第40話 王からの依頼
ミレーナ先生が言ったとおりに、俺は一週間後に国王様に呼ばれた。しかし、先生と一緒に来た面会場所は、前と同じ謁見の間ではなかった。
「久しぶりだな、ミレーナ」
「そうだな、ここにいるアルフレッド君を優待生にするって話をしたとき以来だな」
(うわ……魔道科長さん、国王様にタメ口だ)
「そうびっくりするな、アルフレッド君」
ミレーナ先生が肩をすくめて言う。
「私とサム、……ここにいる国王陛下とはな、実はいとこ同士なんだ。小さいころから一緒に遊んだ仲だから、いまさら敬語なんて気持ち悪くてな」
「魔道学園でも同級生だったからね」
国王陛下といとこ同士ってことは、この魔道科長さん……もしかして、ものすごいお家柄のご令嬢だったのではないだろうか? 全くそうは見えないけど。
「さて、今日はこの魔道レーダーを王宮へ運搬したのに合わせて君たちにも来てもらった訳だが、私も先ほど性能を見せてもらったよ。素晴らしいね。これまで王宮魔道具師たちが、何度チャレンジしても出来なかったことが嘘みたいだよ」
学園から運び出すときに、レオノール騎士団長には操作方法を説明済みだ。早速実演して見せてくれたのだろう。
「そこで宰相と話し合って、君には報酬を出すことに決まったよ。白金貨5枚と少ないが、受け取ってもらえないだろうか」
(白金貨5枚ということは……小さな家が一軒建ちそうな金額だ。それ貰い過ぎじゃないですかね?)
「少々、貰い過ぎのような気がするのですが……」
「いや、これは王都を守るための重要な魔道具になりえると判断したのだ、どうか受け取ってほしい」
「分かりました、それでは有難く頂戴致します」
国王様からの発言を無下には出来ないので、有難く頂くことにした。断ってしまったら不敬罪とか、洒落にならない。
「実は今日来てもらったのにはもう一つ目的があってだね、君にぜひとも検討して欲しい魔道具があるんだ」
ああ、これも断れない流れだ。
「それは、どんな魔道具でしょうか?」
「それはだね、魔力を持たない者でも攻撃魔法を発現することができるような魔道具とでも言えばいいのだろうか。それをできる限り大量に作れるようにしたいと思っている」
俺は、魔法のスクロール(巻物)を思い浮かべた。確かに難しくはないだろう。
「君も知っての通り、この国には魔術師の数が少ない。国が保有する戦力は、殆どが魔力を持たない一般兵なのだ。そして、最近他国からの諜報活動が盛んになってきているし、どうもきな臭いにおいがするんだ。この魔道具は他国からの脅威に対抗するために、是非とも自衛用に用意しておかねばならないものと……私は考えているんだ」
魔法のスクロールを一般兵に持たせておけば、戦術のバリエーションも格段に増えてくるのだろうな。
「あと、これは必須事項なんだが、これが万一他国に奪われた場合でも容易に真似できないような細工を施して欲しい。解析して真似される可能性も考慮しておきたいんだよ」
(解析されたら自爆するとか? 書き換わるとか、消えてしまうとか。う~んちょっと考えないとな)
「何か、出来そうな気もするんですが、少し考えさせてください」
「助かるよ、宜しく頼む」
「ところでアル君、うちのメグとは仲良くやってもらっているかい?」
国王陛下から「アル君」って呼ばれてしまった!
「はい。学園でもエミーたちと共に仲良くしています」
「そうか、それは良かった」
◇
魔道学園に戻った俺は、魔法陣実習教室のイドリル先生を訪ねていた。炙り出しのような物で魔法陣が書けないかと考えたからだ。
「さっきからの話を纏めると、国王陛下から、魔力を持たない人が魔法を使えるようにする魔道具を開発して欲しいと頼まれたのね? そして、万が一他国に盗まれた場合でも容易に複製が出来ない仕組みを加えて欲しいと」
「そうなりますね……」
イドリル先生は、メガネの縁を触る。
「えっと、それで君が私に相談したい部分ってどの部分なの?」
「そのですね、魔法を発するスクロールはだいたい頭の中に設計図はあるんですが、盗まれた場合の対策がぼんやりとしか無くて。見えない魔法陣が書けたらいいんですけどね」
「それは、目には見えないけど、しっかりと魔力を通す魔法陣が書かれているということよね」
「そうですね。魔法が発現する前の一瞬だけは見えるけど、魔法が発現したらまた消滅するっていうのはダメでしょうか」
「君、面白いことを考えるわねぇ。出来なくはないかもね……」
イドリル先生は少し考えて、次の提案をしてきた。
「普通、魔道具に組み込む魔法陣はルメリウムの樹液で記述するでしょう? このルメリウムの樹液に酸を混ぜると透明になるのよ。これって使えるんじゃないかしら」
普通の魔道具は、魔法陣が消えたら修理も出来なくなるからそんなことはしない。
「魔法を発するスクロールとやらはどうするの?」
「このくらいの幅の長い紙に魔法陣を記述していって、魔石を入れた芯に巻いてゆきます。芯の片側に設置した起動装置を動作させることによって、魔法そのものが発動するって具合ですね」
「さっき君が言ったのをヒントにしたんだけど、魔法が発動するその時に、一緒に火魔法を発動させてそのスクロールの魔法陣をすべて燃やしてしまうというのはどうかしら」
「先生、そのアイデアもらいです。用紙をできるだけ薄くして、一瞬で灰になるようにしたら残りませんね」
(この国の紙は和紙の製法だから、薄く漉いたら燃えやすくなると思うんだ)
「それから魔法陣の記述には、この教室の印刷の設備を使っていいからね。特に透明な魔法陣を手書きで描くには無理があるでしょう。ああー、どんなものが出来るのか、楽しみだわ」
「先生にアイデアもらいましたからね、期待しててください」
◇◆◇
俺はそれから実験室に籠り、数種類の魔法を発動する魔法陣を作り上げた。蓄積しているスタンダード魔法ライブラリを応用すれば、スクロールの魔法陣は比較的に容易だった。
そして、魔法陣実習教室の印刷設備を使用すると、スクロールの複写が可能だった。
作成したスクロールは攻撃用、防御用、回復用を含めた8種類。
代表的なものはファイアボール、サンダーボルト、ヒールなどである。
作成にかかった時間は20日弱、それが長かったか短かったかは俺には判断できない。
完成したスクロールを、それぞれ試作品として20本ずつ、王宮へ持参する。今日もミレーナ先生と一緒だ。
◇
「素晴らしい!! 頼んでからまだ3週間しか経っていないのに、もうできたのか。それにこの解析が出来ないための仕組みも……完璧だよアル君!」
効果のほどは、先だって王宮騎士団の訓練場で確認済みだ。
(よかったな。陛下もご満悦だ)
「ミレーナ、これらスクロールへの報酬だが、サマンサとも相談して決めたいんだがいいかい?」
「私は問題ないぞ」
「魔術師への報酬とのバランスを考えないとまずいからね、アル君もそれでいいかい?」
このスクロールが安価で大量に出回れば、魔術師の仕事が無くなってしまう……という事だろうか。
「いいも何も、後々に禍根が残らないようにとの事でしょうから、是非そのようにお願いします」
「理解してもらって助かるよ」
便利なものほど、誰かの椅子を奪う――多分そういう事なんだろうと俺は推測した。
しかし、これが出回るようになれば、戦争の形も変わる。
自分が作ったもので、国家間の争いに大きな影響を与えてしまうという現実に、寒気を感じていた。
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