で11名か。使用人別館は16部屋あったと思うから大丈夫かな。
「私と領主様の方でも伝手を頼りに探してみますが、不足すると思いますので商業ギルドに依頼して募集されるのが良いでしょう」
商業ギルドに使用人の募集を依頼することが出来るらしい。
「出来るだけ多くの人を集め、その中から厳選されるのが宜しいかと存じます」
「採用試験とかするんですか?」
「そのように試験をされてもよいし、ノーマウン騎士爵様が面接をされて、良いと判断されたお人を採用されるのでも良いかと存じます」
試験問題なんかどうすればいいか全く思いつかないし、俺には人を見る目が備わっていない。
(ん……人を見る目? 人を見る目といえばミラか!)
「ミラ、面接官にならないか?」
「なぜ?」
「募集した使用人候補が、嘘を言ってないか見抜いてほしい」
「うん、任せて!」
ミラの目が怪しく光った。
後にミラに聞いた話では、こちらに対して好意を持っているか、あるいは悪意を持っているかなどが判るし、嘘を言ってるのもだいたい判るというのだ。
1週間後、屋敷で面接会を開いた。領主館からの伝手と商業ギルドからの紹介で総勢67名の採用希望者が集まっている。
メイド希望者は15名、年齢は様々だが全て女性だ。
執事希望者は男性3名、少ないな。
コック希望者6名、男女混合だ。
庭師希望者は一番多くて男女合わせて27名。
使用人兼御者希望者は男女あわせて5名。
最後に守衛希望者は男性のみ11名である。
「メイド希望者から面接します、名前を呼びますから5名ずつこちらの応接室にお入りください」
エミーは応募してきた皆さんを案内する役、ジムは鎧姿で警護を行っている。いろんな人が来てるから、中には不採用と決まった途端に問題を起こす人が紛れているかもしれないのだという。
「先ずは名前と年齢、そしてメイドとして雇われたことがある人は従事年数を述べてください。あと、うちには見ての通り使用人用の別館がありますが、泊まり込みが可能であるかと、自宅からの通いのどちらを希望するかを聞かせてください」
俺とミラには、別々のチェックリストを作成している。俺のだと、名前と年齢、従事年数、人当たり、明朗、ちゃんと目を見て話しているかなど。一方ミラは、名前、嘘つき、正直、好意的か悪意があるか、個人の色を記録している。
従事年数については結構重要な要素だ。初めての人を雇って教育することは出来ないから、1年以上の従事経験がある人を採用する予定だ。
「私はファティマと申します。年齢は、36になりました。以前ルノザールの領主様の館でメイドのお仕事を12年間やらせていただきました」
「12年従事された後はどうされたのですか?」
「はい、結婚して子どもが出来たので領主館のほうは辞めさせて頂いておりました。しかし、2人の子供たちももう手が要らなくなりましたので、ノーマウント騎士爵様のお館でまたメイドのお仕事が出来ればと思っております」
今回、ミラが隣にいてくれることで確信犯を除けば、大概の嘘は見破れるようになっている。その場合の合図もミラと決めた。ファティマさんの場合は合図が無かったし、俺のステータス魔法でも年齢を誤魔化していない事がわかる。
中には従事年数が無いのに、2年間の経験がありますと平気な顔で嘘を言った輩もいたから驚きだ。厳選した結果、当初の予定通り11名の使用人を当日に決めて、ホールで発表した。
採用が決まった者は嬉しそうだったが、不採用になった人はちょっとしょんぼりしていて可哀そうだ。特にメイドさん、12名は不採用だもの。
ちなみに、メイドのファティマさんと庭師のモスさん以外は泊まり込みが可能だということで契約した。ファティマさんは通いとなるが、他の2人のメイドさん達の指導役という側面もある。俺たちと同年代のタリアは比較的経験が浅いのだ。
何はともあれ、この館に必要な人材が確保できて一安心だ。
「皆さんお疲れ様。私はこの館の主人であるアルフレッド・ノーマウントです。一応騎士爵という爵位を国王陛下から仰せつかっている。若輩者で頼りないかも知れないが、どうかよろしく頼みます。ここに残ってくれた11名は、これからこの館で仕事をしてもらう事になるが、皆で力を合わせて頑張って欲しい」
(何かみんなの前で挨拶をしなければなー、と思って話をしてみたが……何かしっくりといかない挨拶になってしまったな)
「ご当主様は現在17歳になられますが、このご年齢で騎士爵という貴族様に自らの力量で上り詰められたのです。これは凄い事ですぞ。将来はもっと出世なされるでしょう。また、一緒に住まわれるお三方も、王国名誉勲章という誉れ高い勲章の持ち主です。我々も誇りを持って日々精進しましょうぞ!」
執事のグラハムさんが纏めてくれて助かった。
 




