第49話 マギコースト迷宮探索2
「先ず始めは、あの岩の辺りから始めようか」
「「「了解!」」」
「分かりました」
「うん」
俺の始まりの合図とともに、魔術師たちは詠唱を開始した。
「「「炎の精霊によって炎を舞わせ、敵を焼き尽くす火の玉を創り出せ。ファイアボール」」」
「「天空の力集いて、我が目標に向かって落ちよ サンダーボルト」」
メグとミラ、そして昨年まで火魔法ができなかったラズさんも、今は火魔法を習得している。そしてエミーとウイルは雷魔法での攻撃だ。
魔法の威力はそれほどでもない。
でも、このあたりの魔物は強い魔物ではないからその場で動かなくなる。
しかし、魔法が当たらなかった固体は、魔術師を敵と認識して這い寄ってくるのだ。
「ひっ」
予想していなかったのか、メグが小さな悲鳴をあげて一瞬怯む。ここは俺たちの出番だ。
「任せろ!」
人の頭ほどあるフナムシを、ジムが確実に仕留めていく。
「アル、そっちに1匹行ったぞ」
「おう、大丈夫だ」
俺たちのパーティはうまく連携して、難なく魔物を倒すことが出来ている。そして10分ほど経過した時に、メグのレベルが上がったようだ。
「あっ……今、体が急に軽くなりましたわ。これがレベルが上がった感覚ですの?」
「メグもレベルが上がったんだね。私とミラは去年の魔物討伐研修の時に経験したんだけど、メグはまだ上がってない様だったから……よかった」
魔物討伐研修のときはパーティを組んでなかったので、魔物を倒した個人に経験値が入る。恐らく研修のときには、メグは二人より魔物を倒した数が少なかったのだろう。
「経験値が上がれば、魔法の威力も体の動きも上達したと感じられるようになってくる。今でも先に行けるとは思うけど、みんなのレベルがあと1つ上がってから先に進んだほうがいいと思う……」
「私もそれがいいわ、もう少し詠唱のスピードを上げられないか試したいから」
「了解、それでいこう」
それから2時間ほど経過すると、魔術師全員のレベルが上がったようだ。
「アル君はまだ上がってないよね?」
「俺は既にレベルが上がっているんだと思うよ。スタンピードのときに俺一人でかなりの数の魔物を倒したからねー」
「それ!」
「え?」
いきなりジムに「それ!」って指摘が入った。
「見習い騎士養成所にいた時、まだ若い冒険者がルナ迷宮のスタンピードの時に一人で何千という魔物をあっという間に倒したって聞いたけど。もしかして、それってアルだったのか?」
「……まあね」
「……まあねって、お前何やらかしたんだよ」
「あら、アルさんは魔道ライフルの開発者ですのよ。そして国家機密のもっと強力な武器を開発されてスタンピードを食い止めてくださったってお父様からお聞きしましたわ」
メグさんが、言ってはダメな事を言ってるような気がする。
「お父様って、国王様よねぇ」
「そうですわよ」
「国家機密って……おま、何やってんの?」
「まあ、色々と秘密にしなければならないこともあるから言ってなかったけど、そういう訳で俺は結構レベルが上がっている可能性があるってことかな」
ここまでくると、ジムはあきれ顔から神妙な面持ちになる。
「はあ……、もう聞くのやめた」
「それって、私たちも今聞いた話は秘密にしなければならないって事なのよね?」
「うーん、みんなが黙っていればいいんじゃないかな?」
「あー、やめやめ。俺たちこれ以上聞かない方がいいと思うぞ」
まあ、俺もこれ以上は暴露しない方がいいかもしれない。
「では、そういうことで先に進もうか?」
「2階層ですわね」
「さんせーい」
エミーたちは2階層に進むのを賛成した。
「その前に、うそろそろ昼飯にしないか? 腹減ったぞ」
「そっちも、さんせーい」
ジムの提案にも賛成した。
「エミー、どっちに賛成なんだ?」
「エミーは昼食に賛成」
ミラさん、多分あなたも昼食に賛成なんですね。
「ライアナ先生、外に出て昼食してもいいんですよね?」
「ああ、いいぞ。そのかわり昼食には私も混ぜてくれ」
ライアナ先生は俺たちが迷宮の中に潜っている時には、ずっと近くにいて何も言わずに見守ってくれている。
時折メモをとっているのが気になるが、あまり気にしないでいよう。
「勿論です先生。海を見ながら一緒に食べましょう」
入口の外に出てきた俺たちは、出発前に冒険者ギルドで配給されたお弁当を取り出し、浜辺に座って食べ始めた。先生のお弁当も俺たちのと同じだ。
「しかし、お前たちは仲がいいなぁ」
「何と言っても、7名のパーティのうち4名が幼馴染ですもんね」
「そういえば、エミリーたちはルナの町の孤児院出身だったな。同い年は何人いるんだ?」
「同い年はこの4人ですよ?」
「何? 同じ孤児院出身で同い年の4人が、たまたまこの魔道学園の修業旅行に参加してるって言うのか? ……それは本当に珍しい事だな」
二人は魔術師、一人は騎士、そしてもう一人は魔道具師と、それぞれ職種が違う幼馴染がこうして一つの修業旅行に参加している。本当に珍しい事だ。
「その4人のうち、2人も魔術師の才能があるっていうのも不思議だよね」
「そうだな。ウィル君も不思議がっているように、一般市民から魔力持ちが出る確率は普通は5%未満なんだ」
ウィルたちが不思議がっているのは良く分かる。ライアナ先生の言うように、たまたまって言われればそれまでだが、俺もずっと不思議だと思っているのだ。
「本当ですわね、私たち貴族の場合は貴族同士の結婚が多いですから、魔力を持った子供が多いのですけれど、一般市民でこ5割の確率はとても高いですわね」
「エミリーとミラベルは、どこかの没落貴族の血でも引いているんじゃないか?」
「先生、それはわたくしも気になったので王宮で調べてみたんですが、私たちと同じ年の子がそういう家系にいるという記録は無かったのですわ」
「メグ、そんなこといつ調べたのよ。あ……でもね、ミラの家系は魔術師の家系だと思うわよ」
「それは何故だ?」
魔術師の家系と聞いて、ライアナ先生が興味を示したようだ。
「ミラが孤児院に預けられた時、ミラの籠には一緒に魔術師のロッドが入れられていたのよね。ミラ、そのロッドは今でも持ってる?」
「うん、……これ」
「どれ、ちょっと見せてくれ」
学園内でミラは、生徒に支給された専用のロッドを使用している。
先生は、ミラが前から持っている名前入りのロッドを見るのは初めてのようだ。
「これは……見ない模様だな」
「先生が見ない模様ってことは、王都の近くではないって事?」
「いや、ロッドの模様は土地柄が出るものなんだが、王国のすべての模様を把握している私にとっても見た事が無い模様だ。木の材質からすれば南の方だと思うんだが」
◇◆◇
昼食を終えた俺たちは、午後から2階層を探索し始めた。
2階層といっても出てくる魔物は1階層とさほど変わらない。強いて言えば数が多い事と、若干固体の防御力が強くなっている事くらいだろうか。
「1発で仕留められない魔物が増えてきましたわね」
個体が強くなっている為か、魔術師たちが放つ魔法の1回分で倒れない魔物が出てきたという事だ。その分俺たち前衛の仕事は忙しくなる。
「レベルアップまで頑張るしかなさそうだな」
「俺はまだまだ余裕だぜ」
「万一後ろに逃したら大変だから、慎重にいこうな」
「ああ」
午後になって暫くすると、魔術師たちのレベルアップが始まった。順番が奇麗に一緒だから、皆のレベルは一緒だという証拠になる。
ちなみに、ジムのレベルアップは途中で1回有ったようだが、俺のレベルアップはまだ無い。
「みんなのレベルが上がったからか、この階層の魔物は1発でほぼ倒せるようになったけど……どうする? 3階層に行くのはまだ早いよね」
「ウィルがきつそう」
ミラがそう言うのでウィル君を見ると、額にうっすら汗をかいて少し辛そうだ。
「僕はまだ大丈夫……だと思うけど、少し休ませてくれたら助かるかな」
「じゃあ今日はこのくらいにして、明日また頑張ればいいよね」
「そうだな、少し休んだら外に出ようか」
そう話していると、ライアナ先生が寄ってきた。
「そろそろかと思って見ていたが、いい判断だ」
「時間は決まっていないんですか?」
「時間は自由だし、階層の攻略スピードも自由だ。ただ、魔力切れで倒れる者が出た班は減点だがな」
(ひとまず、セーフ)
 




