第28話 再び王都へ
「マルコさん、この3年間いろいろとお世話になりました。色々ありましたけど、有難うございました」
「いやー、本当だよアル君! まさか国王様に謁見をすることになるとは、夢にも思っていなかったよー」
ごめんなさいマルコさん。実はマルコさんには言えなかったことが沢山あったので、突然の事でほんっとうにごめんなさい。
「お兄ちゃん、魔道学園を卒業したらまた戻ってこられるんでしょ? 私待ってるよ!」
「お兄ちゃん、また美味しいお菓子をたくさん作ってね! 私待ってるよ!」
(二人の「待ってるよ」は、若干意味が違っているのだが、気にしない、気にしない)
「無事に卒業したら、必ず戻ってくるよ」
「体を大事にするのよ」
「エレノアさんも。マルコさんにはだいぶご心労をお掛けしましたから、これからはご主人を労わってください」
「あらやだわ、アル君にそんな事言ってもらえるなんて。でも、旦那様にはもっと働いてもらわなきゃぁねぇ」
「アル君の発明権料が結構なもんになっているから、程々にやるよ」
(そういいながら、頑張るんだろうな。頼まれたら断れないマルコさんだからね)
最初に孤児院を訪問し、シスター長に挨拶をした。
「アルフレッドさんいらっしゃい、いろいろと活躍されているようですね。今度は王都の魔道学園に入学されるのですか。どうか、体に気を付けて頑張ってくださいね」
「ありがとうございます。何とか頑張ってきます。あとお聞きしたいのですが、ジムがいまはどうしているかご存じですか?」
ジムがその後、どうしているのか聞きたかったのだ。
「ジェームスさんはね、アルフレッドさんのご活躍を聞いて励まされたのね。見習い騎士団の試験に無事合格されて、この春からは騎士団に入団が決まったそうよ」
「おお! そうですか。ルノザールに行くことがあれば、会えるかもしれないですね」
「どうかしらねー、騎士団って結構規律が厳しいみたいだから、簡単には会えないかもしれないわねぇ」
「騎士団って、自由行動が出来ないって聞きますもんね、ありがとうございました」
俺はシスター長に頭を下げて次の訪問先に向かった。俺たちの名前を『さん』付けで話してくれたシスター長が印象的だった。
ジムも頑張っているようで何よりだ。
この3年間、商業ギルドや冒険者ギルドに入り、いろんな人にお世話になった。出発前にそれぞれのギルドに向かって、お世話になった人たちに出発の挨拶をして回る。
「ヴァルターさん、この3年間いろんなことがありましたが、大変お世話になりました」
「ほんとだぞアルフレッド君、俺は何度も胃が痛い思いをしたぞ!」
「ほんとにすみません」
俺は最敬礼をした。
「王都に行っても、君はいろいろとやらかすんだろうな」
(遠くを見つめて、言わないでください)
「ガレットにもちゃんと挨拶して行けよ」
ガレットさんにもだいぶお世話になった。金属の加工ではとにかく助かっているのだ。
「はい、かなりお世話になったし、ちゃんと挨拶していきますよ」
ガレットさんに合いに行こうとして、冒険者ギルドを出たところで誰かに急に腕を掴まれた。
「っ!!」
そのまま、建物の裏まで連れていかれたのだ!
(新手の誘拐犯か? って、リアナさんじゃん)
「アル君 今日、王都に発つんだよねぇ」
「はい、今皆さんに挨拶して回ってるんです。どうしたんですかリアナさん」
わざわざ建物の裏まで引っ張ってきて、どしたのだろうか? と思ったその瞬間。
「!?」
リアナさんの唇が俺の唇に重ねられていた!
「ヲゥ?」
(そのまま、リアナさんは腕を背中に回して抱きしめてきた。もしかして酔っぱらっているのか? ……それにしてはアルコールの匂いがしないが)
「アル君、わたしアル君の事が好きみたい」
ええっ? まさかの言葉に俺は息をするのを忘れてしまった。
「初めて会ったときは、子供らしくない歳下の子だなって思ってたんだけど、一緒に魔道具の開発を手伝ったりね、迷宮に入ったり、スタンピードでは魔物に対し真剣に立ち向かう姿なんかを見ていたら、私、アル君のことがいつの間にか好きになってたんだ」
「えっと、俺はまだ12歳ですよ?」
「うん、でも、アル君は私の背丈とほぼ同じになったし、これからはきっと追い越される。12歳って思えないほどの、落ち着いた雰囲気や優しさを持ってるアル君が、私は好きなの」
落ち着いていると言われれば、追加された知識を足すと多分40年間分ほど生きた分の知識がある。落ち着いてない方がおかしいのかもしれない。
「アル君と一緒に王都に行きたいけど、私はこの町でしか生きていけないの。……冒険者だから」
この町は冒険者のために有るような町だ。王都に行けば、冒険者の仕事は極端に減ってしまう。
「だから、今の私はアル君にこの気持ちを伝えるだけでいいんだ……」
「リアナさん……」
「私のこと、忘れないでね……」
リアナさんはまた唇を寄せてきた。今度は少し震えているのが分かる。
「……!?」
彼女が唇を離した時に、俺とリアナさんは一瞬目が合ったが、リアナさんはそのまま走り去ってしまった。リアナさんの瞳は薄く涙が覆っていた。
いきなりの衝撃的な体験に、俺は成す術もなく立ち竦んでしまっていた。
◇◆◇
ガレットさんの鍛冶屋に行けたのは、気持ちが落ち着くまでしばらく待った後だった。
「おう、アル坊か。今日発つのかの?」
「はい、今日までいろんな魔道具の開発に携わっていただいて、本当にありがとうございました」
「おうよ、さすがに魔道ライフルなんかにはびっくりしたぞい」
「王都でも、魔道具の開発を頑張ろうと思っているんですが、今後も何かと手伝ってもらえたら嬉しんですけど」
「そうよの、手伝ってやりたいのは山々じゃがの、王都までは距離があるでの。紹介状を書くんで、王都におるわしの同胞を訪ねるといいの」
ガレットさんは、あご髭を触りながら提案をしてきた。
「同胞、ですか?」
「そうよ、わしらドワーフは、鍛冶を極めた者が森から出て色んな町で鍛冶屋を営んでおる。王都にも森から出た腕のいい同胞がおるぞい」
「分かりました、ではその同胞の方を訪ねてみます」
「名はトラビンというの」
「分かりました。ありがとうございます」
「おう、急ぎの仕事じゃなかったら、たまにはわしにも仕事をくれんかの」
「はい、是非そうさせてください」
◇◆◇
俺は、定期馬車に乗ってルノザールの街を目指した。ルナの町を出るのが遅かったため、ルノザールに着いたら辺りは既に暗かった。
「エミーとミラは、領主館にいるんだろうけどな」
この時間じゃ領主館からは出られないだろうと、連絡するのは諦めて俺は宿を探した。




