第102話 武器の納品
今日は、王国から依頼された武器やスクロール類の納品をする日だ。
途中で紆余曲折はあったものの、何とか2カ月ぎりぎりで納品まで漕ぎつくことが出来た。
「俺たち4人で各テーブルに品物を置きますので、検品の方を宜しくお願いします」
俺は魔道ライフルと、魔道ロッド。ジムは魔道大剣と、魔道ビームライフル。
エミーとミラは軽くて量の多いスクロール類を、王宮騎士団の訓練所に並べてあるテーブルの上に置いてゆく。
「一応これで、注文をいただきました魔術スクロール合計1600本、魔道大剣50本、魔道ライフル100挺、魔道ビームライフル100挺、そして魔道ロッド50本それぞれ納品となります」
数が半端ないので、検品にはそれなりに時間がかかった。
「ご苦労だったね、アルフレッド君。ちゃんとお願いした期日までにすべてを揃えてくれるなんて凄いじゃないか!」
「陛下からは『少し日数が超過しても、多めに見てやってくれよ』と言われていましたからな。いやはや、たいしたものですなぁ」
「陛下や宰相閣下のお力添えがとても有難かったですし、製作に関わってくれたスタッフも真剣に取り組んでくれたからこそ、何とかやりきれたのだと思います」
宰相さんからの紙の提供が無かったら無理だったし、陛下はそれらについて見ないふりをしてくれた。
ガレットさんとガクッグ親方も毎度となく酒は呑んでいたようだが、スケジュール通りに鍛冶仕事をこなしてくれた。
毎日屋敷に来てくれたマルコさん、何も不平を言うことなく同じ物を作り続けたトラビンさん。そんな皆さん方に感謝している。
宰相さんが人選してくれたエレンディルさんとノーラさんには最初は少し心配したが、二人とも優秀な魔道具師だった。
「ジム、エミーにミラも。みんな頑張ってくれた。手伝ってくれて本当にありがとうな」
「何言ってんだよアル」
「他人行儀なこといわないでよ」
「みずくさい」
この4人が一緒にいなかったら本当に無理だったのだ。
兎にも角にも、すべての納品が終わって肩の重荷が急に軽くなった気分だ。
財布の中身も一気に増えたので、暫くは何もしないで気楽に過ごすことを考えたい。
「本日納品した魔道具の数々は、スクロールを除いては騎士団の方で性能確認をされると助かります。間違いは無いと思いますが、何かあった場合にはすぐに対応しますので連絡をお願いします」
「そうですな、ノーマウント邸にも魔道宅配便を1つ設置いたしましょう」
魔道ドアの設置の旅で使用した魔道宅配便は既に返却している。
「彼のところには、ドアがあるのだから何かあったら行けば早いではないか」
「陛下、そういう訳には参りますまい。ノーマウント騎士爵にも都合があるのですから」
「そんなものか?」
「そんなものです」
(宰相様ありがとう)
屋敷への魔道宅配便の設置が決まってしまったが、個人的には携帯電話みたいなものがあればいいなと思ってしまったのはまだ内緒だ。
(通信の魔道具を改良して出来ないか? ちょっと暇な時に考えてみようかな)
◇◆◇
「という訳で、今日から3日間、エイヴォンまで遊びに行きたいと思います」
ジムがエルミンスターへ魔道大剣の指導で呼ばれているのが4日後。4人が一緒に揃って過ごせる時間は3日間しかないので、海遊びが出来そうなエイヴォン地方に遊びに行くことになった。
通常は、ルノザールからエイヴォンまでは馬車で10日間かかるところだが、魔道ドアが設置されているので一瞬で移動ができる。
折角だから利用させてほしいと宰相殿に相談したら、アルフレッド卿であればどこに行くのも許可をとる必要は無いと仰ったのだ。これを利用しない手はない。
「私たち4人だけで行くの?」
「メグも連れて行きたい」
「あー、王女殿下は急に言っても無理なんじゃないか?」
「でも、エルミンスターの領主様は伯父さんになるんでしょ? 誘ってみてもいいんじゃない?」
「そうだったね、お母さんの実家だから行きたいかも。魔道宅配便で手紙書いてみるか?」
「それがいい」
4人だけで行くのかと聞かれたが、リサちゃんの事を言いそびれた。メグと国王陛下への手紙を宅配便で送った後、俺はその事を切り出した。
「あと、2階の部屋に寝泊まりしているリサちゃんが1人では寂しくなると思うから、彼女も連れて行けないかな?」
「それがいいよ。実家に帰すのも、可哀そうだもんね。彼女にも話はしているんでしょ?」
リサちゃんには事前に話をしているから、荷物の準備はできている。
もしも「その間は実家に帰しましょう」とか言われたらどうしようかと、内心ヒヤヒヤものだったのだ。やっぱりエミーは鋭いな。
「じゃあ、リサちゃんを呼びに行ってくるよ」
2階に上がってリサちゃんを呼びに行くと、彼女は嬉々としてついてきた。
(腕組むのは、応接間に入る前にやめてください、エミーが膨れるから)
『ピーッピーッピーッピーッ』
応接間に入ると同時に、転移室の魔道具がアラームを鳴らし始めた。
「メグですわ、私も是非エイヴォンに行きたいですわ!」
(はやっ! さっき送ったばっかりだぞ、宅配便での手紙)
「メグー、随分早かったわねえ。大丈夫だったの?」
「ええ、今回はお母さまが一緒に来ましたのですが、よろしいかしら?」
「「「えっ?」」」
まさかのお母さま同半だ。よくよく考えれば、エイヴォンはメグのお母さんの実家じゃないか。こういう事も想定するべきだった……
「ようこそいらっしゃいました、キャサリン・クラーク王妃殿下」
ちなみに、“クラーク”はエイボン侯爵の家名だ。国王に嫁いだから、王室の家名である“ブラッドフォード”となるのかというと、そうではなく、今だに“クラーク”という家名を名乗っている。
メグも同様に家名は“クラーク”だ。聞くと、『どうでもいいんですのよ』らしい。
「あら、アルフレッドさん。わたくしの事は“キャサリン”と呼んでいただくと嬉しいですわ。そして、皆さんも急にごめんなさいね。メグに付いて来ちゃった!」
(来ちゃった! じゃないだろう。来ちゃったじゃ)
「あ、はい。分かりました、キャサリン殿下」
「うーん、まあそれで我慢しますわね、フフフ」
「ごめんなさいね。皆さんには申し訳ないのですけれど、どうしてもエイヴォンに行きたいってお母さまがお父さまに駄々こねちゃったのですわ」
(あー、その場面が頭に浮かびそうだ)
国王陛下が手紙を読んでいる時、王妃様がたまたま隣にいたため、「私も一緒に行きたい、たまには実家に帰りたい」ってせがんだらしい。
荷物に関してはいつでも王宮を抜け出せるような準備がしてあるのだそうで、決まったらそれを持って一目散に出て来たのだとか。
「エイヴォンに着いたら、私は実家で過ごしますから、あなた方は侯爵家の海辺の別荘にでも行ってらっしゃいな」
エイヴォンから獣人族の村に行く際、海沿いを馬車で走った記憶がある。その途中に砂浜があって、そこに侯爵家の別荘もあるのだとか。
海の近くで宿泊所を探さなければと思っていたが、砂浜の近くの別荘なんて渡りに船じゃないか。
「別荘を利用させて貰えればとても嬉しいです。有難うございます」
「分かりましたわ。私から兄様にお願いしますわね」




