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第81話 ダンジョンコア

 ダンジョンコアがある部屋――いわゆる”コア部屋”に、魔道転移ドアを設置した次の日。俺たちは冒険者ギルド長室を訪ねた。


「それで? 魔道ロッドの報告から帰ってきて間もない私に、今度はルナ迷宮を踏破したという信じがたい報告をしに来たというんだな?」


 魔道転移ドアを設置してきたことも、この際、報告しておくべきだろうな。


「まあ、そんなところです。ですが、もう一つ報告したいことが……」

「君たちは、私をどれだけこき使えば気が済むんだ」


 ギルド長の睨みつける目が怖い。


「悪気はないんですが……」

「ハア……」


 ヴァルターさんはこめかみを押さえて、ソファーに沈み込んだ。


「よし、心の準備が整った。もう何があっても驚かないから、続きの話を聞かせてくれ」

「ルナ迷宮の最深部にはヒュドラが居ました。これがヒュドラの魔石です」


 俺はトートバッグをエミーに広げてもらい、中から特大魔石を取り出した。


「これがそうか! 大きいな。生きているうちにヒュドラの魔石が見られるとは……」


 ヒュドラの魔石はこれまでで一番大きい。魔道トートバッグに入るかどうかを心配したほどだ。


「ヒュドラを倒したら、その先にダンジョンコアがある小さな部屋が存在していました」

「ほう、ダンジョンコアの部屋まで辿り着いたのか。それで、コアは破壊したのだろうな?」


 ダンジョンコアに到達すれば、コアを破壊する。これがこの世界の常識だ。


「いえ、破壊はしていません」

「破壊しなければ、またヒュドラが出現するぞ!」

「ヒュドラはコア部屋には入って来ません。というか、入れる大きさではありません」

「どういう事かね?」


 ヒュドラのいる場所と、コア部屋の関係を詳しく話す必要がありそうだ。


「ヒュドラがいるボス部屋を更に先に行くと、俺たちがやっと入れるほどの通路があったんです。ヒュドラの頭部より小さい通路ですね」

「ふむ、ボス部屋の先に通路があるのか……」


 少し曲がっていたけど、そこまで言う必要は無いか。


「はい、その通路を10マタールほど入って行くと、この部屋の大きさ程度の空間があって、その中心にコアがありました。ここに俺たちは魔道転移ドアを設置してきました」

「魔道転移ドアぁ?」

「はい、略して”転移ドア”ですね。今からお見せしますので……ちょっと待ってください」


 俺はギルド長室の中で、魔道転移ドアを組み立てて設置した。そして、ダンジョンコア部屋に設置したドアに繋がる暗証番号を入力し、転移ドアを起動した。


「この魔道転移ドアは、ルナ迷宮の中にあるダンジョンコアの部屋に設置したもう一つの転移ドアと繋がっています。こちら側から直接コア部屋に行って、定期的にコアを確認しに行けば、スタンピードの予兆を検知できるのではないかと思ったんです」


 こちら側のドアを、最終的にどこに置くかは――後で詰めればいい。


「ちょっと待て! 繋がっているって……。確かに迷宮の中には転移の魔法陣があるが、あれは迷宮に最初からある天然のものだ。王宮の優秀な魔道具師が何十年かけても未だに解き明かせない魔法陣なんだぞ」


 俺も迷宮の魔法陣は解析しようとしたが、このMR装置ではコード化ができなかった。あれは確かに特殊なものだ。


「それが、魔道宅配便と同じ原理で、生き物も転送できることが分ったんです」

「そんなものを……君はまた作ってしまったと言うのか?」

「信じられないかもしれませんね。ジム、ちょっと行って来て」

「おう、いいぞ」


 ジムはもう慣れているぞと言わんばかりに、あっさりと魔道転移ドアの中に消えていった。


「ジムは今、ルナ迷宮のダンジョンコアのある部屋に行っています」

「一瞬のうちに行けるのか……」


 少ししたら、ジムが戻ってきた。


「これは一度に何人ほど行き来が出来るのかね?」

「魔石があれば何人でも可能です」

「では、距離はどれほど離れた所までつながるのかね?」

「距離は関係ないです、亜空間を介していますので」


 みんな考えるように、距離によって違いがあると考えるのは道理だろう。しかし、亜空間という特殊な次元の産物を前にすれば、物理法則さえも通用しないのだ。


「ハーーーーっ、君はなんていう物を作ってしまったんだ!」

「あったら便利かなーとか思ったんですが、軍事的にはちょっと問題ですよね」


 短時間で大勢の人間の転移が可能であれば、大量の兵隊も瞬時に送ることができる。


「当たり前だ! 問題というか、いや大問題だ。国外だけではなく、国内であっても極秘事項にせねばならんぞ」

「それはそう思います。ところで、ギルド長もコアの部屋に行ってみませんか?」

「そ、そうだな。陛下に見てもらう前には体験をしておかねばならんな」


 俺はヴァルターさんを先導して魔道転移ドアに入っていった。


「こ、……これが、ダンジョンコアか……」

「この部屋に魔力量を検知する魔道具を置いて定期的にチェックすれば、異常が起こる予兆を知ることができるのではないかと……無理にコアを破壊しなくてよければ、ルナの町にとっても国にとっても良い事かと思うのです」


 迷宮を生かしながらスタンピードの危険を避ける事が可能であれば、魔石の生産量は減らないしそれに越したことはないと思うのだ。


「今これを破壊すれば魔物の発生はかなり少なくなるし、得られる魔石や素材も激減するのは事実だ。コアを破壊すればまた別の場所に迷宮が発生するという話も聞いたことがある。よし、君の提案を陛下に進言してみよう」



 陛下への報告に先立って、ルノザールの領主様にも報告が必要だ。

 俺たち月盟の絆とギルド長ヴァルターさんは、その後ルノザールの領主館に出向いた。



「これは、私も出向いて話をしなければならないでしょうね」

「国にとって、最大級の重要事案だからな」


 ルノザールの領主館の応接室とルナの町のギルド長室に設置した魔道転移ドアの間でも、ひと通り動作の確認を終えた俺たちは、領主館に設置した魔道転移ドアの前で話し合っているところだ。


「先ほど、転移ドア間の距離は関係ないと聞いたのだが、魔石の魔力の消費量も変わらないのか?」

「そうですね、距離が変わっても変わりません」


 やっぱり領主様もそこに興味を持つのか。


「では、魔石の魔力が無くなったらどうなる?」

「その時は転移ドアを開けても亜空間とのつながりが発生しません。向こう側が普通に見えるだけです」


 魔道宅配便で経験した、出口が詰まっていたら亜空間に留まってしまうという不都合も、この魔道転移ドアでは解決済みだ。


「であれば、亜空間に入ったまま出てこられなくなるという心配は無いのか」

「陛下の事だから、好奇心だけで入ろうとするだろうな」


 万一陛下の身に何かあったら、国の一大事だと領主様たちは言う。


「よし、それでは明日の朝には王都に向かって出発するとしましょう。先触れはこちらで出しておきますから」


 魔道宅配便は特殊魔道具に指定されたが、ルナ迷宮での試用期間を経て各領主館と王宮との間で事務連絡用に設置されている。

 これまでは書簡が王宮に届くのに、早くても2日はかかっていた。しかしこれが瞬時に届いてしまうので、大変重宝がられているという。


「今日はこちらに泊まっていくといい」

「いえ、今日は帰ります。転移ドアで帰れば一瞬ですから」

「ククク、そうかそうか、そういう事になるのだな」


 これまでの感覚で泊っていくように促した領主様は、自分が昔の感覚で口にしてしまった事に苦笑している。


「折角のご提案を断る形で申し訳ございません」

「これからはそうなるだろうな。これまでの常識が覆される……そういう事か」


 ルナの町から領主館までは半日かかるため、これまでは要件を済ませてもルノザールの街に宿泊することが殆どだった。

 しかし、瞬間的に移動が可能となれば時間を気にしなくともよい。


 俺たちは明日の朝、再度領主館に集まる事を申し合わせてルナの町に帰った。

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