第70話 ルナ迷宮探索1
魔道学園に通う間の3年間、連絡しなかったのは申し訳ないが、なにも指をさしてまで驚かなくてもいいだろうに。
「あっ、ごめんなさい。でもですね、3年前のスタンピードの時にアルフレッドさんに大切なことを伝えきれていなかったので……気付いた時はもう王都に発たれた後だったから、ずっと気になっていまして」
「それって、ギルドカードの更新のことですよね?」
あの時に、リリアンさんから聞いてなかったことって、最近知った『ギルドカードは定期的に更新しなければならない』って事だろう。
「そ、そうなんですぅー。あの時は寝る時間も無いほど忙しくてー」
「俺も最近知りましたよ」
「あちゃー、そうなんですか、ごめんなさい。で、更新はされたんですか?」
「はい、しましたよ。ルノザールの冒険者ギルドで更新したら、Eランクから一気にBランクに上がっちゃいましたよ」
ハハハと乾いた笑いでお道化て見せると。
「ええーっ! アルフレッドさん、そんなにランクが上がったんですかぁぁぁ?」
「一気に3ランク上がるのは珍しいらしいですね」
「いえいえ、2ランク上がる人もいませんから。ほんっとうにごめんなさい」
何度も謝るので、本人は全く気にしていないことを伝えて落ち着いてもらう。
俺のランクが一気に上がった理由は、スタンピードで魔道ビームライフルを使用したからなのだから。
「前置きが長くなりましたが、俺たちこの町で暫く迷宮探索をすることに決めたんです。それでギルド長にも挨拶をって思って……」
「ええ、是非ともギルド長にも会ってください。ギルド長もアルフレッドさんに感謝の気持ちを伝えられなかったって、随分と落ち込んでいたんですよ」
「分かりました。お会いできますか?」
「もちろんですー」
俺たち4人は、2階のギルド長室にお邪魔した。
「君たち4人が月盟の絆のメンバーだな、どうか宜しく頼むよ」
散々に申し訳ないと謝られたが、俺がメンバーの紹介をすると、パーティ名と構成員の情報を知っていた。ギルド長にも連絡が来ているようだ。
「魔道ライフルを持っていくんだろ?」
「ええ、持ってはいきますが、取り敢えずは魔道ライフルを短く小型にした魔道ガンを持っていく事にします」
「ほう、それはどんな武器なんだい?」
「……これです」
俺は、少し大きめのホルスターに入れた魔道ガンを取り出して見せた。ここのギルド長には初めて見せるものだ。
「おお、結構コンパクトになったなぁ、片手で持てるようになったのか」
「どちらかというと、近距離対戦用ですね」
「なるほど、彼女たち二人が後衛で、君たち二人が前衛という事になるのか、アルフレッド君は剣もいけるから丁度いいんじゃないか?」
「いざというときには剣も使いますけど、俺は剣よりもガンがいいですね。それで、横にいるジムが持っているのは魔道大剣と言って、魔道具なんですよ。これで前衛はガンガン攻めていこうと思います」
「んん? 私も大剣は使ったことがあるが、彼はこの大剣を使いこなせるような筋力はまだ無さそうだが……」
そう見えるだろう。ヴァルターさんも王宮騎士団の出身だから、大剣を使ったことがあるようだ。
「では、ここでこの大剣を振ってもらってもいいですか?」
「本当はダメなんだが、いいぞ。君の頼みだからな」
「ジム、このギルド長は王宮騎士団の出身だ。お前の大先輩の前で大剣を振って見せてくれ」
「だ、大先輩でしたか。大変失礼しました。では、片手で振ってご覧にいれます」
「みんなこっちに集まって」
おれは、エミーとミラを部屋の隅に移動させた。
「では、抜かせてもらいます」
その後は、ジムが片手で大剣を目にも止まらぬスピードで振り回すものだから、ヴァルターさんが『中身は木で出来ているんじゃないか?』って疑う始末。
ヴァルターさんに渡して重さが分かった時点で、初めて納得されたのだった。
「アルフレッド君、君はやっぱり規格外だな。これからも予想外の魔道具を作り続けるんだろう? それならば、いつかは最深部まで潜ってスタンピードの原因を封じ込んでくれれば有難いんだがな」
「さすがにそれは、簡単にはいかないと思います」
「もちろん、無理はさせられないから数年かかってもいいさ。そんな気概で望んでくれればって、いや、これは私の希望だな。検討を祈るよ」
次の日から、俺たちはルナ迷宮に挑むことにした。
ルナ迷宮の1階層から10階層まではEランクの魔物が出てくる。以前俺が出くわした魔物でラビディンやヴォルキノといった初心者でもなんとか対処できそうな魔物から始まり、3階層目からはゴブリンが出没する。
前の異常時に2階層で出くわしたバグベアーはCランクの魔物だから21階層からしか出てこないのだ。
そういう訳で、俺たちは初日のうちに20階層まで来てしまった。
これまで遭遇した魔物はゴブリンとその上位種、オークとその上位種、グール、ウッドゴーレム、ハーピイ、ロックバード、オーガとその上位種などだ。
「ねえミラ、ボス部屋は何が居るんだったっけ?」
「オークロード1匹に、オークが2匹」
「じゃあ、エミーとミラは魔法をオークロードに集中してくれ。オーク2体は俺とジムが対処したあと、怯んでいるオークロードを攻撃する」
「「「分かった」」」
ボス部屋にいた3体の魔物も、俺たちにかかったら呆気なかったが、現状の魔術師2人の火力が敵1体に対して心もとなくなってきたのも事実だ。
(しかし、オークもオークロードも、ミラの数え方は匹なんだよな)
彼女たちの魔法の火力を魔道具で倍増させることは出来ないかな? 俺は以前買った魔術師のロッドを本格的に魔道具化することを考えてみることにした。
最低限の魔術の発現を、ロッドに内蔵させたアクセラレーターで受けてそれを増強し、数倍にして発動するというものを作ろうという訳だ。
検討を開始してから、1日でそれは出来上がった。火魔法の火力を倍増どころか、8倍まで増幅できるようにした物だ。プログラムの変更だけだから、力業で可能だった。
「ミラ、これを持ってファイアボールを出してみて」
「嫌、格好悪い」
速攻で、……断られた。
「これを持ってファイアボールの短縮詠唱をすると、最高で8倍の威力になるよ。フレイムバーストだって8倍の威力になるはずだ」
「むむ、それは捨てがたい」
ミラが食いついてきた。もう一息だ。
「ここでは使えないけど、メテオだって8倍まで威力が増えるぞ」
「やってみる!」
ミラの目が今、キラキラと光った。彼女は魔術に対する思い入れが人一倍深い。そこをうまく利用して言い含めると楽なのだ。
「でも、迷宮内ではメテオは使うなよ。天井が崩れるから」
「フッ、分かってる。ファイアボールでやってみる」
(今、鼻で笑わなかったか? フッて)
俺たちは早速21階層に潜り、バグベアーとトロールで魔道具効果を確かめてみる事にした。万一何かあっても、俺たち前衛で対処できるからだ。
「ファイアボール!」
ミラはいきなり8倍の設定で魔法をぶっ放しやがった。数倍の大きさのファイアボールが、青白い炎になって魔物の頭部に襲いかかる。
青い炎は温度がとても高い事を示している。ちなみに、通常が赤、2倍が橙色、4倍が黄色、8倍が青という具合だ。
「うわーーー」
「あちゃー」
「げげー」
反応が様々なのだが、どうなったのかと言うと、バグベアーの上半身が蒸発して無くなっている訳である。
「ミラ、火力が強すぎ。増幅率2倍の位置でいこうか。魔石もダメになるし」
「んー、わかった」
俺たちはミラが小さい時からの付き合いだ。
納得していない時の彼女の返事の仕方は、ここにいる誰もが分かっている。少し不安要素を抱えたままだが、とりあえず先に進むことにした。
今回の投稿にて70話まで話を進めることが出来ました。
魔道具を使った魔法や便利機器の開発はこれからも続く予定です。
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