第1話 夜の帳が上がるまえ
長い夜が終わり、東の地平線が仄かに光を帯びてきたころ、この町の入り口にかかる幅広い橋の下で、虹色の光が水面を明るく照らした。
その光が消えたあとに、徐々に輪郭が見え始めてきたのは、眼は開いてはいるが泣きもしない不思議な赤ん坊だ。
生まれてひと月ほどは経っているかのようで、その色が茶色と判る程度には十分な髪が生え揃っている。
橋の下には、水面から一段高くなった位置に川と並行して道が作られている。
二人が並んで通ることのできるこの道は、昼間は格好のデートコースで人通りもあるが、この時間は静寂そのものだった。
暫くして、ふたつの黒い影がどこからともなく現れた。影は、その場所を通り過ぎようとしたが、ニコニコと愛想を振りまく赤ん坊を発見して静かに立ち止まる。
ふたつの黒い影はお互いに目配せをすると、ひとつ目の影が持っていた大きめの籠を赤ん坊の横に置いた。
敷いてあった毛布を使って赤ん坊を包み、籠の左半分に収める。
手を出した状態なのは、その赤ん坊の左手に黒っぽい輪っかが握られていたからだ。
そして、ふたつ目の影が抱えていたのは別の赤ん坊だった。この赤ん坊は眠ったままの状態であり、籠の右側の半分に収められた。
ふたつ目の影は懐から何かを取り出して、この赤ん坊の包みの中に入れた。
そして、ふたつの影は片膝を立てたまま暫し祈りを捧げる。
次の瞬間、籠の中で仲良く並ぶ赤ん坊達を置いたまま、ふたつの黒い影は音もなく消えていた。
そして長い夜は明けた。