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第35話 研修中の胸騒ぎ

 魔術科の魔物討伐研修に魔道科のアル君が参加すると聞いたとき、私の心はにわかに躍った。

 しかし、一緒のグループになったらいいなと思ったのに、期待は裏切られてアル君は別のグループである4班に入ってしまった。


 しかし、私たちの班にはミラもいる。そして今ではすっかり仲良くなったこの国の王女、メグやラシダさんも一緒の班だ。


「メグたちも一緒の班で良かったね」

「わたくしもエミーやミラとも一緒でよかったですわ」

「うんうん」


 毎年、班分けをするには先生たちも苦労するらしい。

 学生の研修といえども、相手は魔物である。チームワークや連携が悪ければ、大ケガをすることだってあるのだ。


 そして更に、習得している基本魔法の種類でも相性の良し悪しがあるので、うまく割り振りをしなければならなくて毎年、頭を悩ませるのだとか。


 私とミラ、そしてメグの3人は、他のみんなと比べて習得魔法の種類が多い。

 他のみんなの習得魔法はまだ1つまたは2つという生徒が多いのに、それでも一緒の班になったという事は、先生がチームワークを優先したためだろう。


(王女殿下という存在も考慮されているのかもしれないか)



「では、第1班のメンバーの得意魔法の紹介と攻略方法を検討致しましょう。よろしいかしら?」


 私たち4名と、1名だけ男子のウイリアムさんを含めて、今後の研修でどのように協力し合うかも決めていくことになった。


「では、俺から。俺の名前はウィルって呼んでくれ。得意魔法は今のところ雷魔法だけだ。みんな宜しく」

「わたくしはマーガレット、ウィルさんもご存じのとおりこの国の王女という身分なのですが、王女様とか殿下とか呼ぶのはお断りですのよ。できれば普通に名前で呼んでくださいね。得意魔法は、火魔法、水魔法、それに雷魔法ですわ。」


 他の3人は、それぞれに既知なのでメグが他の3名の紹介を行う。


「こちらはラシダ。得意魔法は風魔法と水魔法ですわね。そしてエミリー、わたくしはエミーって呼ばせていただいてますわ。お得意な魔法は水魔法と土魔法、この二つの応用で治癒魔法、そして最近は雷魔法も覚えたとか」


(雷魔法はまだ覚えたてだけれど、メグはもう知っているようね)


「そして彼女はミラベル。わたくしはミラって呼ばせてもらっていますわ。お得意な魔法は火魔法、水魔法、そして風魔法の3つですわね。ウィルさん、よろしくおねがいしますね」


 このあと、この5人でどの様に連携しながら魔物を倒していくかを話し合った。



 魔物討伐研修の初日。4つの班全員が裏門の外に集まって、注意事項などの説明があった。

 私が門の外の広場で見渡した時、アル君は奥の4班のグループと一緒にいた。アル君に話しかけることができないままの出発となってしまったためか、何だか心がもやもやとする。


「アルさんに、私たちから手を振りますわよ」


 私の気持ちを察してか、メグがそんなことを言ってきたのでその提案に乗るのが何だか嬉しかった。

 ラズさんは流石にそれは……と難色を示したので、私たち3人で森に出発するときに、アル君に大きく手を振って入っていったのだった。


(ふふふ、アル君の戸惑った顔が可笑しかったな)


 私たちは1日かけて森の中ほどに作られた中央広場まで移動して集合し、そこを拠点にして1班は、そこから更に西の方角で活動をするらしい。


(拠点のテントはアル君のいる第4班の隣だったので、夜警の時にでも話ができればいいな)


 研修2日目の狩りは、魔物の数も少なくて何も問題なく終えることができた。

(魔物を倒した時に、胸が一瞬熱く感じたが、あれはいったい何だったんだろう)



 研修2日目の夜。私とミラとで途中で起きて夜警を行った。その際に、アル君がちょうど4班の夜警を行っている様だったので、小さく手を振ってみた。

 暫くすると、アル君がこちらの方に歩いてきた。


(気付いてくれてたんだ)


 私は無意識にアル君の方向に歩き出していた。


「こんばんは、エミー。眠くはないかい?」


 アル君がヒソヒソ声で話しかけてきた。


「うん、さっき起きたばっかりだから、眠くはないよ。アル君は夜警のほうは大丈夫なの?」

「ああ、一緒に夜警をやっていたエドが、『こっちは任せてくれていいから、行ってきなよ』って言ってくれたんだ」

「エドワード君っていい人なんだね」

「そうだね、ブリストル辺境伯の息子だから地位が高いのに魔道科の俺にも対等に話をしてくれる。気さくでいい奴だね。いろいろ助けてもらってるよ」


(私たちもメグという高貴すぎる家のお友達が出来たけれど、アル君もこの魔道学園でいいお友達ができたようだね)


「エミーたちは、西の森で狩りをしているんだよねえ」

「うん、そう」

「西の森も魔物の数は多いの? 俺たちの活動する北の森は小さい魔物ばっかりだけど数がたくさんいてねー。魔石を取り出すのが大変だよね?」

「え? そうなの? 西の方はね、そんなに沢山の魔物は出てこないんだよ。魔物の種類はネズミ系が多いかな。魔石はウィルさんがあっという間に回収してくれるから、私たちは殆どやってないんだ」


(北の森は魔物の数が多いらしい。私たちは西の森で比較的楽をさせてもらっているみたいね。でもこれって4班にだいぶ遅れをとってるって事だよね)


「明日あと1日だから、お互いに頑張ろうな」

「うん、アル君も気をつけてね」

「おう」


 そう言い合ってから、それぞれの持ち場に戻った。


(さあ、明日は討伐研修の後半だ。アル君と話が出来て元気になったから、気合い入れていくわよ)


 次の日、私たち第1班は魔物討伐の場所を少し変えてみようかというウィル君の提案で、皆で話し合った。


「で、魔石の数を昨日よりも多く確保するために、5キタールほど先まで足を伸ばそうと、そういう事ですのね」


 第4班の魔石の話は私も聞いた。第2班も魔石の数は私たちの第1班の倍近くに上るそうだ。


「うん、そういうことだ。俺たち1班の魔石の数は現在15個、それに対して第2班の魔石の数は既に38個を集めたらしい。だから少し先まで行って名誉挽回できたらいいなって思っているんだよ」


「でも、少し先まで行ったところで、魔物の数は増えるのかしら?」

「それは正直分からない。しかし、行ってみる価値は十分あると思うんだ」


「仮に、魔物の数が昨日より倍近くまで増えたとしても、現在の戦力で十分だと思うわ」

「それはわたくしもそう思いますが、そうですね……それでは魔物の数が増えた場合でも魔石の数には拘らずに、時間が来たら撤退するという条件であればよろしいと思いますわ」


「班の成績は、魔石の数だけじゃない」

「そうね、ミラが言う様に魔石の数が多くても危険を冒してしまったら評価は下がると思うし、チームがまとまって危険をうまく回避する方が評価は上がると思うわ」


「じゃあこうしよう。時間にして1時間分、それ以上は先へは進まない。そして魔物の数が増えて、対応が難しくなってきたら、無理をせず撤退してここへ戻る。それでいいかな?」


 こうして、私たち1班は、昨日までの場所からもう少し先に進むことにしたのだった。


◇◆◇


 今日も北の森は魔物が多い。昨日の夜、エミーが言っていたことが気にかかるので、他の班の生徒にも魔物の数を聞いてみた。


 すると南の森の第2班も魔物が多いのだそうだ。しかし、東の森の第3班は良く分からないが、少ないんじゃかいかなという反応だった。

 2班と4班の数が多いのに、その間の1班と3班の魔物の数は少ないのが不思議で、どうしても気になる。


 前に、ルナの迷宮に潜った時に、リアナさんたちから教えてもらったことがある。

 『いつもは現れない場所に現れる場合や、いつもとは魔物の数が違う場合、気を付けた方がいい。何かの異変の前触れかも知れないから』と

 彼女が言っていた言葉が頭をよぎる。


 俺は、4班のエドと他の3人にも話をしてみた。


「俺は冒険者の先輩に、魔物の数がいつもと違う場合は気を付けた方がいいと教えてもらったことがあるんだけど、各班の魔物の数の話を聞いて何かおかしいと思っているんだ。先生も俺たちの魔石の数がこれまでで一番多いと言っていただろう?」


 他のみんなも、俺の話を真剣に聞いてくれている。マリーさんはその後、俺にツンツンした感じはない。単に恥ずかしかっただけの様だ。


「……そこで俺は今日の討伐は途中で中止して、中央広場で待機することを提案したいと思う」


「……確かにね、アル君のいう事は間違っていないと思う。私の父からもそのような事を聞いたことがあるよ。ロブ、君はどう思う?」

「俺は構わないさ、もし危険があるのだったら、それをうまく回避することも評価のポイントになるだろうからね」

「わたしたちも、それで構わないわ」


 皆の意見が一致したところで、俺たちは昼前にテントのある中央広場まで戻り、先生たちにも相談することとした。

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