第78話 転移装置
第41階層からは俺の武器の仕様を変えた。
この階層以降は大型の魔物が2体以上同時に出現することが多い。ガーゴイルが2匹やサイクロプスが2体、あるいはキメラがトリオで出てくることもある。
火力不足を補うためとはいえ、魔道ビームライフルを常に持ち歩く事は出来ないので、俺は魔道ライフルをフルオートに改造して1秒間に10発のファイアボール弾が発射できるように改造を施した。
「やっぱりその武器はすげーな。俺たちの出番がねえぞ」
「攻撃も何もしてないのに経験値が入るって、変な感じね」
「50階層のボス部屋以降は、Sランクの魔物が出てくる。それまではランク上げに専念して、防御力のアップに注力しようと思う」
Sランクの魔物といえばワイバーンやバシリスク、マンティコアといった攻撃力の高い魔物が多くなる。これらの魔物に遭遇した時、攻撃耐性を上げておかなければ一発の攻撃でも大きなダメージを負う可能性がある。
エミーの身体強化や防御力向上魔法も、経験値によって効力が上がるので、彼女のランクアップは特に必須なのだ。
「そのために、ここから先はみんなにこのライフルを持って貰おうかと思う」
俺はフルオート仕様の魔道ライフルを4挺作成して持ってきた。トートバッグに入れればいくつでも持ちが運びができる。
ここだけの話だが、魔道ビームライフルも4挺入れている。
(国王の許可? ……量産ではなく試作品だから大丈夫だと思う。思いたい)
「基本的には、すべての魔物を遠距離で仕留めていきたい。相手が攻撃を仕掛けてくる前に先制攻撃で殲滅する」
「それって、ズルじゃねえ?」
「この際、ズルでも何でも。自分たちの命を大事にする」
「賛成! アル、これどうやって使う?」
ミラはこの中で一番順応性が高い。そしてジムはこの中で一番真面目なのだろう、好奇心はあるようで、不本意ながらも使ってくれるようだ。アサルトライフルの持ち方、構え方、撃ち方それとマガジンの交換のやり方などを一通り説明する。
「こんな感じでいいのか?」
「銃口はもう少し下に向けて楽に持った方がいい。腕が疲れるからね。魔物が近くなった時に銃口を上げればいいよ」
そして、迷宮の中でも魔道レーダーが有効だ。
「魔物発見。2時方向、距離50、2体」
「アタック」
4人のアサルトライフルが一斉に魔物に向かって火を吹く。すべてが秒間10発のフルオートなので、その総合火力は凄まじいものだ。
いささか魔物に対しての罪悪感もあり、俺はゲリラ部隊にでもなったかのような心境でいたのだが。
「私たちって、けっこう格好いいわよね」
「うん、バッチリ」
なぜか女性軍にとっては受けがいい。
「今日はここまでにしとく?」
「そうだな、魔石も結構溜まったし、戻りますか」
「最近思うようになったんだけど、ルナ迷宮と町との移動は結構大変よね」
「俺もそう思ってた。いっそのこと迷宮内部と宿泊所との間で転移陣をつくる?」
5階層ごとに転移陣があるが、これはダンジョンの機能として最初からあるものでダンジョンの外には転移出来ない。魔法陣もなぜか解析できなかったのだ。
「そんなことできんのかよ?」
「できると思うんだ。この前、ネズミが魔道宅配便にたまたま乗っててさ、そのネズミも一緒に向こうに転送されたんだよね」
魔道宅配便は物を送る装置として開発したが、生物も転送できて不思議ではない。
「おま、ネズミと人間とじゃ違うんじゃねえか?」
「原理的には同じだと思う」
ネズミのDNAと人間のDNAはよく似ているらしいから。
「アル君がそう言うんだから、何だか出来そうだわね」
「うん、早く作ろ」
「ちょっと待って、先ずは動物実験が必要だよ」
(そんな急かさないでよ皆さん。動物実験は何でやろうか……)
それから俺は、転移装置の開発に取り組んだ。原理的には魔道宅配便の魔法陣と同様で、一旦亜空間に対象物を送った後に別のところで取り出すといったものだ。
しかし、安全性の確保を優先に開発を進めなければならなかった。対象が人間であるため、『亜空間に行ったまま戻れませんでした』では洒落にならないのだ。
複雑な魔法陣を仕込んだ通常の大きさのドア枠を作り、一応必要は無いがドアを取り付けた試作品が完成した。
枠の角には蝶番を付けて折りたたみ、ドア部分は外して折りたたむ事によって魔道トートバッグの中に入る。
名前は単純に、『魔道転移ドア』だ。
見た目や形状は、一般的な洋風ドアだ。決してピンク色をしている訳ではない。
「ここらへんに置いて様子を見ようか」
2つの魔道転移ドアを広い草原の真ん中に向かい合わせて設置をしてみた。
「これでいいかー?」
「うん、大丈夫だと思う! こっちのドアから入ると、そっちのドアに出てくるはずだから」
そして、黙って待つこと半日。
「ねえ、ネズミどころか、何も来ないね」
「ああ、失敗だな」
人が通らない広い草原で試そうと考えたのが悪かった。ここは人も通らなければ動物も魔物も通らないことに皆が、今更ながら気づくのだった。
そこで、人が通らず魔物が多く通る場所を考えた結果……俺たちは46階層の通路で試すことにした。こんな深層部には、俺たち以外に人は誰もいない。
設置をしてみると、“入っては出る”、“入っては出る”を何度も繰り返してくれる魔物たちがそこにいた。
(早く気づけば良かったな、半日を棒に振っちゃったよ)
「実験成功だな」
「これで人間が入っても安心できる事が証明されたって事よね?」
「まあ、そうだね」
「じゃ……じゃあ俺が入ってみるかな……」
「一緒に入る」
「お、おい! 待てって!」
ミラが少し躊躇しているジムの尻に、後ろから勢いよく手を押し当てて中に入っていった。すると、1テンポ遅れた感じでもう1つのドアから二人が出てくる。
「何か変な感じ」
「1歩だけ歩いたら、目の前が一瞬にして変わった感じだったな」
「気分はどう?」
「うーん、特に変わりはない」
体にも変化はない様なのでひとまず安心だ。
「一方のドアはどこに置いてもいいの?」
「原理的にはどこに置いても問題ない。入る前に出口を登録しておけば、亜空間を介在するので距離は関係ないはずだよ」
この装置は亜空間を介在するので、いくら距離が開いていても必要な魔力量に関係がない。その様な魔法陣の作り方をしているのだ。
「じゃあさ、フェアリーナイトの部屋とこの迷宮の攻略階層とに置けば、その間を一瞬で移動できるって事よね」
「そうなるね。だって、そのために作ったんじゃないか」
1つはこの46階層に設置したまま宿泊所まで一旦戻り、もうひとつのドアを俺たち男子の部屋に設置した。
一応、どちらからも暗証番号を押さないとドアは開かないようにする。
「暗証番号は、この4人だけの秘密ね」
「「「分かった」」」
「じゃあ、俺からいくよ!」
「「「おう!」」」
宿泊所のドアを通り抜けると、そこは46階層の迷宮の中だった。しかし、
「うおっ!」
ドアの近くに“コカトリス”という魔物がいたもんだからビックリしてしまった。ライフルを構えて入ったから事なきを得たが、これはさすがに心臓には悪い。
今度から迷宮内に設置する場所は、魔物が現れない安全地帯を選ぶ必要がありそうだ。
「大丈夫? アル君」
「出たらいきなり目の前で戦闘してたからビックリしたぞ。宿泊所のほうには音は聞こえないのな」
ドアで繋がっている様に思えるが、実際の距離は遠く離れている。だからドアの先の音も聞こえないのだ。
「ああ、少し肝が冷えたけど大丈夫だよ」
「次からは置く場所をよく考えないといけないわね」
「はは、そうだね」
魔道転移ドアを迷宮内に設置してからというもの、俺たちの迷宮攻略の効率は著しく向上するのだった。
 




