第27話 国王との謁見
謁見の日の当日、俺たちは伯爵様とは別の馬車で王宮に向かう事になった。歩いて行ける距離なのだが、馬車で行かなければならないらしい。
王宮の中には、簡単なチェックですんなり入れた。
謁見の時刻の1時間前に王宮に入り、俺とマルコさんは待合室で待つこと約30分。官僚らしき人と一緒にルノザール伯爵様が待合室に入って来た。
「そろそろだ、謁見の間に移動するよ」
俺たちは二人の後に付いて行き、豪華な作りの謁見の間に移動した。
「お二人はここに座ってお待ちください。先に貴族の方々が入ってきて両側に並びますが、その間はそのままでよいです。その後陛下が入られるので、お二人は椅子から降りて膝まづき、頭を下げてお待ちください。陛下への挨拶は私が指示しますのでそれまでお待ちください」
謁見の間に椅子が用意されているなんて初めてたけど、親切な王様なのかもしれない。
(隣を見ると、マルコさんが今にも倒れそうな青い顔をしているが、大丈夫か? 汗拭いてあげようかな)
椅子に座って少しすると、後ろの門から官僚や貴族と思われる人たちが入って来た。
(お、昨日挨拶した騎士団長のえーと、れ、レオノールさんだ)
騎士団の方たちも何名かいるようだ。
俺はあまりきょろきょろせずに、顔は前の方を向いて目だけを動かす。
皆さん、俺の方を見ながらヒソヒソと小声で話をしている様子だ。俺たちに説明をしてくれた官僚風の人が、前の方に立った。
「これより、国王陛下が入場されます」
そう言って、俺たちに目配せをしてくる。周囲は一瞬で静かになり、俺とマルコさんは言われた通りに椅子から降りて膝まづいた。
程なくして、グランベール国王らしき人とその他に数名が入場してきた。頭を下げているから何人かは良く分からない。
「陛下はご着座なされた。召喚に応じた者より挨拶を述べられよ」
「!…… こ、国王陛下、本日はお目にかかれて光栄に存じ上げます。私はルナの町で魔道具師をしておりますマルコと申します。そして、これにおりますのは……」
「国王陛下、本日はお招きいただき、誠に有り難うございます。私は、魔道具師マルコさんの元で奉公をしております、アルフレッドと申します」
「ほう、二人とも面を上げよ。さて、この度のルナ迷宮のスタンピードの際は、そなたらの働きによって一人の犠牲者もなく収束させられたと聞いておる。誠に大儀であった」
(マルコさんは関わっていないんだけど、俺を指導したという形になっているのかな。これ多分、かなり恐縮してそうだなあ。横目でチラッと見たところ、やはり大粒の汗をかいている)
「して、魔物を一気に倒したとされる武器についてだが、こちらに持って来ておるのだろう?」
「それについては、私から申し上げます」
どこからともなく、出てきたのはルノザール伯爵様だ。
「こちらがその武器にございまして、予てから陛下よりルナ迷宮の脅威に対応するよう指示を頂いておりましたものを、私がここにいる魔道具師に依頼して開発させたものでございます」
「おお、では早速その威力とやらを、今すぐ見せてもらえんか」
「陛下! ……まだこの者たちへの褒賞が決まっておりません」
「宰相、それはその後でよいではないか、今すぐに行くぞ。レオノール、案内せよ」
ああ、あの官僚みたいだった人、この国の宰相さんだったのか。それにしても無茶ぶりが好きな国王様だな。宰相さんも頭痛そうだ。
「アルフレッド君、すぐに後を追うぞ!」
伯爵様も珍しく慌てているようだ。陛下は騎士団長さんを連れて、謁見の間から出て行ってしまった。
魔道ビームライフルを騎士さんに持たせて後を追っている。集まっている貴族の方々も、『とりあえず後を追おう』とぞろぞろ外に出て行く。
騎士団の訓練場までは、歩いて10分ほどだ。俺が競技場に着いた時には、騎士団長さんが陛下に色々と説明をしている最中だった。
貴族様たちは、騎士によって見学ルームに案内されているようだ。
「では、これからこの新しい武器の披露を行います。この武器は“魔道ビームライフル”と言いまして、これ1つで向こうに立てている標的の全てを、短時間で破壊することが可能なのです」
(てか、標的の方を見ると昨日とは違って、標的がめっちゃ増えてるじゃん)
列は50m間隔で4列に増えているし、放射状に並べてある。
(あ、向こう側の壁には鉄板みたいのものが貼ってある)
「これより、私があそこに多数立てております標的をすべて破壊してご覧に入れます」
騎士団長は中央まで歩いて行って、構えの姿勢をとった。
そして彼がトリガを引くと、起動の電気音のあと、青白いビームが発射されて「バリバリ」と音をたてながら標的を木っ端微塵にしていく。
騎士団長さんもその後練習をしたらしく、ライフルを左右に振ってあっという間に全ての標的を弾け飛ばしてしまっていた。
「「おおーーーーーっ!」」
全ての貴族様たちが立ち上がって驚き、そして拍手喝采が鳴り響く。
それを見た陛下の口角が一瞬上がったのを、俺は見逃さなかった。
「この武器の威力は、今見てもらったとおりである」
陛下が徐に、貴族様たちに向かって話し出した。
「そしてこの武器は、私がルノザール伯爵に指示を出し、ここにいる魔道具師が英知を絞って作り上げたものである。そこで、この者らへの褒賞は私の一存で決めたいと思うが、それでよいか」
「依存のある者はおりますまい」
(凄いな、陛下の有無を言わさぬ物言いに、宰相さんが直ぐに畳みかけに入った。褒賞って何だろう、なんか怖いな)
◇◆◇
ここは、王宮の中にある客間の一つだ。俺は今、国王様、そしてそのご家族様とご対面中だ。
(どうしてこうなった?)
「楽にしてくれアルフレッド君。もう謁見は終わったからね、畏まる必要は無いよ」
(なんだこのギャップ、この国の王様ってフランク過ぎないか?)
「あ……、はい」
「こっちにいるのは、第3王妃のキャサリン、そしてこっちはキャサリンの娘、第1王女のマーガレットだ。君がもうすぐ13歳になることと、魔道学園に入学したいという希望があることはルノザール伯爵から聞いてるよ」
(そんなこと、領主様にいつ話したんだっけ? あ、もしかしたらギルド長か?)
「君は若くして様々な魔道具の修理を難なくこなし、魔道コンロや魔道冷蔵庫という、生活にとても便利な魔道具の開発も手掛けている。王国としては君の様な才能のある人材を、何としても確保したいと思っている」
(才能があるかどうか分からないぞ。全てMRがやっている事だからね)
「しかし、君の意思を無視する様なことはしたくない。改めて聞くけど、君は今後どうありたい? どのような事をしたいんだい?」
(俺にはまだはっきりとした目標は無いが、魔道具の研究は続けていきたいな)
「私は、魔道具の研究や開発をこれからも続けてゆき、人々が幸福になること、人の命を守ることに繋げていければいいなと思っています。そのためには、魔道学園に入って魔道具の研究をしたいと思っています」
ちょっと格好をつけた言い方をしてしまった。
「良く分かった。私の方からは君を優待生として待遇するように魔道学園に働きかけておくよ。それと、ここにいるマーガレットも春から魔道学園に入学することになる。どうか仲良くしてくれないかな」
(ここにきて、知識の中にあるテンプレキター。第1王女のマーガレットさんは、金髪の巻き髪で碧眼のお姫様だ。お母さんに似ているみたいだが、金髪巻き髪というのは王家の絶対要件なのだろうか?)
「マーガレットですわ、よろしくね」
「アルフレッドです。よろしくお願いします」
弱冠12歳の平民の俺に、王女様のお知り合いが出来てしまった。
第二章 あとがき
今回でルナの町を拠点とした物語が終わります。ここまで読んでいただいた方には大変ありがたく心から感謝をいたします。
次章からは王都エルテルスの魔道学園に入学することになるアルフレッド。きっと新しい友達との出会いや、興味深い先生たちとの出会いを経験することになるでしょう。どうかご期待ください。そして、これからも読んでいただければ嬉しいです。
 




