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第54話 獣人族の森の魔物

 宿泊所を出て東の門に近づいた時、門の外で何やら騒いでいる声がする。


「それでも、領主様に会わせて欲しいにゃ。早くしないと大変なことになるにゃ!」

「だから、身分を証明するものが無ければ通せないんだよ」

「急いで走ってきたから、何も持ってきてないにゃ!」


 獣人族の女の子と門番が何やら揉めているようだ。

 馬を降りて、レオノールさんが門に近づいて行く。


「あっ、その恰好は騎士さんだにゃ! 助けて欲しいにゃ!」

「落ち着いて、何があったのか話してみなさい」

「東の森に大きな魔物がいて、獣人族の村の方に移動して来てるるにゃ」


 大きな魔物が出たようだ。


「止められないのか?」

「何とか止めようと村の男たちが頑張ってるけど、攻撃しても背中が硬くてびくともしないにゃ。それに攻撃すると、その度に火を噴いてくる厄介な奴にゃあ」


「それはどんな魔物だい?」

「カメにゃ」

「カメ?」

「30マタールくらいの大きなカメにゃ!」

「カメの魔物がいるのか?」

「普段見るのは1マタールくらいの大きさにゃ、それが大きくなって魔物化しているにゃ」


 1mのカメが、30mに大きくなっている? そんなことってあるのだろうか?


「早くしないと魔物から村が押しつぶされてしまうにゃ!」


 このままじゃ自分たちの村が襲われてしまうから、このエイヴォンの領主様に助けを求めるために、一番足の速い彼女が使いを頼まれたのだそうだ。


「分かった、私たちは王都から派遣された騎士団だ、近くの森に異常な魔力反応が見られるので調査を任されているが、魔物とあっては討伐することも許されている」

「よかったー、すぐに行くにゃあ」


「至急案件と判断される為、領主には君たち門番より伝えて欲しい。すぐに出発しよう、君……?」

「ニーナにゃ」

「ではニーナは先ずは馬車の方に乗って休んでいてくれ」


「道案内はいいのかにゃ?」

「我々も獣人の村までの道は把握している。その後は魔物が出た場所までは御者の横で道案内を頼む」

「分かったにゃ、では出発にゃ!」

「私を含む5名は馬車の前方、6名は後方に展開せよ。では出発する」


 今日はお尻が少々痛かったので馬車の荷台に乗っていたが、俺が乗っている馬車にニーナという獣人族の女の子が乗り込んできた。


(やばい、ケモミミだ。耳を見ていただけで胸がキュンとしてしまった)


「あんたは騎士団の人じゃないみたいだけど、何をする人かにゃ?」

「うにゃ、あ、えーと、俺は学生だけど調査隊に参加しているんだにゃ」


 ビックリして変な声が出てしまったぞ。語尾も感化されておかしくなってるし。


「合わせなくてもいいにゃ、あたい達はどうしても語尾がこうなるにゃ」

「合わせている訳じゃないんだけど、びっくりしてな」


「ところで、あんた学生っていったけど、名前は? 歳はいくつにゃ?」

「俺の名前はアルフレッド、皆はアルって呼んでいる。歳は15歳だ」

「おー、アルっていうのにゃ、あたいはニーナ。歳はあたいの半分だにゃ。宜しくにゃ」

「えっ? 半分なの? てかニーナさんって何歳?」


「女性に歳を聞くって、あんた失礼だにゃあ。でも教えてやるけど、今年で30になるにゃ。でもにゃ、獣人族は人間族の倍の寿命だから、アルとほぼ同じ歳だと考えていいのにゃ」


「へー、獣人族の寿命って、人間の倍あるのかぁ、長生きなんだね」

「あたいのおばあちゃんは、今年で178歳にゃ。まだまだ畑仕事もバリバリやるにゃあ」


 178歳で現役って……獣人族って凄すぎるぞ。


「えっと、ニーナさんはその、魔物は見てはいないんですよね?」

「うんにゃ、見たにゃ。仲間から村に報告があって直ぐに見に行ったにゃ」

「じゃ、じゃあ歩くスピードって、どの位なんですか?」

「歩くのは遅いにゃ、カメだからにゃ」


(うん、どうも会話にならないにゃ)


「えっと、人間が歩くのより速いですか?」

「人間が歩くよりは、ちょっと速いかにゃあ」


(カメだけれど、30マタールと巨大な分、スピードは俺たちが歩く速さよりも速いのか)


「甲羅は固いって言っていたけど、剣では切れないの?」

「剣ではキズも付かないにゃ。槍も刺さらないし、魔法も跳ね返されてしまうにゃ」


 まずいな、騎士団はみな剣術士か槍術士だし、魔法のスクロールを使っても跳ね返されてしまうぞ。対策を考えないといけなさそうだ。


「その大きなカメは、獣人族の村からどのくらい離れたところを移動しているの?」

「あたいが見に行った時は、25キタールくらい離れていたにゃ。でも、あれからだいぶ時間が経ってるから、村までもうあまり距離は無いと思うにゃ」


 仮に5km/hで移動していたとして、25÷5=5時間で村に最接近する計算だ。


「ニーナはどのくらいの速さで移動できるの? 朝は村で一番早いって言っていたけど」

「私が一番速いにゃ、村一番だにゃ!」

「……えっとそれで、どのくらいの速さで走れるの?」

「速さは分からないにゃ。カメを見てから村に大急ぎで戻ったけど、半時間くらいかかったにゃ」


(半時間といえば、30分。彼女の話が全て間違いが無いとしたら、時速50kmじゃないか、はえーな)


 という事は、獣人族の村からエイヴォンまでも約50キタールで1時間、馬車の移動速度が15km/hとするならば・・・約3時間半、村に到着するころにはカメは25kmほど進んでいる計算になる。


(間違ってないよね)


 そんな事を考えているうちに、獣人の村が近くなってきた。


「もうすぐにゃ。あたいは村に戻るにゃ」


(って、軽快に飛び出していったが、先に村に行って報告するのかな)


 それから約10分後に、俺たち一行は獣人族の村に着いた。


「私は獣人族の村の長をしておる、カザムと申す。今回は我らの危機に素早く応援に駆けつけてくれて感謝する」

「それで、現在の状況はいかがでしょう」


「村の若いもん10名ほどで何とか食い止めようと頑張ってはおるものの、まったく歯が立ちませんでな。少し方向がズレていれば良いのですが、100年ほど前にセージトータスが通りぬけた経路と同じところを真っ直ぐこの村に向かって進んできておるのです」


 100年前もこの巨大カメが通って行ったのだそうだが、その時に付けられた名前がセージトータス。

 口からは炎を吐きながら進むその姿に“賢者のカメ”と先代の長が名付けたのだという。


「前回は村に大きな被害を残していったが、今回は村に来る前に少しでも方向を変えたい。できれば食い止められないかとも考えているのだ」


「レオノール隊長、ニーナから聞いた話ですが、そのセージトータスとかいう魔物は甲羅も手足も硬くて剣でキズも付けられないばかりか、魔法も反射してしまうようなのです」


「そうすると、君の魔道ビームライフルも反射する可能性が高いか」

「そうなります」

「カザム村長、その魔物は森の木は避けて進んでいるのですか?」

「いーや、木々は全てなぎ倒して進んでおるのです」


 進行方向にいれば木が倒れてくるので、とても危ないらしい。

 木が倒れる、木を倒す、そうだ!


「レオノール隊長、前もって進行方向の木を倒しておいて、それを障害物にして方向を変えさせるというのはどうでしょう」


「うむ、私もそれを考えていた。君の魔道ライフルで木を倒せるかい?」

「木の太さにもよりますが、大概の木は切れるというか、破壊できると思います」


「分かった。村長、それで方向を変えさせようと思うのですがよろしいですか?」

「そうそう手早く木は切れんと思うが、大丈夫なのか?」

「彼の武器ならば大丈夫です。やってくれますよ」


 俺は、魔道ビームライフルと、魔道ライフルを馬車から降ろして背中に背負った。ちなみに魔道ガンは常時装着状態だ。


 そうこうしているうちに、森の方から木がなぎ倒されているであろう凄まじい音がここまで聞こえてきた。


「魔物までの距離が2キタールほどまで近くなってきたぞー!」


 見張り台の方から叫びが聞こえる


「もう、猶予が無い。すぐに行こう!」

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