第73話 魔道ロッドの恩恵
「あと、エミーに渡した魔道ロッドも昨日ミラに持たせた魔力増幅機能が付いているし、自分の魔力量が2割を切るとここの小さい魔石が赤く点滅するようになっている。ミラのも昨日のうちに改造済みだ」
「私たちの魔力量がどの位残っているのか分かるの?」
「ああ、分かるんだ。冒険者ギルドでランク判定を行っている魔道具もそんな機能が付いているはずだよ」
「へぇー、そんな事教えてもらわなかったよねえ。ミラ」
「アルはとても博識。何で?」
(ここで何で? と来ましたか。ミラは昔から鋭いことを直球で聞いてくるよな)
「何で、って言われても……それだけ魔道学園で勉強してたんだよ。図書館の書物は全部調べたし」
ウソでは無い。図書館の書物は隅から隅まで読破している。
「ふーん」
納得はしていない模様だが、既に自分の持っているロッドに興味が移っているようだ。
「それじゃあ、今日は27階層からのスタートでいいよね」
「おお!」
「いいわよ」
「うん」
それぞれに個性的な返事をしてくれたら、いつもの様に攻略の開始だ。
俺たちの武器は全てが特殊だ。力押しで来る魔物でも後衛の魔法でほぼ1撃で沈んでくれるし、魔法攻撃をしてくる魔物がいれば、エミーの防御力向上魔法8倍増幅で回避できている。
ストーンゴーレムやメタルゴーレムといった硬い魔物の場合でも、ジムの大剣とエミーの身体強化魔法8倍増幅で両断されている。
僅か1週間のうちに、俺たちは40階層まで来ていた。40階層はデストベアーやハイデストベアーといったBランクの魔物が2匹ずつ出てくる階層だが、ここまでのところ問題はない。
「ボス部屋はパーティランクがAランクにならないと入れない決まりになっているから、決まりはちゃんと守ろうと思う。俺の予想だけど、ジムたち3人がBランク冒険者になれば、パーティランクがBランクになるんじゃないかって思ってる」
「Bランクの魔物はCランクで10匹」
「うん、ミラの説明では分かりにくかったかもしれないけど、単独でCランクの魔物を10体ほど倒すとCランク魔物1体分の経験値が得られると言われている。単独で10体、4人パーティだったら約40体の同レベルの魔物を倒すと自分のレベルが1上がる計算だね」
魔物を1体倒せばその魔物が固有に持っている“経験値”というステータスの1/10が討伐者の経験値にプラスされる。4人パーティだとその1/4だ。
だから、だいたい同レベルの魔物だと40体を4人で倒すことで、次のレベルにアップする計算だ。
冒険者ランクはこのレベルに依存しているようで、BランクからAランクにランクアップするには8回ほどレベルアップを経験するとランクが上がるようだ。
「うーんと、良く分かんねえ。結局何匹くらい倒せばランクが上がるんだ?」
「BランクからAランクに上がるには、8レベル位のレベルアップが必要と言われているから、自分たちと同レベルの魔物だと320体だね」
「それだったら、もうそのくらい屠ってきたんじゃないか?」
「まだ300はいってない。数えてる」
「すごいなー、ミラ」
「えへん」
ミラが少し寂しい胸を張っている。
その後俺たちは、40階層で余裕をもって50体の魔物を倒し、冒険者ギルドに戻った。
「おめでとうございます! ジェームスさん、ミラベルさん、エミリーさん揃ってBランクに昇格です。 そしてパーティランクもAランクに昇格です……」
計算した通りで良かった。
「これで、40階層のボス部屋にも挑戦できるんですね?」
「それはそうなんですが…… 月盟の絆さんは1週間前にBランクに昇格されたばかりです。それが僅か1週間でAランクに昇格だなんて、私信じられません」
「でも、この魔道具で判定したランクですよね?」
「そうなんですが、魔道具が壊れているって事も考えられますし……それに深層部だというのに皆さんケガも全くなくてローブにも鎧にも全くキズがありません」
(そろそろかな? 魔道ロッドの開発をギルド長のヴァルターさんに報告することにししよう)
「リリアンさんは不思議に思われていることと思いますが、実はその件でギルド長に報告をしておきたいことがあります。今、ギルド長はいらっしゃいますか?」
「はい、ギルド長は部屋におります。あの、私も同席させて頂いてもよろしいですか?」
「はい、勿論です。リリアンさんには秘密にしておけませんから」
俺たちからヴァルターさんに内密な話があるとリリアンさんから連絡してもらって、ギルド長室に入れてもらった。リリアンさんもしっかりヴァルターさんの後ろに立っている。
「単刀直入に聞くがアルフレッド君、今度は何を作ったんだ?」
やはりギルド長には新しい武器を作ったと思われている。パーティメンバー4名が雁首揃えて内密な話があるっていうのだから当然だろう。
「えっと、魔道ロッドです」
「「魔道ロッド?」」
ヴァルターさんとリリアンさんの声が、耳に心地よくハモった。
エミーが持っていたロッドを貸してもらい、テーブルの上に置く。
「はい、これは一見して魔術師のロッドのように見えますが、魔力を増幅して魔法の効果を上げる機能があります」
「魔法の強さを強化させることができる……のか?」
「はい、効果は2倍、4倍、8倍を選ぶことができます」
「8倍? 魔術師が1ランクアップすると、魔法の強さは2倍程になると言われている。その2倍だともう1ランク上だ、さらにもう2倍という事になれば、3ランク上の魔術師がいるのと同じ……という事になるのか?」
2倍×2倍×2倍=8倍(3ランクUP)なのである。
「ここにいるエミリー君とミラベル君は、現在はBランクの魔術師という事だから、現時点でSSランクの攻撃力になるという事か?」
「はい、更に防御力向上魔法や、身体強化などの支援魔法も8倍の効果になります」
ここまで聞いて、ヴァルターさんは目をつぶってソファーに深く腰を落とした。
しかし暫くすると、ヴァルターさんは目を開いた。
「あー、深く考えてもしょうがない。あれだぁ、勿論これらは持ち主を選ぶんだろう?」
「そうですね、そのあたりは抜かりなく入れています。あと、俺以外の者が内部を解析するために開けようとすると火魔法が発動して全部焼けてしまいます」
因みに、エミーとミラの魔道ロッドは、どちらが持っても動くようにしているが、ここまで詳しく説明する必要はないと思う。
「フッフッフ、良く分かった。これらは彼女たちの武器として必要だろうから、もう1つサンプルを作ってくれないか? 使用者は……そうだな、魔道学園のサマンサ魔術科長にできるか?」
 




