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第59話 ルノザールへ

 魔道学園を卒業して新しい季節に入ると、俺たちは一緒に16歳になる。孤児院に預けられた俺たちは、誕生日が分からないからだ。


「私たち、今日から大人だよね」


 この国では16歳が大人の仲間入りだ。成人式なんてものはないけれど、完全に親から独立して暮らすことができる年齢なのだ。


 魔道学園の卒業式では、主席卒業の表彰もあったし、国王陛下からの勲章授与式まであった。人前で表彰とか、何の罰ゲームなんだ? って気持ちだった。

 だから、卒業式の事は細かく覚えていないし、覚えていたくもないのだ。それをいつまでもぶり返す輩がいる。


「でも卒業式の時のアル君、格好良かったよねー。国王様から直々に勲章をもらってるんだから私もう、ドキドキだったよぅ」


 今は、王都からルノザールの街に向かっている定期馬車の中だ。定期馬車は重ね板バネが付いていないから振動がひどい。早くバネが王国全体に普及しないかな。


 貰った勲章は、“王国名誉勲章”と呼ばれるもので、この国では珍しい物らしい。これがあれば貴族ではなくても王国主催の様々な催しにも参加が出来るし、客人待遇をしてもらえるらしい。

 何しろ、私のバックは国王様だぞって言っている様なもので、下手な貴族はちょっかいを出せない事になる様だ。


「エミー、それもう言わない。恥ずかしいじゃないか」

「えーー?、だって格好良かったし、私も嬉しかったんだから何度でも言いたいわよ」

「アルは恥ずかしがり屋、でも嫌いじゃない」

「ミラ、みんなの前だと照れるんだって」


 定期馬車の中は他にも5人の乗客がいる。国王様から勲章を貰ったという話に誰もが反応してみんなから注目されているのだ。エミーとしては俺の事を自慢したいのだろうけれど、俺としては注目されると居心地が悪い事この上ない。


「じゃ、じゃあさ、獣人族の村で大っきな魔物を討伐したって話をもっと聞かせてよ」

「うーん、それも話せる内容と、話せない内容とがあってね。話せる内容だけでうまく説明するのが難しいな」

「じゃあさ、王都の馬車がとても乗り心地が良くなったって話を聞かせて?」

「ああ、それなら話せるぞ……」


 あれからエミーは、よく俺に話しかけてくるようになった。抑制していた枷みたいなものが外れてしまったようだ。気兼ねが無くなったと言った方がいいのかな。

 道中、そんな話を繰り返しているとルノザールの街に到着した。


 エミーとミラは一旦領主館に行き、これまでの魔道学園でのことを報告。そして今後の事について話し合う事になっている。

 エミーたちが領主館にいる間、俺は近所の宿泊所に泊まり冒険者ギルドの場所を調べたり依頼の内容を確認したりして時間を潰そうと思っていた。


「ここから領主館までは二人だけでいいか?」

「えーっ、アル君も一緒に付いて来てほしい」


 エミーが、急に手を取る子供の様に甘えてきた。


「ま、まあ領主様は知らない仲じゃないからいいけど……」

「やったあ」


(どうしてだろうか、俺を領主館に連れていきたい理由があるのだろうか?)



 定期馬車の停留所から領主館までは少し離れているが、歩いて行けない距離ではなかった。


「連絡をいただければ、お迎えに上がりましたのにー」


 俺たちが領主館に着くと、エミーが門番の人に何やらごにょごにょと話かけていた。と思ったら若いメイドさんがメイド服の裾をたくし上げて走ってきたのだ。


「エミーさんも人が悪いですぅーー」


 何だか拗ねているようだ。


「アンナさん、こちらがアルフレッドさん。アル君、この人は私たちが最初にここに来た時からずーっと親身に私たちの面倒をみてくれていたアンナさん」

「メイドのアンナです、アルフレッドさんのお話はかねがねエリーさんから聞いてました。仰ってた通りのイケメンさんですぅー」

「こら、アンナさん喋りすぎ」


 エリーはアンナさんの口を抑えようとしているが、アンナさんは逃げている。


「エリーさんたちが帰ってきたのが嬉しくてーーーえへ」


(アンナさんって何か明るい人だな。スキップしながら逃げているもの)


「ハハハ」


 俺は苦笑いするしかなかった。


「アンナさん、前と変わってない」


 ミラはいつでも平常運転だ。



 領主館に入ると、3人とも応接室に通された。


「ルノザール伯爵様は執務中でして、切りの良いところでこちらに向かわれます。どうかそれまでお茶などを召し上がってお寛ぎください」


 落ち着いた雰囲気の執事さんが、申し訳なさそうに話してくれた。どっかで見たことがあるな、この執事さん。


「いえいえ、こちらが急に訪ねてしまったもので、会ってくださるだけでも大変ありがたいです」


 俺はエミーたちに目配せをし、前もって連絡をしなかったエミーたちの反省を促したのだが、当のエミーは『てへ』とか言って横ベロを出している。まるでどこかの少女キャラクターの様で、ほっぺたが美味しそうだ。


 紅茶をまだ一口しか飲んでいないのに、領主様はバーンとドアを開き入って来た。


「よく来てくれたね! アルフレッド君は領主館に来るのは初めてじゃなかったかい? エミリーもミラベルもお帰り!」

「突然にお邪魔して申し訳りません、こちらを訪問するのは初めてです」

「そうかそうか、じゃあ今夜はゆっくり泊まっていかれるといい。何ならずっといてくれてもいいんだよ。部屋もあるし」

「いえいえ、そんなにお世話になるわけにはいきません。今日からは俺だけでも宿泊所に泊まろうと考えているんです」

「いや、それは勘弁してくれ。王国名誉勲章が授与されたアルフレッド君を、そんなに無下に扱ったら国王に叱られてしまうじゃないか」

「そうでした。申し訳ありません。……では、今日1日だけ泊まらせてください」


 エミーの策略に嵌まったことを今理解した。


◇◆◇


 夕食の席では、初めて伯爵夫人とお会いした。


「ああ、君たちはこっちに座りなさい。 ……アルフレッド君、紹介しよう。私の妻のキャサリンだ」

「キャサリンですわ、宜しくね」


(メグのお母さんと同じ名前だ。たまたまなのか?)


「こちらがアルフレッド君。昨日話をした通り、この年齢で王国名誉勲章持ちだ」

「初めてお目にかかります。Eランク冒険者のアルフレッドです」


 もう、魔道学園の生徒ではないのだ。

 卒業式で“魔道具師”の資格を得たが、俺としては“冒険者”としての肩書をこれから使いたい。


「このたびは王国名誉勲章の授与、おめでとうございます。エミリーさんたちと同じ歳なのでしょう? 本当にすごいですわねぇ」

「いえいえ、そんな大そうな事はしていませんから」

「あらまあ、ご謙遜を」


「ところでアルフレッド君は先ほど、冒険者の肩書を名乗られたが、これからも冒険者を続けられるつもりかな?」

「はい、ルノザールを拠点に続けようかと思っています」

「そうか! それはありがたい。何かあったら支援させてもらうよ」

「ありがとうございます」


「さて、エミリーとミラベルはこれからどうしようと思っているかな? ……先に言っておくが君たちがどんな選択をしようとも、私は出来る限りの支援をするつもりだよ」

「ありがとうございます。 ……実は私もミラも、アルフレッド君と一緒に冒険者として活動し、魔術師としてのレベルを高めたいと思っています」


「フム、それはいい事だよ。アルフレッド君がこの領地を拠点にしてくれるようなので、私も有難い」

「私たちも、ご理解を頂いて有難く思っています」


「一つ、私からアルフレッド君にお願いがあるのだが、よろしいかな?」

「あ、はい何でしょう?」


(いかん、ぼーっとしてた)


「彼女たちは魔術師としてもそうだが、私としても娘の様に大切な存在だ。決して無理はさせず、何かあった時は必ず彼女たちを守って欲しい」

「はい、それは勿論です。俺が責任をもって守り抜きます」

「そうか、それを聞いて安心したよ」

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