第39話 魔道レーダー
サマンサ先生の魔法陣を録画してから20日くらい経過しただろうか? やっとその管制塔の中にあるようなレーダー装置が完成した。
(我ながら集中すると、のめり込むタイプだから注意が必要だな。体重も5キロほどやせたようだし)
持っていくのが大変だからと、俺はサマンサ先生を研究室に呼ぶことにした。
勿論、俺は魔道科の生徒だから、魔道科のミレーナ先生の立会いも必要だ。
「サマンサ先生、サーチの魔道具が完成しました」
「なんと! それは本当ですか!?」
「はい、何とか。物が大きいので私の研究室にありますが、直ぐにでもお見せできますよ」
「そうですか! では早速ですが見せてください! 行きましょう」
そうくるだろうと、俺は先に魔道科長とオズリック先生に声をかけておいて良かった。
「これがサーチと同様のことができる装置です。『魔道レーダー』と名付けました」
「これが魔力を感知できるのですか?」
「はい。見てもらうのが早いので、早速やってみましょう」
しかし、先生たちの逸る気持ちに応える前に、この装置の操作方法を説明しなければならないだろう。
「使用する時は、このつまみを押します。終了する時はもう一度押すと終了します。そしてこれが範囲選択ボタンで、3種類あります。1、10、100の3種類ですね」
「それは検知可能な範囲が3種類って事ですか?」
「そうです。1は半径が1キタール、10は半径10キタール、100は半径100キタールですね」
「それはすごいな、100キタールとは! サマンサの魔力検知範囲は、精々2キタール程だろう」
「フフフ、障害物があるともっと狭くなりますよ」
「早速だがアルフレッド君、やって見せてくれないか」
(そうですよね、早く見たいですよね)
「分かりました。電源オンっと、よし!」
「ほほう、魔力を検知したのが、この緑色の点になるのか」
「では、一番近くの3つの点は、私とミレーナとオズリック先生って事ですかね?」
「はい、俺は魔力持ちではないので先生たち3人ですね」
ここにいるのは4人だが、俺だけ魔力持ちではない。魔力を持たない人はこのレーダー装置には表示されないのだ。
将来的には波長を変えるなどして魔力持ちではない人も検出できる可能性はあるが、サマンサ先生のサーチを元にしているので魔力を持っている人のみが検出できる状態だ。
もちろん、魔石を体内に持つ魔物も検出対象だ。
「そして、周囲に沢山点在するのが魔術科の生徒のものだな」
「確かに、魔道科の方には点が少ないですね」
「これは面白いですねー」
「では、もっと範囲を広げてみますね」
俺は、範囲選択ボタンの10を押した。
「おお、点在した生徒の点がぎゅっと小さくなったな。範囲が広くなったのか」
「代わりに、王都に住む魔力持ちの人たちが表示されているみたいですね」
「これにはあと、強力な魔石を使う魔道具も表示されていると思います」
「なるほど、そうでしょうね。私のサーチにも大きな魔石を使う魔道具が探知されますからね」
「人間と魔石の違いは区別できないのか?」
魔道科長はさすがに痛いところを突いてこられる。
「それについては、まだ改良の余地がありますが、今のところは出来ません」
「まあ、いいじゃないですか。これだけのことが可能になれば、いろんなことに応用が可能ですよ」
「じゃあ、範囲を100にします」
俺は、範囲選択ボタンの100を押した。
「まだ範囲を広げられるのか! なるほど、……こうなるのだな」
「この明るい点は何ですかね?」
「方角からすれば、先日人口魔石が見つかった方角だな、距離は……」
「この1つの目盛りがこの場合10キタールだから、70キタール位ですね」
「やはりあそこか!」
先日の王宮騎士団の調査で、西の森で人工的に作られたような使用済み魔石が見つかったのだそうだ。
魔石に魔力は殆ど残っていなかったようだが、その周囲には魔力の残渣がまだ残っているらしい。
「この魔道具はやはり、王宮騎士団に預けた方がいいだろうな。陛下にも報告が必要だろうから、私が明日王宮に行って話をしてこよう」
「やっぱり、そうなりますか」
「アルフレッド君、この魔道具は王国の防衛に大きくかかわる特殊魔道具になる。そして今の王宮魔道具院でも作り得なかった物だ。これは褒賞ものだぞ」
「褒賞ですか……」
(また、王宮に呼ばれそうだな……)
「騎士団のレオノールには1週間後に運び出すように言っておくから、君はそれまでに準備をしておきなさい。そしてあれだろ、アルフレッド君。……君は何かに没頭すると、食事を忘れるタイプだろう?」
(さすがに5キロも痩せると、バレてしまうな)
「良くいるんだ。魔法陣の開発に夢中になると、3日ほど徹夜で部屋に籠って食事を忘れる奴や、歩いている時でも魔法陣の事しか頭になくて柱にぶつかる奴とかがな」
(何だか耳が痛い。先生の話の中の“魔法陣”をそのまま“プログラム”に置き替えたら、知識の中にある月見里拓郎の素行そのものじゃないか!)
「君のそのやつれ方を見ると、この20日間どういう生活を送ってきたかが容易に想像できる。若いのに困ったものだ。早く誰か世話好きの女子を見つけてやらんと、早々に死にかねんぞ」
「それは、酷い言いようですね。ミレーナがしっかりと面倒をみてあげればいいじゃないですか」
「私は、そんなものは出来ん。サマンサがやってくれ」
「あなたはもう、そんなだから世間の殿方からも愛想を尽かされるんですよ」
「何だと?」
「まあ、まあ、まあ、まあ。お二人とも、今は1週間後にどうするかという話だったのではなかったでしょうか?」
仲がいいのか悪いのか良く分からない二人のやり取りを、上手いタイミングでオズリック先生が止めに入った。
(オズリック先生ありがとう。この二人、歳も同じくらいだし、なんか因縁がありそうだな。いつもこんな感じなんだろうか)
「こほん、そうだな。アルフレッド君は、恐らく王宮に呼ばれるだろう。それまでは良く食べて良く寝て、見た目を良くしておきなさい。私が1週間猶予を設けたのはその為だぞ」
(今の俺、そんなに酷い状態なのか? 参ったな。今日からはしっかりと食べて寝るようにしよう)




